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キレイの定義  作者: 他紀ゆずる
承編
56/80

12 根回しは重要で肝心です

「ミヤが知りたがってた情報の仕入れ先だけど、この方なんだよ」

「へ~…ええっ?!」


 やっと落ち着いてきた場を壊すのは得意なジャイロさんが、今回も期待を裏切らない活躍ぶりでご子息様を指し示す。

 ええ、驚きますよ。驚きますとも!理不尽極まりない要求を突きつけてきたこの人が!傲岸不遜なこの人が!高慢なこの人が!自国に有利な情報を渡しますか?!渡さないでしょう、普通!!


「…おい、そういったことはせめて口に出さない努力をしたらどうなんだ」

 嘘だ嘘だと呟いていた筈なんですが、驚きすぎたわたしはどうやら心の中で嘘だと呟き、声に出して心中を思いっきり語っていたようです。

 イヤそうに眉を顰めたご子息様に指摘され周囲を窺ってみると、皆さん一様に苦笑いを零していらっしゃいましたから。


「すいません、ついびっくりして本当のことを言ってしまいました。ごめんなさい」

「ちっとも謝罪に聞こえんな」

「はい、あんまり本気で謝ってません」


 再び本音が漏れてしまった…いや、最早隠す気のないことに、誰しもが溜息しかつきませんでした。

 うーん、なんでだろう。初対面が最悪だったせいか、この人にはどうも刺々しくなっちゃうんだよなぁ。やっぱり人間ファーストインプレッションは大事ですよね!そういう実例ですよね、これ!

 納得いく結論に行き当たって己の態度を改めることを諦めた頃、敵もわたしに素直な態度を求めることを諦めたらしい。一瞬何か言いたげに口を開いたけれど、直ぐに噤んだので。

 でも、どうしても聞きたいこともあったようだ。


「お前、私の名を覚えているか?」

「いいえ。全く記憶にございませんが、何か?」


 嫌なことはなかったことにするのが精神衛生上最も効果的だと、わたしはこの星に喚ばれてから学んだ。

 だからご子息様のことはさっさと記憶の墓場に投げ捨てていて、多分前王とお嬢様方も早晩同じ状態になるんだろなと確信している身に、それは愚問というもの。

 悪びれもせず笑顔のままでお返事すると、ちょっとだけおじさま方の纏う空気が緊張したような気もするが、当のご子息様は怒りもせず、くしゃりと顔を歪めると非常に小声で仰いました。


「その…あれは悪かったと思っている。自分の置かれた状況が不満で、なんの関係もないお前に当たってしまった。反省しているので…許してはもらえないか」


 言い淀みながら一生懸命言葉にしたものは、聞きようによってはちっとも謝っているようには聞こえない。

 でも、初対面のご子息様と、今のご子息様では全く様子が違っているのは色眼鏡が3枚レンズでかかったわたしにも充分わかった。

 相変わらず偉そうだけれど、不快になるほどじゃない。口調は偉そうだけれど声に険はないし、なにより態度が目に見えて柔らかいのだ。

 まあ、偉そうなのは彼の周りにいた方々が悪いって事で、水に流しましょう。


「はい、許します。今後は仲良くなれるといいですね。ところで、なんてお名前でしたっけ?」

「………本当に忘れていたのか………」


 冗談じゃなく名前を忘れ去られていたことに大いに傷ついたらしいご子息様は、床に”の”の字でも書けそうな勢いでへこんでいましたので、代わりにアゼルさんが教えてくれました。

 そうそう、スローネテス様、でしたね。ええ、そんな名前でした。今度はちゃんと覚える努力をしますね!

 胸の内でサムアップしながらお約束したところで、頃合いとみたのかイロウスさんが話しを変えにかかる。


「ところで、そちらの彼がミヤさんが雇われた護衛ですか?」


 背後に向けられた濃緑の瞳に僅かでも嫌悪が宿っていないか無意識で確かめたわたしは、この温厚な天使のおじ様がアゼルさんやメトロスさんと同じような考えの持ち主であることを知って緊張を解いた。


「はい、レリレプトさんです。今はわたしの護衛って言うより、リーリアの婚約者と言った方が良いような気がしないでもない状況なんですけどね」


 相変わらずべったりな2人を柔らかな視線で観察していたイロウスさんは、そのようですねと苦笑いを漏らす。


「これでは貴方の護衛は別に雇われたほうが良さそうだ」

「本当になぁ、さっさとお嬢ちゃんが大きくなって結婚してくれりゃあ、レリレプトを騎士団に引っ張り込むことができるんで俺ぁ楽できるんだけどな」

「馬鹿を言うな。メトロスの話しでは彼は戦術謀略にも長けているんだぞ。お前をサボらせてやるために騎士団にくれてやるなど、人材の無駄だ。彼は参謀にもらう」

「おやおや、総合的に私に頂くのが1番だと思いますよ。なにしろ国を動かすには、知力も武力も優れた者が好ましい」


 この子供がおもちゃを奪い合うようなやりとりに、呆れたり驚いたりしているはわたしだけなんでしょうか?

 …ですね、わたしだけですね、確実に。背後は振り返ってないんではっきりとはわかりませんが、きっとレリレプトさんはいつもと変わらず無表情でしょう。だってあの人、自分が話題の中心でもほとんど顔色とか態度とか変えませんから。

 見える範囲の人達は、誰1人動揺も変化もありません。皆さん普通の顔してお茶飲んだり、ちょっと残ってたお菓子食べたりしています。

 忌み嫌われてるはずの”半分こ”の出自なのに、その辺この部屋の中の人は全く気にしないんですか?!ちょっと嬉しいびっくりです。

 あ、でも…。


「この国では、混じりもごく普通の扱いなのか?スラムに追いやられることがないのか?」


 このようにスローネテス様は驚いておいでです。以前わたしにさんざん言われたせいかあからさまな嫌悪を顔に出したりはしませんが、基本的にはレリレプトさんは受け容れがたい人物に見えるらしいです。


「本来はスラムで暮らさざる得ないのが現状ですね。ですが私達はそれを良いことだとは思いませんし、偶然我が屋敷に訪ねて来たレリレプトの有能さにミヤが…正確にはリーリアが惚れ込みまして、それ以来あれやこれやと交流していると、無能な馬鹿共と不毛な会話を延々と繰り返すより、彼の方がよほど簡潔明瞭な答えを出せることが判明しましてね。常々、混じり子の存在に忸怩じくじたる思いを抱いていた上司に相談しましたら、入念な準備の末に中央に引き入れてしまおうという結論に至ったのです。リーリアが成長し、婚姻関係を結ぶまでがそれに当たりますかね」


 長々しい説明をにこやかにしつつ、さり気に毒を吐くアゼルさんの言動から、おじ様方のレリレプトさんへの好反応の理由はよーくわかりました。

 つまり全ては根回し済みだってことですね。だから驚かれることもなく、彼とリーリアは共にここにいられるわけですか。

 さすがです、旦那様方。全く抜かりがありませんね。

 こうして一連の疑問が片付いたところで、そろそろ落ち着いて本題に入る空気が流れたので、とりあえずご子息…スローネテスさんに話しを戻してみる。


「それで、どうしてハイジェントにとっては不利になるような情報を下さったんですか?黙っていてリーリアをよこせと要求した方が早かったのでは?」


 彼と生まれたばかりの娘ではちょっと年の差がありすぎる気もしたのだけれど、嫌々美しくない人間と結婚するよりは、悪魔で将来美女間違いなしのリーリアの方が、犠牲になる感がなくていいん気がするんですよ。

 けれど、スローネテス様はそこで困った顔をして見せる。


「いろいろ状況が変わってな。人間の生んだ悪魔の娘を貰い受けるのなら、私では年齢が釣り合わないので甥に白羽の矢がたったのだ。君の娘は美しい、傍から見れば喜ばしい婚姻であるだろうが…甥はまだ2才だ。これから自分で人生を選び取る機会があろうというのに、それらを今潰してしまうなど、許せなかった」

「はぁ…つまり、ご自分の境遇と重ねられて、甥御さんが不憫になっちゃったんですねぇ…」


 穿った見方をしなければ、素晴らしく思いやりに溢れた心遣いなのだろうけれど、初対面でこの方の本音を聞いてしまった身としては素直に受け取れないから不思議だ。

 一族のために犠牲にする(なる)なんて冗談じゃない、と聞こえますよ、ええ。

 冷めた視線をスローネテス様に送ると、図星をつかれた気まずさからか彼は無理に話題を変えに走った。


「ともかく、だな。心配して問い合わせればそちらは何もご存じないとこのことであったし、こうして出向いてみればご息女は既に伴侶を決めているようだ。一族の説得にはこれだけで十分な材料であろうから、あとは人間の血が再び手に入ると浮かれている連中をどう収めるか、それだけだな」

「確かに、そうですがね」

「そうそう、いい手など浮かぶかどうか」


 苦し紛れのご子息様に、我が国内部トップのおじ様二人は、ため息交じりに事態収拾の面倒さにこめかみを抑えていた。


「大丈夫だろ。うるさいやつらはとりあえずなぐっときゃあ」


 若干1名、空気の読めない方がいましたがご心配なく!べリスさんとサンフォルさんにきっちり退治されてましたから~。

 ………あの人、どうやって騎士団の総団長になれたんでしょう?すっごい、疑問です。

 


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