40 吃驚仰天、真実は小説より奇なり。
ともかく、五月蠅い一同を黙らせて客間に座ってもらったわけですが、なんて言いましょうか…一言で表現するなら、
「険悪」
ああそうです、そんなですジャイロさん。
でもですね、ふんぞり返ってやっぱり自分で出したお茶飲んでる貴方も、空気を悪くしてる一員なんですよ~ほぅら、エイリスに叩かれた。
長椅子の片方にアゼルさんとベリスさんに挟まれたわたし。
正面にはジャイロさんとエイリスと、何故かお嬢様方が並んで座り、左右に向き合うよう配置された1人がけソファーの右はメトロスさん、左はサンフォルさんが現在のテーブルを囲む面々です。
皆さん決して笑ってません。不機嫌全開で無言のまま、もう5分は経過したでしょうかね。そこにさっきのジャイロさんの発言が口火となり、止まっていた時間が進み始める模様です。
始めに動いたのはエイリスでした。
「ミヤ、このバカに言われたことは気にしちゃだめよ。喚び出された女の子たちの中で、貴女だけが恵まれているとかはね、ないの。そこの天使の娘を見てもわかるように、特権階級の連中は種族が違う者たちをまるで物のように扱う。それは獣人も蛇人も人間も同じで、彼等とかかわらずにいられないミヤの方がよっぽど嫌な目や大変な状況に陥ることが多い。だって他の子たちは、最初こそ訳も分からないで取り乱しても、後は大切に守られて天使や悪魔に会うことなく一生を送れるんですからね」
にっこり笑ってバッサリ他人を斬るのは、血筋だよね。ジャイロさんとよく似てる。
もちろん話のネタにされたお嬢様方は頬を紅潮させて何事かを言おうとしたところで、喉を抑えてパクパク金魚みたいになっちゃったけど。
「…なんかした?」
「うるさいから黙らせた」
何でもない事のように言い放ったのは、ジャイロさんだ。相変わらずお茶を飲んで我関せずを貫いているように見えるけど、魔力が上のはずの天使を黙らせるってすごいんじゃ…。
「上層部にいるような連中ならともかく、金と権力と地位にしか興味がない無能女がどうして僕に勝てる道理があるんだよ」
まるでわたしの心を読んだかのようなジャイロさんのお答え、不気味です。ついでに出ない声でなお一層騒ぐお嬢さんたちも不気味です。
「偉そうに言うんじゃないわよ。あんただって乙女の行動を覗き見するような最低男じゃない」
けれどそんな彼もエイリスの突込みには黙秘権行使で、だんまりを決め込んでるんだから力関係って面白い。
「あ、その術維持しておいてもらえる?僕らは王があの地位にいる限り彼女たちに手が出せないから、迷惑してたんだよね」
「ああ、ほとほと参っていたところだ。助かる」
そしてジャイロさんにお礼を言うお隣の双子たち。
結婚する気はないって意思表示以外、強硬手段に出ないと思ったらそれなりの事情があったらしい。
見上げる目線でアゼルさんに問うと、彼は教えたく無くなかったんですがと前置きしてから説明してくれた。
「本来の地位云々はともかく、天使族にとっては現王が最高権力者ですからね、悪魔の我々より彼に対する忠誠と服従を誓わされています。そうなると奥方やお子様方の扱いもなかなか面倒なものがありまして、多少失礼な言動は許されても実力行使となると難しいものがあるんですよ。ですから無碍に屋敷から追い出すこともできず、周囲から追い払うこともできない。未だに彼女たちに彼等が付きまとわれているのはそんな理由です。こちらとすれば一族のいざこざに巻き込まれていてくれれば、ミヤの周辺が静かでいいと思ったんですがね、あの魔術師余計なことをして…」
小さく聞こえた舌打ちは、スルーの方向でいきましょう。
ともかく、メトロスさんとサンフォルさんが面倒な立場にいるってことはわかりました。お嬢様方がここにいる理由も同時にわかったし、この短時間で何とも実りの多いこと…って言いたいんですけどねぇ。
疑問だってあるんですよ。そりゃもう、山ほど。
「エイリス、ジャイロさんがわたしに何を言ったか、どうやって知ったのかな?もしかしなくても親子揃って覗き、してたでしょ?」
「え~あらやだ、おほほほほほ」
「笑っても誤魔化されないから」
しらばっくれる気さえないのか、白々しくおほほほほほとか口に手を当てちゃうエイリスを睨んで、叫びたいところをぐっと飲み込んだ。
人のプライバシーをなんだとおもってるんだか、この親子は!
かなり腹は立ったけど、あえてそれを出さなかったのは、ジャイロさんはともかくエイリスは親心からやったことだろうなと推測できたからだ。
なにしろ、自分の息子を引っ張ってきた時の様子は本気で怒っていたし、今だってわたしは遠慮なくアゼルさん達に甘やかされていて良いんだって、フォローまでしてくれている。
珍しくて利用価値の高い人間を喚びだしちゃった責任を、エイリスはエイリスなりに感じてくれているのだ。間接的になったとしても、護ろうとしてくれている。とっても嬉しいことだ。
だからわたしは怒った風を装いながら、笑っていた。気づいた彼女も苦笑いを浮かべていて、のぞきに関しては解決した感がある。
息子は別ですけど。
「今後もエイリスがわたしを見ているのは構わないけれど、ジャイロさんの方はやめさせてくれないかな?」
「えーえー勿論よ。今度そんなことしたら、尻尾ちょん切ってやるから安心して頂戴」
「ちょっ!そんなことしたら、まっすぐ歩けなくなるだろう!というより、なんで母さんは僕の尻尾にばかりこだわるんだよ」
「あんたについてるのが気に入らないからよ。私の方が似合うじゃない、長い尻尾」
そのあとも延々と尻尾談義で騒いでいる2人は放っておくとして、次は身振り手振りで騒いでいるお嬢様達と天使の双子の番だ。
結婚するにしろ待ってもらうにしろ、彼等が彼女達とのことをはっきり決着つけてくれないと困ると思っていたんだけど、アゼルさんの話しによるとその辺は近々、つまり王様が退位したら解決すると思って良いんだろうか。 もう回りくどいのは面倒なんで、ストレートに聞いてみると2人は迷いなく頷く。
「王が替われば一族の序列も替わる。元々は僕たちの父が王座に就くはずだったのに、苦労を背負い込むのはイヤだとか勝手なこと言って国外逃亡したせいで起こった事態だ。実力的にはブランダ公爵家に何かを命じることは不可能になる」
「そうだな。重職にあるご老体も私達の決定に口は出さないだろう。なにしろ1番望ましい結果だ」
へーと納得しながら、疑問も1つ。
「あの、ブランダ公爵家ってどちら様ですか?」
話の流れ的にもしやと思ったりするけれど、確信できないままでいると碌な目にあわないから一応確認を取ってみると、
「「我が家だ(よ)」」
と、きれいに天使さんにハモって頂きました。
そうか、やっぱり家名ってあるんですか、ありますよねそりゃあ。
因みに旦那様方にもファミリーネームをお聞きすると、ベリスさんが対抗意識ばりばりの様子で教えて下さいました。
「クローザ公爵家です。蛇足ですが家に両親がいないのもあちらと同じ理由で国外逃亡したからですよ」
「ですか…。となるとあれですか、次期王候補はアゼルさんやベリスさんなんですか?」
王様の奥さんとか、お断りですけど!
ちょっぴり青くなりながら聞くと、またまた美しくハモって下さいました。
「「まさか。面倒ごとはお断りです」」
…いいんですか、そんな理由で。いいんですよね、実力ありますものね。ははは。
こんな大事なようでいてあまり身のない会話の中、取り残されたお嬢様達は騒ぐことをやめ静かに腰を下ろしてしまっていた。
ふと覗いた顔は青ざめ、紅色の唇をかみ切るんじゃないかと心配になるほど噛みしめる姿はとっても憐れで、渋るジャイロさんと天使双子を説き伏せて声が出ない術を解いてもらう。
途端にわめき出すんじゃないかと半分覚悟していたのに、彼女達から零れたのは小さな小さな呟きだった。
「ですから、急いでいましたのに。お父様にお力がある内に、メトロス様と結婚したかった」
「わたくしだって…サンフォル様に相手にされていないのはわかっていましけれど、王の娘であれば僅かながらの希望でもありましたものを」
2人にあったのは…権力欲でもプライドでもない、切ない切ない恋心、だったんだね。