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キレイの定義  作者: 他紀ゆずる
承編
57/80

13 事態は少々深刻でした

「なんだか、すっごい疲れたんですが…」

「だろうね」

「大丈夫か?」


 堅苦しいお城から面倒くさい話題を終えて帰宅したわたしは、リワンさんに淹れて貰ったお茶を前にぐったりソファーに身を預ける。

 その左右から、メトロスさんとサンフォルさんが手を握ったり頭を撫でたりして、ささやかで優しい労りを与えてくれていた。


 和む…すっごく和む。

 お隣にいる時も、2人の旦那様達は優しいけれど、基本的に悪魔なせいか時々意地悪な言動とか、行動とかがあって、示される愛情に常に警戒心を持って接しなくちゃならないのだ。


 だけど、天使の旦那様方は違う。

 基本として好む感情が喜びだから、裏がないって安心感が桁違い。優しくされたらそのままストレートに寄りかかってオッケーとか、いいです。すっごくいいです。

 鬱陶しい問題が片付くまでは、こっちにずっと居着いちゃいたいくらい、居心地がいいです。


「うう、優しいの、嬉しいです」

 だいぶ日本人の倫理観から逸脱してきたなぁとか思いながら、すりすりサンフォルさんの手のひらに頬を寄せると、ふわりと抱きしめられた。

「ここでは誰もがミヤを喜ばせることしかしない。隣では味わえない感覚だろうから、存分に享受するといい」

 ありがとうございますぅと、今度は広い胸にすりすりしていると、メトロスさんも握った手はそのままに耳元で甘く囁く。

「そっちを堪能したら、次は僕にも抱きついてね。いっぱい撫でてあげるから」


 うわぁ…あまあまです。溶けそうです。

 なんですか、この砂吐きそうなセリフ。わたしみたいな平凡な人間が、こんな綺麗な人達に言われていいんでしょうか?

 背中がかゆくなってきました。あんまり耳慣れないこと言われて、逆に居たたまれません。

 悪魔の2人でかなり馴れたと思っていたのに、所も人も変わると全然そんなことはなくて、内心叫び出したいくらい身もだえていたわたしは、不意に響いた声に穴を掘って隠れたくなるほど恥ずかしくなった。


「その自分達だけの世界でべったべたしてるのが行くとこまで行っちゃうの待っててあげたい所なんだけどさ、こっちも急ぎなんで取り敢えず話し聞いてもらえない?」


 声なき悲鳴を上げて、サンフォルさんにしがみついたところに、呆れたようなメトロスさんの声が降ってくる。

「君ね、突然出てくるのは構わないけど、今後はミヤが見せられない格好してる場合も考慮してよね」

「あ、その辺は抜かりないんで。ちゃんと確認してから入るようにしてますよ」

「どうだか。猫の言葉って説得力がないんだから」

 ふんっと鼻を鳴らしたメトロスさんに問いたい。


 見せられない格好って、どんな?


 やっぱりここでも安心してはいけないのでしょうか?

 ぐーるぐる回る不安にムンク化しそうだったんだけど、サンフォルさんは常識人でした。

「大丈夫だ。ジャイロが許可なく侵入しないよう、屋敷に結界を張るようにする」

 ああ、いい人!1人くらい欲しいですよね、こういうキャラ!

 救世主にでも出会ったように広い胸に頬を寄せて感動していたわたしは、直後にある種、諦めは必要だと理解する。


「ただ、様子は見えるように調整をしないとな…監視の目がなければ、ミヤの安全確保ができん」

───────セ○ム?アル○ック?室内監視カメラは異星でも必要なんですか、そうですか…。


 一瞬叫び声を上げたくなったものの、確かに覗き見していたエイリスやジャイロさんに助けられたこともあったようななかったような気がしたので、この辺は自分のためだと言い聞かせて諦めることにした。

 だたし、夜の寝室だけはきっちりかっちり結界張っていただきます。あそこの声や映像を垂れ流すことだけは、認めません!

 アゼルさん達だって、これはわかってくれて望みを聞いてくれたんだから。


 とまあ、現実から離れて揺蕩う間にもメトロスさんとジャイロさんの会話は続いていて、

「ふーん…君がねぇ。すごく不安だけど、仕方ないか」

「ま、この場合は諦めて頂くしかないですね」

 溜息交じりの返答と、したり顔の肯定で短いやりとりは終わりを告げていた。


 聞きかじっていた内容は、こうだ。

 あの後、偉いおじ様方とジャルジーの王様、そしてスローネテス様が話し合って出したのは、ジャイロさんを大使としてハイジェントへ派遣して、リーリアを渡すことはできない旨を伝えること。その後の交渉は、スローネテス様とジャイロさんに一任するってこと。


 なんで国の重鎮を差し置いて獣人の魔術師なの?って思うところだけれど、これが1番いいんだそうです。

 だってこれは密約だったのだし、直接交渉していた前王は現在幽閉中で政治力ゼロ。

 そこで天使族や悪魔族の偉い人が、これまた偉いスローネテス様と連れだって派手にハイジェントに入るわけに行かない。極秘入国しようとしても、魔力が大きい種族の要人じゃ隠しきるのも容易じゃない。


 そこで事情を知っていて、敵国内でも自分の身は自分で守れ、おいそれと殺すことのできない(召喚術を使える魔術師はうっかり・・・・殺したらいけないだって)ジャイロさんに白羽の矢が立ったらしい。

 もちろん本人は大喜びですよ。なにしろ騒ぎとか騒動とか大好きな猫だもの。二つ返事で了承したって。

………1度痛い目にあえばいいのに。しばらく大人しくしていたくなるくらいに。


「決まったことは仕方ないとして、君、何か策はあるわけ?」

 企み事は掃いて捨てるほど持っていそうだけれど、政治的駆け引きはどうなんだと言わんばかりの参謀補佐に、ジャイロさんは口角を不気味に上げて見せる。

「なかったら、ここに来てませんよ」


 あ、今、寒気が…取り敢えず逃げ出したいって、本能が言ってます。


 反射的に移動の呪文を組み立てたところで、ジャイロさんが人の声を封じました。

「っ!っ!!」

 喉に手を当ててすかすか空気しかはき出せない苦情をジェスチャーで伝えますが、猫は意地悪く笑うだけでこの状態から解放するつもりはないらしい。


「都合悪くなると直ぐに逃げようとするの、やめなよ。君の逃げ場はどこにもないし、誰も君を手放したりしないんだからさ。潔く諦めて」

 諦めてますよ!諦めているから大人しく、天使や悪魔のお屋敷にいるんでしょうが!

 それをまあ、いらぬ恐怖を煽って邪魔してる貴方に言われたくありません!!


…と、声に出せたらどんなに幸せか。

 メトロスさんもサンフォルさんも気の毒そうにわたしを見てますが、声が出るようにしてくれるつもりはないようです。視線から察するに、話しがスムーズに進むよう騒がしい人物を黙らせた、認識ですね。そうですか。

 味方が欲しい!!!(切実)


「それで、どうするつもりだ」

 黙って聞いていたサンフォルさんに促され、わたしとの攻防に飽きてきていたジャイロさんが少々表情を引き締めて2人を見やる。

 珍しく、真剣に。


「お2人のお子様を…まだ生まれておいでではありませんが、その子を使わせていただきたい」

「…殺していい?」

「落ち着け」


 リーリアと同じことをまだ見ぬ子供にさせるつもりかと、メトロスさんから殺気が吹き出し、宥めているはずのサンフォルさんからも背筋を凍らせるような冷気が漂った。

 よかった。怒っているのがわたしだけじゃなくて。父親となる人も、同じように怒ってくれて。

 ほっとしつつ、呆れる発言をしたジャイロさんを睨み付けると、怯むことなく彼は続ける。


「お怒りはご尤も。リーリア様と同じ事を僕はしようとしているのですから、お叱りはいかようにも受けます。ただし、彼女とまだ見ぬお子様とでは、そこに強制力のある誓約をつけようとしている点が違うことをお認めいただき、お許しをもらえませんか」

「誓約?どんな」

「たった1人しか召還例のない人間の子ですから確実とは言えませんが、これから産まれるのはお嬢様である確率が高い。そこでハイジェントから婿になってもいい、もしくは婿になりたいという人物を連れて戻ります。彼等、もしくは彼を、産まれたお嬢様が気に入れば良し。気に入らなかったらこの話はなかったことにしていただく」

「なかったことにすれば、この問題は解決しないのではないか?」

「はい。その場合、持ち越しです。次に産まれるお子様に…アゼルニクス様達か、メトロス様達のお嬢様かはわかりませんが。ハイジェントが人間の子を諦めることはないでしょうし、ミヤにはあなた方以外、天使や悪魔の夫を持つつもりはないようなので、残念ですがどちらかのお嬢様のお1人は確実にハイジェントに嫁がれることになるでしょう」


 冗談じゃない!…と、怒鳴れる雰囲気ではなかった。

 ジャイロさんは極めて真剣だし、聞き入るメトロスさんもサンフォルさんも酷く深刻な表情をしている。

 この場で罵られてしかるべき人物をいつか必ず殴ってやろうと決意して、わたしはまだ見ぬ娘に謝るのだった。


 ごめんなさい。お父さんもお母さんも、この状況をどうにもできなそうです。産まれる前から苦労を背負わすことになって、本当にごめん…。


取り敢えず、いつか馬鹿王は酷い目に遭わされること、決定です。

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