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キレイの定義  作者: 他紀ゆずる
転編
62/80

2 襲撃者は愚痴る

 エイリスとの平和なお茶会は続いていたのだけれど、ふいに聞こえた羽音に会話が途切れる。

 翼があるとは言え、一応の礼儀として正面玄関からの訪問が天使や悪魔の常識で、位の高い貴族ともなると魔力車も使わず移動することはまずありえない。

 お隣同士で浅からぬ縁のあるわたしの旦那様達はフランクに庭から庭へ移動してくるけれど、基本はありえない筈のこの方法で来客はないはずだ。

 となれば。


「やっぱりレリレプトさん」


 ふわりと庭に降り立ったのは、既にセット扱いのリーリアを腕に抱いた悪魔屋敷の護衛、レリレプトさんだった。

 相変わらず外出時は目から下を布で覆った暗殺者スタイルで、灰色の翼をしまう姿は迫力満点である。


 因みに混じり子の翼は黒い羽根と白い羽根がまだらに生えているので、遠目には灰色に見えることが多いです。

 なんで『多い』のかと言えば、彼等の持つ能力と一緒で個体差が激しいから。ほぼ白い羽根とか、ほぼ黒い羽根って人もいるんだって。

 レリレプトさんは能力といい翼といい、非常にバランスよく受け継いだ代表選手みたいな存在だってジャイロさんは言っていました。


 ま、今はそんなことどうでもいいんですけどね。


「どうかしたましたか?」


 最近、翼を使って短い距離を飛ぶことがお気に入りのリーリアが腕の中に落ちてきたのをキャッチしながら、レリレプトさんに前触れもなく訪れた理由を問う。

 こっちの館でお茶を飲むので行きましょうと誘った時、お昼寝をするから行かないと断った2人が、1時間足らずで現れるなんてとてもおかしいことなのだ。なにしろこの人達、いったん寝ると3時間は起きないんだもの。フリーダムすぎて、お母さんは心配ですよ。


 そんな彼等が急に現れて(リーリアの機嫌が悪いとか、怖い夢を見た程度ならレリレプトさんが何とかしてしまう)理由がないわけがないと確信して問えば、案の定、不機嫌に少々眉根を寄せた彼が答える。


「客だ。隣国の、悪魔」


 元々言葉数の少ない人ではあるけれど、物言いはそうきつくなかったはず。なのにぶつ切りの言葉が、不機嫌が少々レベルでないことを表していた。


「スローネテス様がいらしたのですか?」


 なんだか悪い予感がして黙り込んでいると、テーブルに集まってきたアゼルさん達がレリレプトさんの報告を引き取ってくれた。


「ああ」

「変だね。人間が現れてあの国の要人は今、いろんな意味で忙しいはずなのに」

「魔術師共の後押しでもしに来たのではないか?その人間の使えなさに音を上げて」

「まさか。ならば他国に来る前に、自国で人身御供でも作るでしょう。質はともかく無限にエサを供給できる血統であることに変わりは無い。伴侶は無理でも子を成すことはできます」

「あら、酷いこと言うのね。それって人間に対しても同族に対しても精神的苦痛を伴うんじゃない?」

「あちらの人間は知りませんが、同族は…そうですね、だからスローネテス様がみえたのですか」

「そうか。純血に煩い保守派が大勢を占めていたっけ、ハイジェントは」

「人身御供に、これまで優遇してきた彼等を選んだ、そんなところでしょう」

「吐き気がする思想だな」

「つい最近まで、我が国の王も同類だ」


 エイリスも交えてスタートした議論は、あっという間にスローネテス様の訪問理由を導き出してしまったらしい。ついでに、今はもうこの世にいないだろうあの王様の悪口まで言って、終了。

 でも、でもです。


「すみません、わたしにもわかるように説明してもらえないでしょうか?」


 1人、内容について行けなかったわたしは、恥ずかしながら周囲を見回して説明を求めたのでした。

 リーリアがよしよしと、小さい手で頭を撫でてくれたことが、本気で居たたまれませんでした…。




 要約していただいた旦那様方推論は、只今正面で渋いお顔で座っていらっしゃるスローネテス様によって、裏付けされ、正答になりました。

 訪問理由、それはいつまで経っても決まらない人間の繁殖相手|(伴侶では決してありません)に業を煮やしたハイジェントの上層部が、みんなが嫌がるなら人間の血が混じっている一族に押しつければいいと言いだしたから、なのだそうです。

 しかもピンポイントでスローネテス様ご指名ですって。どうやら、わたしと結婚できずリーリアまで連れて帰れなかったことを失態と言い張って、厄介事を押しつけて丸く収めようとしてるとのこと。

 小狡いおじさん達です。


「全く、とばっちりもいいところだ。勝手に人間なんぞを喚びだした魔術師の罪を問う前に、我々にあんな女を押しつけようなどと…」


 メトロスさん達のお屋敷で開かれている臨時会合が始まってからこっち、スローネテス様の悪口とも悪態とも吐かない呟きは止まらない。

 上層部のことはぼろくそ言っているし、人間さんに関しては嘗てわたしに吐いた暴言が褒め言葉に聞こえるほど、聞くに堪えない言い様なのだ。

 人権侵害と放送禁止用語の連発なんですけど、本当に貴族のお生まれなんですか?

 訝しみながら正面のスローネテス様を見ていると、はたと視線が合ってしまった。


「ミヤが女神に見えるな」

「めめめめめ、目医者に!いいえ、エイリスに診て貰って下さい!!」


 ぽつりと零された呟きに、彼がどれだけ追い詰められているかを知る。でも、不似合いなセリフまで吐かれると、恐怖しか感じないのです。思わず魔女を差し出しちゃいます。

 怯えて隣のサンフォルさんの腕にしがみつくと、宥めるように背を撫でられた。


「安心しろ。落ち着けばスローネテス様もあのようなことは言わなくなる」


 …とっても、優しい声音なんですがね、どうしてこうひっかかるモノがあるんでしょうか?

 思わず頬を引き攣らせると、逆側から伸びてきた腕がわたしを攫って自分の腕の中に閉じ込めてしまう。


「サンフォルが自分の弟だってことが、たまに本気で信じられなくなるよ。なんでそう無神経なのかな」

「どういう意味だ」

「そのままの意味。君の言い方だと、ミヤが女神に見えることなんてあり得ないって言ってるのと、同じじゃないか。彼女は僕たちにとっては女神なんだけど?」


 察しの悪い兄弟に噛んで含めるよう言い聞かせたメトロスさんは、同意を求めるために両隣のソファーに視線をやって、悪魔の旦那様方からも大きな頷きを引き出した。

 これでやっと己の失言に気付いたサンフォルさんは、慌ててわたしに向き直るとそんなつもりでなかった旨を必死に伝えてくれるので、笑って許してさしあげました。上から目線で済みません。


 でもね、たまに泊まったりする(基本的にわたしの家がお隣なのは妊婦になっても変わりません)関係になってわかったんだけど、サンフォルさんはごく希に考えなしな発言をするのですよ。本人に全く悪気はないんだけど、言われた方の弱点を抉っちゃうようなことをね、言うんです。

 大抵はこうして周囲が庇ってくれるのでわたしの傷は浅いんだけど、容姿に関してはあれやこれやとトラウマ持ちな分、過剰に反応します。あしからず。


 話しはずれましたが、ともかくスローネテス様が本気で参っていることに違いは無く、別方面でエイリスやジャイロさんが迷惑しているのもまた事実。

 それもこれもどうやら全ての元凶は、あちらにいらっしゃる人間さんのようなのですけど、やっと直接の情報源に恵まれたので、これは聞きたかったあれこれを質問する言いチャンスなんじゃないでしょうか。


「では対抗策を考えるためにも、噂の人間さんについて詳しく教えていただけませんか?」


 身を乗り出してスローネテス様を促したわたしの心は、心配2:好奇心8の割合でとても打算に満ちていたけれど、弱っている悪魔にとっては渡りに船だったらしい。

 それまでは小声で吐いていた悪態を、彼はみんなに聞こえる音量で披露し始めたから。


「まず、コジマ・ユウナは打算に満ちている。子を成して欲しいと願うこちらの弱みにつけ込んで、食事は最高級のモノを望み、派手な衣服を揃えさせ、宝石をねだる。伴侶候補の男も自分で物色するために朝早くから王宮内を娼婦のような格好で彷徨き、文官や騎士の手を煩わせる、異性は罵る、やりたい放題だ。それでも見た目だけはミヤの数倍美しいから初めの頃はそう苦情も出なかったのだが、最近ではあの娘を部屋に押し込めておくために、常に若い男を数人傍に置いて機嫌をとらねばならぬ始末。そのローテーションに最も多く組み込まれるのが私なのは、一体どういう理由だ?なんの嫌がらせだ!!」


 その後、スローネテス様の憂さ晴らしを兼ねた悪口は30分ほど続きました。

 自分で聞いといてなんですが、もう少し手短にお願いしたかったです、はい………。



  

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