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キレイの定義  作者: 他紀ゆずる
承編
58/80

14 死亡フラグがあちこちで立ちまくりです

「とりあえず、前王様を殴りに行きたくなっちゃったんですけど」

 ジャイロさんが旅立って、静寂を取り戻した室内にぽつりとわたしの声が響く。


「ミヤは優しいね。僕なんて殺しに行きたくなったのに」

「私は斬りたくなったな」

 追随して物騒なことを言いだしたメトロスさんとサンフォルさんを、普段なら止めていた気がする。

 でも、今日だけはそんな気になれないんですよ。寧ろ、応援したいです。なんならお隣の旦那様方の手も借りて、全力で叩き潰したい気持ちでいっぱいなんですよ。


 まだ生まれてもいない子供が、どうして人生の選択肢を狭められなくてはいけないのかと、考えるたびに腹が立ちます。それが一個人のくだらない権力欲の副産物だと考えると、許せるわけがないと思うんです。

 悔しくて悔しくて、知らずに噛んでいた唇に冷たい指が触れる。


「噛んじゃダメだよ、ミヤ。悔しいのはわかるけど、そんなことで自分を傷つけても意味はない、痛いだけ損だよ」

「そんなこと?!そんなことじゃないです!わたしたちの赤ちゃんが、生まれる前から自分には無関係な責任を背負わされるですよ?なのにやった本人は責任も取らずにのうのうとしているなんて…っ」

 メトロスさんの優しい声にも言葉にも、綻びを見つけて責めているわたしの行動は、幼稚な八つ当たりだ。わかっているけれど止められないそれを、今度は反対側から伸びた手が優しく抱きしめるって行動で止めてくれる。


「あの男はきっと、無事ではないだろうな。国の中枢を担う機関のトップを全員敵に回し、なおかつ我々公爵家も敵にした。良くて死罪、正当に裁かれればカバール洞窟牢に幽閉だ」

「よくて死罪?牢に閉じ込められるのは、死罪より重い刑罰なんですか?」

「あそこは特別でな。孤島の地下にある迷路のような洞窟なのだが、まず入れられる前に両の翼を力の強い獣人によってもぎ取られ、簡素な衣服1枚をつけて放り込まれる。その後から生物の感情を好んで喰らう巨大な単細胞生物が解き放たれるので、逃げ惑ううちに洞窟の奥へ奥へと迷い込み、心を食われて廃人となるか、飢えて死ぬか。運よく外に出られたとしても、絶海の孤島から翼なしで帰還できた者はいない場所なんだ」


 想像するだけでぞっとする場所ですね…?洞窟に単細胞生物って…巨大なアメーバー?そういえばエイリスの蔵書の中で1度ちらりとお目にかかった気が…。


「ブダラーイ…確か、闇を好み日光に当たると死んでしまう、凶悪な性格の割に大雑把な弱点をもった生き物でしたよね?」

「そう。ついでに食欲旺盛なんだよ。満腹って言葉を知らない連中で、獲物がいたら死ぬまで追い続ける。ま、エサがなくなれば死んじゃうんだけど、それだってため込んだ栄養が尽きるまでって条件付きなんだから、洞窟の天井につくほど大きくなった奴らが絶食して死ぬまで4年近くかかるんだよね」

「…確かに、死刑より嫌です、それ」

「ああ。だいたい刑が確定した罪人は、死罪にしてくれと泣いて懇願するのがセオリーだな」


 だから安心していいと、メトロスさんもサンフォルさんも蕩ける笑顔でおっしゃるんですが、その言い様が優しければ優しいほど、不安です。

 決定、なんですね?前王は、その洞窟へ追いやられることが決定なんですね?!アメーバーのエサ決定?!

 とんでもないことなんじゃないですか、それ?っと怯えるわたしに、ただ、と眉根を寄せた2人はさらに恐ろしいことを言ってのけた。


「翼をもぎ取られる段階で絶命する根性無しがいるから、困るんだよね。あいつ間違いなくそっちのタイプじゃない?」

「それでは減刑されたのと同じことになってしまうからな…執行中だけエイリスに痛みを消す魔法をかけさせるか。我々の魔力の波動では天使や悪魔のジジイ共の目をごまかすのは難しいが、彼女オリジナルの術なら誤魔化せるだろう」

「というか、気づいても何も言わないんじゃない?今回のことでは国中が迷惑被ってるんだし、保守派もかなりご立腹らしいよ」


………怖い、怖いですよ!

 わたしはすっごく怒っていましたが、本気で殺したいとか、よもや拷問まがいの行動に出たいなんて考えてもいませんでした。ちょっとは痛い目を見ればいいのに、程度だったんです。

 なのに、どうして真顔でそんな恐ろしい相談ができるかな?めちゃめちゃ本気ですよね、その顔!


 事実、あーだこうだと話し合うメトロスさんとサンフォルさんの表情に、僅かの緩みもない。まるで重要任務でもこなすかのように至極真面目に作戦を立て合っているのだ。


「もう面倒だからさ、娘達も一緒に送っちゃいなよ」

「洞窟牢へか?妙案だな。手間が省ける」

「いえいえいえ、ダメでしょ、ダメですよ」

「なんで?」

「なぜ?」

 投げやりにうら若い娘さん達まで犠牲にしようっていう企みには、さすがに口を出してしまった。

 でも、なんでとか聞き返されて困っちゃいます。反対するわたしのほうがおかしいみたいな目で見るの、やめて下さい!


「彼女達は何もしてないじゃありませんか!元王様だけで十分だと思いますよ」

「そうかな。母親や取り巻き連中も数人同罪で同じとこに送られるんだから、寧ろ親切じゃない?」

 メトロスさん、めちゃめちゃ普通な感じで、元王妃様も同罪とか、言いました?

 おそるおそるそこの所を確認してみると、至極当然とサンフォルさんが頷く。


「今回の件に元王妃とその側近が数名関わっていることを、スローネテス様から確認済みだ。となれば彼等は元王と同罪として同じ刑に処される」

「えっ?女の人ですよ?洞窟とかアメーバーとかすっごいきついと思うんですけど?!」

「それだけのことをしたんだから、相応の刑に服するのは当然でしょ。それとも何、ミヤの世界では性別で受ける刑が変わるわけ?」

「………変わりませんね」


 よく考えてみれば、死刑制度が健在の日本で、性別により減刑されたとか聞いたことがない。

 つまりは、彼等の言う通りなのです。正しいのは2人の方なんです。

 納得はした、けれどオフィエール様達まで同じ、というのはやっぱりダメな気がしますよ。だって、彼女達はただの恋する乙女だったじゃないですか!

 と訴えると、嫌そうに眉根を寄せたメトロスさんが呟いた。


「だから重罪にして欲しいんじゃないか。僕たちの結婚を邪魔した上にミヤを侮辱するなんて、許されない」

「同感だな。あの女達のせいで、ミヤと共に暮らせるまで1年近く待たなくてはならなかったんだから」


 そんなことで人殺しちゃいけません!

 さすがにそれはないだろうと、ちょっとお説教モードに入ったわたしに懇々と諭された2人は、嵐が過ぎた頃にけれど、とオフィエール様達の未来を語り始める。


「我々はとても誇りを重んじる一族だ。家内に罪人が出れば妻の来ても嫁のもらい手も無くなる。今回の王には2人の娘と1人の息子がいたが、彼等に未来はない。皆、修道士になるしか道はないだろうな」

「だね。特に娘2人はもともと天使族の中でも評判が悪かったから、普通でも婿捜しは難航したと思うよ。何しろイロウス様とゼルロンさんに嫌われまくってたもんなあ」

「へえ、あの方達にですか」


 しみじみと言ったメトロスさんに頷きつつ、ちょっと厳しい感じだったけれど公平そうだったイロウスさんと、陽気すぎでぶっ飛びすぎのゼルロン総団長を思い出して………

「えーっ!!!!!あの、赤毛でめちゃめちゃな性格のおじさんが天使なんですか?!あれで天使?!堕天使じゃないですか、めちゃくちゃ似合わないですよ、天使!!」

 びっくりしすぎて支離滅裂な内容を叫びました。

 だって、見えないじゃないですか、天使に!わっるそうなオーラびしばし出してましたよ、あの方!


 けれど驚くわたしに顔を顰めたサンフォルさんは、声が大きいとかじゃなくもっと別の事で、窘めをくれた。

「ミヤ、どこで堕天使なんて言葉を覚えてきたのかは知らないが、レリレプトの前では言うな」

「…え?あの、どういう意味ですか?」

 堕天使に差別用語的な何かが含まれているのだろうか?

 魔法で言葉を理解できるようになっているはずのだけれど、時々翻訳機能が壊れるのかこうして言い間違いを直されることがある。その中でも今回の堕天使はトップクラスに悪い言葉だったようで、メトロスさんまで難しい顔をしていた。


「堕天使は、悪魔と交わったものを指すんだ。悪魔の中にはこういう表現はないんだけど、何につけてもプライドの高い一族らしい蔑称だと思うよ」

「…知りませんでした…以後気をつけます」

 無知というのは恐ろしい。わたしは自分の記憶にある通り”悪魔になった天使”って意味で使ったつもりだったのだけど、そういう表現自体がないから性能の悪い翻訳機が適当な語句に訳してしまったようだ。

 しゅんっと落ち込んだわたしの頭をくしゃくしゃになるほど撫でたのは、メトロスさんだ。


「そんな顔しないんだよ。知らなかったのは、仕方ないことなんだから。ちゃんと説明してなかった僕たちだって悪いしね。それより笑って。僕たちは君の悲しい感情は食べないんだよ?この屋敷にいるのに、負の感情なんて撒き散らさない」

 からかうような口調に多分の優しさが含まれるのを感じて、そうだっとわたしは笑った。気持ちを引っ張り上げきれなくて少しいびつな笑顔だったけれど、充分だったみたいで。


「サンフォル、約束通り僕が先ね」

「…ああ、わかっている。負けは負けだ」

 嬉しさにはち切れんばかりのメトロスさんと、悔しさに引き裂かれんばかりのサンフォルさん。

 何やら内容がわかるようなわからないような感じで引けた腰を、いつの間にやらメトロスさんががっちりフォールドしていました。


「あの、負けって…」

「コイントスしたんだ。どっちが先にミヤを抱くかってね。そういうわけだから寝室に行こうね」

「はぁ?!まだご飯食べてませんけど!!」

「大丈夫。寝室に死ぬほど用意させておいた」

「そういう問題じゃありませんて!!」


 かくしてワタクシ、旦那様その1に抵抗する間もなく寝室に連れ込まれました。

 何がどうしてこうなった!!!


 

予告通り、次回はムーンで。

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