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キレイの定義  作者: 他紀ゆずる
承編
53/80

9 そろそろステップアップです

 絶賛混乱中ですが、時間は無情に進んでいきます。


 母親似のところは黒髪黒目だけだと確認しました。肌の色も白人のようで、どうやらわたしのDNAの引き継ぎを全力で拒否したようです。

 そして。

 なんでお腹から飛び出すんだって疑問は、自分で抱いてみてよっくわかりました。


「…おもっ!」

 大きなレリレプトさんの腕の中ではさしてサイズは気にならなかったけれど、自分で抱いてみたら人間の常識からは考えにくい成長具合なんです、これが。

 新生児と間近で対面したことはないけれど、保健体育の授業で学習したレベルの赤ちゃんの事くらい覚えてます。首が据わっていないとか、産道を通るために頭の形が変形できるよう頭蓋骨の天辺に隙間が空いていてべこべこしてるとか、重さはだいたい3キロから4キロで羊水と胎盤も出産と一緒に排出されるとか。


 しかし、このお嬢さんはそれに全く当てはまりません。首はがっつり据わっていて絶えず動かして周囲の人を見ていますし、歯茎からうっすら白い影が見えているところを見ると、歯がすぐにでも生えそうです。髪だって肩につくほど長いですからね。

 エイリスによると、天使や悪魔の胎児は産み月近くなると急激に成長が進み、その栄養分として胎盤羊水その他もろもろを母親の体内から強制摂取しているんだとか。

 結果、産道を通れる許容値を楽々と超えたサイズのお子様は、自力で力を使い飛び出すしかなくなるということらしいです。


 わたしは楽でいいですが、非常に複雑な成長を過程を有する種族なんですね、悪魔と天使って。

…異種族間交配が可能な事実に、首を捻ります。どう考えても、人間が対応できる妊娠形態だとは思えないんですが…。


 などと疑問を呈しても現実は歴然と目の前に転がっているわけで、事実、お嬢さんはふわふわの産着に包まれて大きな黒い翼を戯れに羽ばたかせていたりします。

 あ、成長してるおかげで縦抱きできるのは楽チンですよ。自力でわたしに捕まってもくれますから、バランス崩すこともあまりないですし。

 ただ。


「レー」

「ああ、来るのか」

 多少は他の人の腕の中にもいますが、基本、レリレプトさんが抱いているって、どうなんでしょう?しかも本人たっての希望で。

「平気なんですか?娘がすでに男性にべったりで」

 なぜだか微笑ましげにそれを眺めるアゼルさんとべリスさんに尋ねると、彼らは不思議そうに首を傾げた。

「もちろんです。彼等は互いを伴侶と決めているんですから、あれで普通でしょう」

「相手を決める時期には個人差がありますからね。彼女はそれが早かったというだけです」


 親離れも早いけど、子離れも早いわけね…。

 人間の常識はどこまでも通用しないわけですか、そうですか。

 なんだかいろいろどうでもよくなるなぁ、とか考えながらお茶を啜っていたわたしは、産後2日で既に健康体な体につくづくありがたみを感じつつ、最初に喚ばれた人間の娘さんが5人しか子供を産めなかったのは精神的理由に他ならないだろうと改めて実感した。


 だって、出産自体はものすごく楽ちんなんだもの。

 地球で子供を産んだことがあるわけじゃないから、どこがどのように楽なのかちゃんと説明はできないけれど、無痛分娩を選ぶ人が増えているほどの痛みはないし、産後体を休めるために実家に戻ることもしないでいいほどすぐに通常の生活に戻れる。

 そりゃあ妊娠期間はちゃんと10か月ほどあったんで、腰が痛いとか体が重いってことはありましたよ?それでも赤ちゃんが出ていったらすぐに元通りなんだから、文句言ったら罰が当たると思うのね。


 となると、固定の宗教をもたない人が多い日本人に生まれてよかったなぁとか、しみじみ考えるわけですよ。

 倫理的に云々は心の隅っこにちょっぴり残ってるけれど、妊娠期間中にあらかた吹っ切れました。

 なにしろ、メトロスさんとサンフォルさんが優しいことこの上ないの。お腹にいるのは生理嫌悪対象である悪魔の子だっていうのに、こまごまとわたしを気遣ってくれて、種族の違いもあるんだろうけれど、ともするとアゼルさんやべリスさんよりべったりと甘やかしてくれるのだ。


 そして、1日に数回は必ず『好き』か『愛している』を言ってくれる。

 これって草食系男子に慣れ親しんだわたしには、かなり嬉しくて有効なアプローチだった。強気で押せ押せって風じゃないけど、さりげなく強引っていいよね。すっごく心惹かれちゃうよね。笑顔で俺様な旦那様と一緒に生活していると、新鮮さにくらっと来ちゃうよね!


 とまあ、とっても不謹慎な感じですが、恋、しました!メトロスさんとサンフォルさんの顔を見ると嬉しくてうっかり抱きついちゃったり、キスされても困惑より喜びの方が強いくらいだから、恋でいいと思うの!


 一妻多夫でもいいよ。多情と呼ばれても好きなものは好き。きっと元来わたしは欲張りで、たくさん好きな人がいたままでいいならそれを楽しめる程度に多情な人だったんだよ、それでいいよ!


 こんな感じでさっさと日本人としてのモラルと決別したわたしは、今晩、娘の命名式に来てくれることになっているお隣の天使さんたちと結婚することになってます。

 とうとう、一妻多夫生活の始まりです!


次回より、天使編となります

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