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キレイの定義  作者: 他紀ゆずる
承編
49/80

6 お医者様の定義

「やはり、そうでしたか」

「予想通りだったな」

 娘なんだそうなんだと、繰り返すわたしを素通りで悪魔の2人は納得し合っていらっしゃるご様子。

「何となくおかしいとは思っていたが…」

「うん。決定打はザリーのケーキだろうね。あれほど好きだったのに甘すぎるから食べたくないって言いだしたあの頃」

 天使のお2人もご存じだったんですか、へー…。

「だから言ったじゃないの。自分のことなのに鈍いって」

 で、だめ押しに魔女から笑われると。


 なんなんですか、この人達は。どうして前々からわかってたーとか自分達だけで納得して当事者を置いてけぼりにするですか!

 ジャイロさんまで含めて6人が6人とも笑っているのが無性に腹立たしくて、わたしは子供みたいに頬を膨らますと彼等を睨み付ける。

「知ってたなら教えて下さい!みんなでニヤニヤしちゃってすっごい、すっごい感じ悪いです!」

「だって、あなた自身のことでしょう?言われなくても気づくと思っていたんだもの」

 悪びれない魔女の返答に、誰ひとり否定的な言葉を発しないってことは、あれですね?全部わたしの鈍感さが悪いと、皆さんそう思ってらっしゃるんですね。

 ぐるりと一周した視線でそれを確認すると、なんだか急に面倒になって急激に怒りが萎んでしまった。


 そして、確かめるようにまだ平らなお腹に触れる。

 怒ってる場合じゃ、ないですよね?それよりも問題なのはここに別の生命がいるってことで、わたしがその子を産むことが悪魔や天使の、そしてジャイロさんの望みだってことなんですよね?

 考えて急に怖くなる。

 もしもまたレリレプトさんのような人に襲われたら、今度は殺されちゃうかもしれない。誰もが彼みたいにわたしの話を聞いて考えを変えてくれるはずがないんだから。問答無用で切り付けられて、自己防衛できる自信がいない。


「どどど、どうしましょう!わたし、命の危険ですか?!やばくてまずいですか?!」

 動揺のあまり飛びつかんばかりの勢いでアゼルさんとべリスさんにしがみ付くと、2人とも一瞬あ然とした後苦笑いを零した。

「本当に、先ほどの言動は腹の子に命じられて、だったんですねぇ」

「ええ。でなければつい数分前の会話を忘れると思い難いですからね」

「なんですかっ!もっと真剣に…あれ?」

 呑気な様子に怒りかけて、はてと首を傾げる。


 そういえばわたし、レリレプトさんをボディーガードにしろと駄々をこねた記憶が…いえ、彼を助けたいとは思いましたがなぜ自分を守れとか言ったんでしょうか?他にも方法があった気が今頃してきましたが?

「だから言ったでしょう?この場で1番力を持っている彼女に、ミヤは操られていたんだって」

 首を傾げていると再びエイリスがお腹を指さす。

 ここでやっと、わたしは理解できたわけです。ちょっと自分(人間)ぽくない言動や行動の数々が無意識に操られた結果だと。


 チート気味ですね、この方。


 ちょっとだけ自分のお腹の中にエイリアンを宿した気分になったところで、パンパンっと派手な音を立てて拍手をしだした人がいた。誰だと発信源に視線を巡らせれば、金髪金目のおじさんが実に嬉しそうに手を叩いている。

「素晴らしい!なんという慶事だ」

「本当に。これは種族を越えての慶事ですね」

「ああ、城に戻って早速王にご報告申し上げねば」

 続いて銀髪のおじさん赤毛のおじさんも喜びの声を上げると、不機嫌極まりない元王様とお嬢様方を連行しつつ慌てて部屋を出て行ってしまった。


 この台風一過な状況に、呆然としたのは残されたわたしとレリレプトさんだった。

 万事思惑通りとでも言いたげな他の人たちとは違って、わたしたち2人だけはよく状況が理解できていないわけで、なにがどうなっているんだと言わんばかりに眉を顰めるしかない。

「…結局、俺の処遇はどうなったんだ…?」

「ですよね。わたしのボディーガードっていうことで、いいんでしょうか?」

 思い返してみても、誰かがこの件を了承したという記憶がない。わたしが我儘を言い出したところでエイリスの爆弾発言があり、そのまま有耶無耶におじさんたちが去って行っただけだ。


「君はたった今から正式にミヤの護衛だ。よろしく頼む」

 混乱していたレリレプトさんに笑顔で言ったのはべリスさんだ。

「どのみち、貴女が私たちの子を宿したら、騎士団あたりから腕のいい者を1人護衛につけようという話はあったんです。彼がこの場にいて、更にはお腹の子がこの状況を望んでくれたことは非常に好都合だったんですよ」

 いまいち呑み込めていなかったわたしに、かみ砕いだ説明をしてくれたのはアゼルさんだった。

「これまでの俺の罪はどうする?何人も国の要人を屠っているのだが?」

「それが仕事だったんだろう?そうせざる得ない状況に追い込んだのは、ほかでもない我々一族なのだから自業自得だ。なにより腕がたつ護衛たちの裏をかいてこれまで仕事をこなしてきたことを実績だと捉えるなら、君が今告白したことは腕の良さを証明したようなものだな」

 朗らかに言いくるめられているレリレプトさんはなんとも複雑な顔をしていたが、やがて小さく頷くと短く了承の意を示した。

「…最善を尽くそう」


 こうしてわたしのあずかり知らないところで、話はうまくまとまりましたとさ。


…なんてわけにいくわけないじゃないですか!

 みなさん浮かれるだけ浮かれてらっしゃいますけど、実際生むのわたしなんですよ。できるまでは簡単に考えていたことも、いざ着手してみると冷や汗ものってあるじゃないですか。

 今現在のわたしは、そんな状態なんです。

「護衛はわかりました。レリレプトさんがいて下さるなら結構です。それより病院とかあるんですか?検診は?お母さんになる心構えは誰が教えてくれるんです?」

 アゼルさんとべリスさんに矢継ぎ早に質問しながら、思い出していたのは日本のことだった。


 自分の世界でなら、若くして子供を産むことになってもあまり不安はない。

 相談相手にはお母さんや友達がいて、病院や看護婦さんもいろいろ教えてくれるから。なによりお医者さんがいて、お腹の中の赤ちゃんの様子をエコーで見せてくれたり他にもいろいろな医療設備が整っているからあまり恐怖もない。

 でもここでわたしが頼れるの人は、ごくわずかだ。

 夫である2人と魔女のエイリス、子供を産むに際して無条件で信頼できて、助けてくれそうなのは彼等だけ。メトロスさんやサンフォルさんだって信用はしているけれど、子供の父親でない時点でこの場合対象外になってしまう。


 不安だと無言で訴えていたら、エイリスが自信満々で胸を張った。

「私がいれば充分よ」

「エイリスはお医者さんじゃないじゃない」

 一緒に住んでいる間だって、患者さんが運ばれてきたとか診療しているところなんか見たことないんですけど、と頬を膨らませるとなぜかメトロスさんがフォローする。

「魔女や魔術師は全員医者だよ」

「えええっ???」

 すごい初耳です。全く知りませんでしたけど?!

 驚愕と不振で眉根を寄せると、更にサンフォルさんがフォローに回った。

「医術を施す程度の魔女は、町中にいる。だがエイリスクラスの魔女になると医術を本業とする者は少ないからな。患者を見たことがないのは仕方ないが、彼女についていてもらえるなら他のどの魔女に診てもらうより安全だ」


 この言葉に誰もが頷いているということは、本当なんだろうけど…いまいち不安だなぁ…。

「なんなら、僕が診てもいいよ」

「いいえっエイリスがいいです!」

 ジャイロさんのセリフを聞いた途端に不安が吹っ飛んだから、不思議。

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