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キレイの定義  作者: 他紀ゆずる
転編
61/80

1 とりあえずの現状報告

 妊婦さんになるのも2度目です。

 1度目はそりゃあもう、本人も周囲も初めてづくしですので、当然狼狽えたり過保護になったり大変な騒ぎでした。

 しかし、2度目です。しつこいようですが2度目です。慣れるものなんですよ、人間って。


「ミヤっ庭に出たりしちゃダメだろう!」

「えっ?どうしてですか」

「風が冷たい。今日は大人しく室内でお茶を飲むべきだ」

「いえいえ、昨日もその前もそんなこと仰ってませんでした?2人とも」

「彼等の言う通りです。もう、秋なのですから外出は好ましくありません」

「秋は春と並んで過ごしやすい季節ですけど」

「その油断がいけないのです。貴女は自分を過大評価しすぎなのですよ」


 天使と悪魔は慣れないらしいですけど。面倒通り越してうざったいほど慣れないみたいですけど。


「いい加減になさいな、妊婦は重病人じゃないのよ」


 うんざりとわたしの顔に書いてあったのが見えたらしいエイリスは、庭先で団子状態になっていた旦那様方を邪険に追い払うと、真ん中から引っ張り出したわたしを芝の上に配置されているテーブルまで連れて行って座らせてくれた。

 ついでに大分膨らんだお腹に触れて、母親も娘も十分すぎるくらい元気だと、日課になった診察結果を男性陣に伝えている。

 はい、大方の予想を裏切ることなく、天使のお子さんも娘さんでした。着実に歴史を裏付けているようで、嬉しいような悲しいような、複雑な気分です。


 夏と違い柔らかくなった日差しを楽しみながら、つくづくハイジェントにこの子をとられなくてよかったと安堵しているわたしはすっかりお母さんモードらしい。これじゃあ旦那様方のことをイロイロ言えなかったりするのだけど、それにはちょっとした理由もあったりするのだ。


「…エイリス、こんな時間まで来なかったって事は、また?」

「ええ。また、よ」


 向かいに腰を下ろした魔女は、リワンさんが運んでくれたお茶を啜りながら、長々と溜息をついた。

 現在、お昼をいい加減に過ぎて、お茶の時間である。本来なら午前中にわたしを診て、午後には自宅に戻って得意客を捌いている時間なんだけれど、ここ一月ほどその予定は狂いに狂いまくっている。


 自宅に押しかけているお客さんのせいで。


 追い返しても追い返しても2日と置かずにやってくるハイジェントの使者様は、エイリスやジャイロさんのように魔術師である。訪問理由は、1度反故にした約束を再び有効な物にして欲しいとお願いするため。つまり、おなかのこの子が欲しいと。

 責任者である天使と悪魔がその折衝に来ないのは、プライドが許さないからとかいう理由ではなくて、ただ単に魔術師たちが勝手にやっている裏工作故、なのだ。つまり、人間を喚んだ自分達の責任逃れに他ならない。

 とっても身勝手な話なので、当然エイリスにもジャイロさんにも邪険に追い払われまくっているんだけど、この方たちが素敵に懲りないのだ。


「まだ見つからないの?あっちの人間さんの結婚相手」

「まだよ。もうめぼしい年齢の天使も悪魔も残っていなくて、今じゃ伴侶に先立たれたとかこれから成人するって男性諸氏にまで人身御供にならないか…失礼、貴重な人間と結婚しないかって打診してるんですって」

「…へー、同じ日本人として複雑な気分」


 焼き菓子を摘まみながらジャイロさん情報を反芻していたわたしは、ずいぶん敬遠されているらしい同郷の娘さんに思いを馳せていた。

 茶髪、黒目、コジマ・ユウナ、22才。

 不機嫌に帰国した彼は、あれから召還された人間の情報を集めてくれた。わたしと同じでトップシークレット扱いになっているそうな個人情報は、これだけでも十分すぎるほど貴重である。

 名前だけ聞けば日本人で間違いないと思う。日系何世とかってオチさえなければね。


 で、問題はここから。ジャイロさんが予想した通りの現実が、来ちゃったのだ。

 初対面から悪い意味で全くぶれない行動をとっていたコジマさんは、美しい方の多い天使や悪魔を非常にお気に召して、子供を産んで欲しいと言われるやいなやハーレムを作ろうとしたのだそうで。

 一妻一夫を重んじる種族にたいしてその行動。ある意味すごいと感動すら覚えましたよ。日本人の常識と照らし合わせても、派手なずれっぷりです。マンガみたいな発想のお姉様です。

 肝が据わりすぎで、恐ろしいです。


 勿論その行動に同調する方々はおらず、かといって女性のハーレムを認めている他の種族に貴重な人間を渡せるほどハイジェントの上層部の懐は広くもなく、結局のところ召還から半年以上たった今も彼女は王宮に住まい、訪れる天使や悪魔にちょっぴり感情を与えるだけの生活を続けているのだとか。

 喚び出されてからの半年だけでいうなら、わたしとは真逆の生活を送っている人間さんだけど、あまり羨ましいと思えないのがポイントです。


 だって楽しかったもの、エイリスとの生活。

 ファンタジックな魔法を覚えたり、世界の仕組みを教えてもらったり、色々な種族の人と会ったりできて。

 そりゃあ、アゼルさんやメトロスさん達と暮らせる今の方が生活水準が高いのはよくわかるんだけど、自由という点に置いてはあの頃の方が断然あった。

 体の小ささから子供だと勘違いされていたのはちょっと引っかかるけど、攻撃魔法が使えるから1人で下町をうろついても危険はなくて、露天を冷やかしたり買い食いをしたり、かなり異世界を堪能できたんだ。

 心配性の旦那様達と子供までいる今、気軽にそんなことできなくなっちゃったけど、あれはこの世界を知る上で貴重な体験だったと思ってる。

 だからこそ、王宮でただ半年を過ごしてしまった彼女に、ちょっぴり同情の念を抱いたりしちゃうんだけど。


「全く、連中もどうする気なんだか。むやみに人間を喚び出しちゃって」


 不機嫌に呟くエイリスは、全くそんな気にならないらしい。

 突如現れた貴重な人間を、十分な発言力を持てるように育てようとしてくれた優しさがあったくせに、彼女に対してその手の発言は全然聞かれない。寧ろ遠回しに貶しちゃうくらいだ。

 なんだか不思議で、首を傾げながら理由を問うと、


「それはね、こちらの都合で喚び出されたことについて気の毒だとは思うわよ?でも、我が儘を言いたい放題、好きなことしたい放題で、現在面白おかしく暮らせてるなら幸せなことじゃない。ミヤみたいに大勢の女性と一緒に喚ばれて訳もわからず存在を否定されたわけでもないしね」


 肩を竦めたエイリスは、やっぱり辛辣。でも、今の説明に聞き逃しちゃいけないこと、あったんだけど。


「なんだかその言い方だと、人間さんが1人で喚ばれたみたいに聞こえる」

「そうよ、1人で喚ばれたの。ピンポイントで『綺麗な人間』を馬鹿な魔術師達が指定したんだもの」

「え、人間喚べるの?!」

「喚べるわよ。たくさんの女性を召還する力を一点に集中すればね」


 さらっと何でも無いことのように言ったエイリスは、思わず身を乗り出したわたしにすぐさま釘を刺した。こっちを見据える視線が、この意味わかるわよねって無言でプレッシャーをかけている。

 わかる。わかりますとも。きちんと教えられていますから。

 『女性』の召還は、魔術師達の負担と他世界にかける迷惑を鑑みて、どの国でも年に1度しか行うことができない。

 つまり、今回ハイジェントはその貴重な1回を人間1人のために使ってしまったのだ。愚かにも。


「…わかった。だから魔術師さん達しつこいんだね」

「そうよ。天使や悪魔は人間を切望していたけれど、他の種族を犠牲にすることをよしとはしない。当然独断で大切な機会をふいにした連中を断罪したそうだけれど、人間の血が増えるならと最後は特例として容認したのよね。なのにいざ蓋を開けてみたら彼女の素敵な性質のおかげで伴侶が見つからないんだから、怒りの矛先がどこに向かうなんてわざわざ説明するまでもないでしょ?」


 頷いてお腹に手をやった。

 ジャイロさんが貰ってきてくれたあの紙がなければ、この子は好都合とばかりハイジェントに連れて行かれてしまっただろう。人間の子供がいつ生まれるのかわからない状態なら、保険としての価値が高いから。


「今度、ジャイロさんに何かお礼をしなくっちゃ」


 じわじわわき出してきた感謝の念にそんな言葉を零すと、魔女な羊はにやりと実に楽しそうに笑って見せた。


「あら、お礼ならミヤが私に孫を生んでくれるのがいいわ。猫じゃなくて羊でお願いね」

「隔世遺伝なんて器用な真似、できないから。っていうかそれ以前に旦那さんは間に合ってます」


 テーブルから少し離れた場所で固まっている旦那様達の目が怖いから、その手の話しはやめて欲しいんですけど。切実に。



サブタイトルに誤りなく、ほぼ1本現状説明で終わってしまったことに後悔の念しかございません…すみませんでした(土下座)。

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