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キレイの定義  作者: 他紀ゆずる
起編
34/80

閑話 魔女と悪魔の密約

内容的に不快感を抱く方もいるかも知れません。最後の数行は間接表現ですがあれな感じです。

そんなわけで、読み飛ばしても全く害のない話しなので、悪魔双子や魔女の間にあったやりとりなど読まずにいける方はとばして下さい。

 また、若い娘を壊してしまった。

 狂った、もう決して長く生きることはできない彼女を、最後に家族の元に送り届けたアゼルニクスとベリスバドンは、深い深い溜息をつく。

 言葉を交わさなくとも互いの考えていることがわかる彼等は、同じ悲しみと虚しさを抱いて、窓の外を流れる風景をぼんやりと眺めていた。


 悪魔は、他種族の女達から負の感情を喰らうことで生きている。


 それは老婆であろうが若い娘であろうが、どちらでも構わないのだが『エサ』を傷つけることをよしとしない彼等は、できる限り自分たちと年の近い娘が好ましかった。

 老婆からマイナスの感情を搾り取ろうとすれば、肉体を傷つけるか精神を追い詰めるしか方法がない。けれど若い娘であれば、酷く抱きそこから溢れる感情を啜った後、優しく快楽を与えてやることができる。

 当然『エサ』としての持ちも後者の方がいい。老婆や死期の近い女は買って1年もしないうちに壊れてしまうが、若ければ扱い方1つで10年近く使い続けることができるのだ。

 なにより、別れの辛さ、壊した瞬間に味わう罪悪感はできるだけ感じたくないものだから、2人は長く同じ女といる。情が移るほど長く、長く。そんな悪魔や天使は隣人で同じ双子である天使しか知らないが、ともかく今回も予想通り重苦しい感情が彼等の内を満たしていた。


「人間がいれば…こんな想いはしなくていいのだろうな…」

 魔力車は未だ獣人達の住む街を抜けられず、雑多な景色をベリスバドンの瞳に写す。その中に女の姿を見つけられない現実が尚彼の心を痛ませ、そんなおとぎ話を口の端に上げさせた。

「そうですね。例え夢物語だと笑われようと、私も人間に会いたい」

 200年前、彼の国に現れたという異界の娘は、見た目は凡庸でも輝く魂を持っていて、伴侶とした悪魔や天使の腹を生涯満たし続けたという。

 壊れも腐りもしない、不思議な女。彼女がいれば、自分たちはこの空虚感から解放される。

 今2人が、喉から手が出るほど欲しいと思っている存在だ。愛せなくとも手元に置き、一族の、ひいては他種族の救いとなる子を成せる娘。

 人間がこの世に再び現れることは、あるのだろうか?

 僅かな希望でもあるのなら縋りたい。そんな想いを彼等は、深い深い吐息に乗せる。


 その時、前方に柔らかに輝く魂を見つけた。淡く輝き、甘く誘う。悪魔を引きつける魂。


 互いに気付いたことを確認しようと視線を合わせた瞬間、魔力車の外から盛大な水音と小さな悲鳴が聞こえた。

 車越しでもはっきりとわかる芳香を上げる魂に、慌てて御者を止める。

 逸る気持ちを抑え、ゆっくりとドアを開けるとそちらを振り返った2人は、大きな帽子を目深にかぶり篭を下げた子供の姿に、少々落胆した。

 魅力的な魂の持ち主であるのに、ああ小さくては閨に引き込むこともできない。

 それでも数年後、屋敷に来て欲しいと頼んでみる価値はあると、蜜に誘われる虫のように彼女の前まで歩みよった悪魔達は、濡れ鼠にしてしまったことをまず謝罪した。汚れを全て拭うことはできないが、せめてとハンカチを取り出すと、少女が自分たちを呆気にとられたように見上げていることに気付く。


 大きな帽子に隠しきれなかったらしいおもては、想像通り幼く凡庸であった。焦げ茶色の瞳に獣人特有の特徴がないところを見ると、狼や熊、犬などの種族だろうか。

 そんなことを考えている内に、ハンカチに注意を移した彼女は顔を顰め、お気になさらずと宣言すると小さく呪文を唱える。少々変則的な響きを宿すそれは、元は浄化の呪文だった気がしてアゼルニクスとベリスバトンは瞬時に視線を交わした。

 既存の呪文に変化を加えるすべを知る娘であれば、将来は魔女候補であろう。彼女自身が女を喚ぶことはできなくとも、魔法陣を支える基礎となることは可能かも知れない。となれば『エサ』にすることは難しい。

 なにしろ異界から女を招くことは自分たちの食料を確保する上でも重要なこと、王が魔術師を無条件で保護すると決めている以上、この美しい魂を啜ることはできないのだ。


 だから2人は気取られないように、少女の素性を聞き出す為の問いかけをする。

『えらいですね、小さいのに魔女なんて』

『本当に、まだ子供なのに』

 アゼルニクスの言葉にベリスバドンも乗った。ここで彼女が嬉しそうに微笑めば、諦めなくてはならない。だが、聞きかじりの呪文を改造してみただけで、まだ魔女として才を覚醒していないのであれば、両親に頼んで貰い受けることもできるだろう。

 そんな打算的な質問に、少女が返したのは盛大な溜息と、イヤそうな声だった。


『小さいけど、小さくないんで。もう17歳と半分ちょいを数えました。既に18に近い年齢です』

 反応したのはアゼルニクスが先だった。

 小柄な女性もいるにはいるが、子供ほどの大きさしかない娘が成人だというのなら、何かの病であるかもう1つの可能性しかないのだ。


 美しい魂と、小さな体。もし、もし彼女がそうであれば。


『君、召還されたんですか?』

『君、名前は?』

 素早く可能性を問うたアゼルニクスと、もうそうであると決めてしまったベリスバドンでは微妙に質問の内容が違ったが、2人が同じ可能性に行き着いたことだけは確かであろう。

 逸る気持ちを抑え、できる限り冷静に待った答えは、果たして期待通りだった。

『はい、召還されました。名前はミヤです』

 小さな、外見の美しさを有さない、召還された娘。

 もう文献でしか知ることのできない存在が、目の前にいる。しかも今回の召還は半年も前に行われていたはずだ。なぜ魔術師から『人間』が出現したことが報告されていないのだろう。


 疑問は腐るほどある。だが、それら全てがどうでもよかった。双子の悪魔にとって、切望した存在が目の前にいることが全てだったのだから。

『『へぇ、だからキレイなんですね』』

 うっとりと、心が震えた。隣にいる互いの半身も、体中から喜びと愛しさを溢れさせているのがわかる。

 彼女に気付かれないようそっと交わした微笑みで歓喜を伝え合った彼等は、同時に自分達が目の前の娘を生涯の伴侶と決めたことも理解する。

 理屈抜きの一目惚れだ。

 だから心からの褒め言葉を彼女に贈ったというのに、急に怒り出した愛しい人は踵を返して駆け逃げてしまった。


「…何故?…何かいけないことを言っただろうか」

 呆然と後ろ姿を見送るベリスバドンに、アゼルニクスは首を振る。

「そうではありませんよ。彼女はきっと、召還されて直ぐに美しくないと邪険にされたんでしょう。確か、初めての人間もそうだったと聞いています。平凡な容姿に何故召還条件が違えられたのか、魔術師達が必死で理由を捜したとありましから。なのに私達が『キレイだ』と褒めたので、あの反応です」

「成る程…魂が美しいと言われたとは、思わなかったのか。だが姿も充分愛らしかったじゃないか」

 首を傾げた片割れに、違いないと頷いてアゼルニクスは既に違うことを考えていた。

 直ぐに戻って今回召還を行った魔術師を調べ、あの娘を手に入れるための手はずを早急に整えようと。


 4日後。宣言通りの行動力でアゼルニクスは書類を、ベリスバドンはあちらへこちらへと駆け回って彼女を迎え入れる準備は全て終えた。屋敷も彼等の部屋近くの一室を改装させ、若い娘を迎え入れるに十分な手を尽くしてある。

 問題は、事実を隠蔽し人間の娘を自分の弟子にしていた魔女、エイリスだ。

 世界に数人しかいない召還魔術師の1人でもある彼女は、ふざけた言動とは裏腹に実に真面目に喚び出された女達のアフターケアをしている数少ない存在である。その彼女に、今後悪魔と天使にいいように人生を操られ、子孫を残すためだけに使われるであろう貴重な『人間』を渡せと、命じなければならない。

 揉めるだろう。しかし、先の人間もそうであったように、自分達に彼女を縛る権利はなく、彼女には他の女性達より余程強力な選択権があるのだと知れば許してくれるかもしれない。


 手駒を揃えた悪魔達は再び下町を抜け、二階建ての、いかにもといった風情を醸す魔女の家を訪ねた。

「………イヤな予感はしていたのよね。あの子が酷く怒って、言いつけを守らずに帰ってきた日から。全く、なんだって貴方達は、自分達の利益になる物を探し出すのが上手いのかしら」

 出迎えるなり2人を見てそういったエイリスは、本気で悔しそうな顔をした。

 この半年、慎重に隠してきた娘だったのだろう。なにしろ調べたところによると、外出時には必ずつば広の帽子を被らせて獣人の特徴がよく現れる頭部を隠させ、衣服も目立たない地味な色の物ばかりを着せていたようだ。周囲には魔女候補の娘を預かっていると言っていて、子供でも女の子であれば青田買いをしようとする連中の牽制までしてある。

 そのまま彼女が魔術を覚え立派な魔女になれば、悪魔や天使といえどおいそれと手出しはできなくなっただろう。なにしろ女性を喚ぶ重要な術士だ。例え人間といえどその役目を兼任するのなら、誰を夫にし、どんな人生を選ぶのか、全ての決定権は本人次第となる。

 けれど人間がただの人間に過ぎなければ、全権が1度、悪魔か天使に委ねられることになっていた。エイリスはこの裏道を利用して、彼女に自由を与えたかったのだろう。


「全ては偶然です。けれど、勘違いはしないで頂きたい。私達は彼女を伴侶と決めました。都合の良い『エサ』としてでも、『繁殖用の雌』としてでもない、大切な一生の相手です。決して無碍に扱ったりは致しません」

 アゼルニクスの真剣な宣言に頷いて、ベリスバドンも口を開く。

「1度我々と結婚すれば、彼女には自由な権利が与えられる。天使の夫を選ぶことも、獣人の伴侶を持つことも、そのどれもせず静かに暮らすことも、全て自由だ。もちろん貴女に会いにここに来ることもできる」

「悪魔は伴侶を独占する。いくら一族の中で掟を決めていると言っても、妻にしたあの子を本当に好きにさせてやることができる?」

 彼等の習性を知る獣人からすれば、2人の言葉など決して信じられる物ではないだろう。

 だが、200年前に彼等は学んでいるのだ。人間がキレイな魂・・・・・であり続けるためには、翼を折ってはならないと。


「ええ勿論。なんなら『魔女の刑罰』を受けても構いません」

「今後彼女を妻とする、他の悪魔や天使にもその義務を課しても問題はない」

 即座に言い切った彼等に、エイリスはしばし思案し、結局扉を開いた。

 当然『魔女の刑罰』を受けることが、条件ではあったが。


「じゃあ約束破ると、アゼルさんもベリスさんも死んじゃうかも知れないんですか?」

 濃密な時間を過ごした後、今晩は少し余裕が残っていたらしいミヤがアゼルニクスとベリスバドン、2人共が首につけている同じ刻印を不思議がったのがことの始まりだった。

 まだそう遠くない過去の一幕を思い出しながら、ベリスバドンは右首にある爪ほどの大きさの印を指でなぞりながら、頷く。

「はい。そういうまじないなのです。程度によっては、命までは取られないかも知れないですがね」

 魔女は言った。ミヤが不幸でないのなら、どれほど彼等が彼女を束縛しようが、この呪いは発動しないと。ただ悪魔の習性がミヤを苦しめた時、同じだけののろいが返ると。

 基本的に『魔女の刑罰』は制約違反した者の罪の重さ分だけ、肉体が傷つけられるのろいだ。そういう意味では、ありえないが彼等が浮気した場合にも発動するということになる。


「なんか、いやです。2人がそんなのくっつけてるなんて。エイリスとかならとれたりしないんですか?」

 薄闇の中、顔を顰めて黒い花の刻印に触れてくるミヤは、頼もうと言っている相手がこれをつけたことを知らない。もちろん双子達もそれを教えるつもりはないから、ありがとうと微笑んだ。

「いいのです。これは、つけておかなければならないんです。それに約束を破らない自信が私達にはありますから、心配は無用ですよ」

 自分達を心配してくれている嬉しさに頬を緩めながら、アゼルニクスはそっとミヤの髪を梳いた。


 手放したくない。誰の目にも触れさせたくない。


 彼女が妻になってから、彼等の本能は膨れる一方だ。けれど、無理矢理それを押さえ込まなければ、ミヤはミヤでいられなくなってしまう。

 だからこれで丁度いいのだと、2人は微笑んでいた。

「さ、もう休みましょう。起きられなくなりますよ」

「そうそう、ほらちゃんと暖かくして」

「はい」

 両側から柔らかく小さな妻を抱きしめて、視線を交わした彼等は明日話そうと決めた。

 近くミヤの夫となることを望んでいる双子の天使に、『魔女の刑罰』を受ける覚悟はあるかと。きっと躊躇わずに頷くだろうことは、想像に難くないが。


 キレイな魂に捕らわれた男は、甘んじて極上ののろいを受けなければならない。

 今後ミヤは抱かれる男の腕の中で、いつでも同じ黒い花を見つけるだろう。

 細く差し込む月光に照らされた刻印を。


いらないような補足


基本的にベリスは通常口調が違います。ミヤに接する時だけ丁寧なのは故意にアゼルと合わせているからです。彼女に双子を別の男と認識して欲しくない、彼等の意図がその辺に出ています。


なんとなくそうだろうと考えられている通り、エイリスは良い羊…いえ、良い魔女です。


そのうち閑話で200年前のお嬢さんのお話を書けたら良いなとか考えてます。ネタは…あるような、ないようなです。時々投下する閑話ではこうした裏ネタをばらしていけたら良いなぁと思ってます。

余談ですが、たまにお話がシリアスチックになるのは、いきなり出てくる連中がみんなミヤを好きじゃおかしいだろう!…っていう矛盾を解消したい欲求が私の中にあるからで、何事にも理由をつけなければ納得できないうざったい性格のせいです。そんなもんどうでもいい、とにかくラブラブが好き!って方は、くどくなった時点で読み飛ばしていただけるとありがたいです。


っていうか、すでにここに書いていることがうざったい。すいませんでした。

次話からちょっとだけ、シリアス傾向になる、予定です。

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