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キレイの定義  作者: 他紀ゆずる
起編
36/80

34 重要事項は内密にお願いします

 子供みたいに大泣きし、やっと泣き止んでも口を開こうとはしないわたしに付き合って、アゼルさんとベリスさんはただソファーに座っていてくれた。黙って、時折髪を撫でたり手を握ったりするだけで、決して何があったか聞こうとはしない。

 けれどわたしは話したかったんだと思う。自分の考えを整理するためにも、現状を理解してこの先のことを考えるためにも、言葉にしていくことを望んでいたの。


 だからぽつりぽつりととりとめどなく話す。人間だってほとんどの場合、悪魔や天使と同じように1人の相手と婚姻を結び、一緒に生活するのが困難だったり、心変わりしたりしない限り、同じ相手と添い遂げること。『エサ』なんて言われて気分のよくないこと。何もかもが性急に進みすぎて、心がついていけていないこと。最近頻繁に人権を無視されることに、本当は耐えられないこと。


 なにより、わたしの人生を潰してまで、この星の人達の未来を助けるのなんかごめんだって、実は思っていること。


「すみません…本当はとても、利己的な人間なんです」

 彼等は魂がキレイだと言ってくれたのに、わたしはこんなに俗物で自分勝手だ。

 泣いた後の倦怠感のせいで、半分意識が飛んだところに溢れた本音は、酷く薄汚れているように思えた。

 だが、2人はゆるゆると首を振る。

「利己的で傲慢なのは、私達の方ですよ。遠い場所からミヤを連れ去り、自分達のいいように利用している。同じ立場であったなら、私はこんな扱いをする連中を許さないでしょう」

「『エサ』扱いする相手に、貴女がどうして罪悪感を抱かなくてはならないんです?怒って当然なんです。腹が立ったら攻撃魔法を使っても構わない。そうする権利がミヤにはある」

 アゼルさんとベリスさんの肯定は耳に心地よく、心に優しい。


 なんだ、怒ってよかったんだ。あの傲岸不遜な男をやり込めたように、何を言ってもよかったのか。

 惚けた頭で納得すると、急にさっき一方的に失礼な言葉を投げつけられたことにも、腹が立ち始めるから不思議だ。

「じゃあ水色の美女や緑の美少女にも、言い返してよかったんだ…」

『エサ』だの人間如きだの、かなり酷い台詞で好き勝手に罵倒してくれたけど、考えれば酷く理不尽だと憤慨していたら、左右でアゼルさんとベリスさんが眉を跳ね上げた。


「…水色の女…いえ、女性といえばオフィエール様ですか?」

「緑のバカ…いや、少女といえばセフィーラ様ですか?」

「う?…えっと、多分そんな名前、だったかなぁ…?」

 急激に温度と機嫌を降下させた旦那様方に、だるさが飛んで一気に意識が覚醒する。

 なんで、わたしより2人の方が怒っているんでしょう?意味不明ですけど、これじゃあこっちの怒りを維持するのが難しくなっちゃった気がしますよ?

 何かあったんだろうかと、さり気なくその辺を聞いてみると、2人は絶対零度の微笑みで彼女達の素性を簡潔かつ冷淡に説明してくれた。


「オフィエール様は現王の長女です。お母上が天使至上主義のいけ好かない女…失礼、女性なもので侍女達も右へ倣えでしてね。悪魔は天使より劣っている、他の種族は自分達のためだけに生かしてやっている、人間の卑しい血を受けたハイジェントの天使や悪魔は、既に同族ではないと教育された憐れな方です。ただ成人して自分で見聞きできるようになってもその考え方が変えられないのは、愚の骨頂ですが」

 辛辣すぎて、少しだけオフィエール様に同情したくなる説明なのは何故でしょう。


「セフィーラ様は現王の次女です。生まれと育ちは姉上と同じで最低最悪…失礼、お気の毒な方ですが、未だ成人していないのを良いことに、自分を美しく見せること、有望な夫を選ぶことにしか関心のない典型的な貴族令嬢です。おつむが弱いのは生まれつきですので、責められませんが」

 年端もいかないお嬢さんにその言い様、さすがにセフィーラ様が可愛そうなんですけど。


 なんだか微妙な気分になってきたわたしを余所に、お2人は笑っているのに笑っていません。

「そういえば姉妹揃ってメトロスとサンフォルに纏わり付いていましたが、もしや先ほど屋敷にまで押しかけましたか?」

「ミヤの様子を見る限り、その上で貴女を侮辱した気がしますがいかがです?」

 勘が良いのか、彼女達の普段の行いが悪いのか。何を話したわけでもないのにすっかり状況を把握してしまった彼等は、ふふふと背筋が寒くなるような笑い声を上げて隣家に何やら呪いを送っている模様です。


「メトロス…ですからはっきり、お前は伴侶にはなり得ないと断りなさいと忠告していたのに、面倒だと放置するからミヤが傷つく羽目に陥るのです。相応の報復は覚悟しなさいね」

「安易にいい顔するんじゃないと注意してやったのに、サンフォルめ。我が儘な上に頭の軽い娘が遠回しの拒絶など理解できるものか。おかげでミヤが泣いた責任は、とってもらうからな」


 口を挟める雰囲気じゃないので、呪詛を黙って聞いているしかなかったんだけど、言葉の端々からアゼルさんとベリスさんが彼女達を好きじゃないということだけは理解できた。

 悪魔より天使が勝ってるって思われたら、いい気はしないよね。なにしろ同等の力を持つ一族だって、どちらも認めているから王様は交代で出してるんだし。

 それに人間の血が入ったら天使じゃないって…その方が能力が上がるし自給自足できるんだから、いいんじゃないのかな?だからこそ貴重な人間を独り占めしないルールが決められたんだよね?


 代わりに怒ってくれる人がいる分、冷静になったわたしは彼女達の言動の根本がどこにあるのか、なんとなくわかって溜息をつく。


 お母さん、ですね。そして彼女を支持する周りの人。


 日本が嘗て軍事教育で現人神あらひとがみを至上の存在と教えたように、お隣の閉鎖的な国で今現在も最高指導者は空から降ってきた神だと教育しているように、幼児教育は人間を洗脳する。そしてそれは一朝一夕に目が覚めるものではない。なにせ前例が山ほどあるんだから、間違いないだろう。

 そうなると、一概にあの言動を非難できない気もするんだよね。今も王宮なんて閉鎖的な空間で生活してるんじゃ、本当の世界を知る機会も少ないだろうし。


 という具合に、むしろ同情してしまったわたしは、アゼルさんとベリスさんを宥めにかかったんですが、2人はその辺を汲んでくれるつもりは爪の先ほどもないようです。崩れることのない作り物の笑顔を貼り付けたまま、アゼルさんは相変わらず彼女達を非難しましたから。


「王宮には悪魔も沢山いるんですよ。かくいう私もメトロスといる機会が多いので何度かお会いしたことがありますが、自分より年上で要職に就いている悪魔に挨拶もせず敬意も払わない場面を何度か見ております。以前にもお話ししましたが、王の娘もただの貴族令嬢に過ぎません。そのような行動を繰り返せば悪魔のみならず天使からも非難され、その矛先は現王にも向いているんですがね、さすがあの親にしてあの娘ありで少しも改善が見られない。おかげで我が国では近々代替わりの儀を行わざる得なくなってしまったんです」

 淡々と言っていますけど、それ…

「国王をやめろってこと、ですか?」

「はい。議会の承認は先日通りました」

 笑っていたらまずいと思います!自国の王様がリコールされるっていうのに、なんでそんな余裕なんですか!!


 わたしの内心パニックを察したベリスさんが、大したことじゃないと請け合うので余計に混乱しましたよ。普通、大問題だと思いますけど?!

「よくあるんです。愚王を立ててしまって早々に代替わりとか、数年王位に就いていたら国政を混乱させるようになったので代替わりっていうのが。種族的には決して友好的とは言えない悪魔と天使ですが、政と地位・名誉に関しては対等だと考えている者達がほとんどです。現王やその伴侶は一部の少数派で、それでも公正な施政を行っている内はまだよかったんですが、最近では要職に天使だけを起用すべきだなどと腐れたことをほざき始めたのであっさりと解任は決まりましたよ」

 ………なんだか普段ベリスさんの口からはあまり出ない乱雑な表現が、随所にちりばめられた説明だったように思いますが、気のせいです。うん、きっと気のせいです。


 無理矢理自分を納得させて、話しの流れでとんでもないお国事情を知ってしまったわたしは、当初の混乱と怒りをしばし忘れていたのだった。


悪魔ツインズの反撃?

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