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キレイの定義  作者: 他紀ゆずる
起編
32/80

31 藪を突いたらアナコンダが登場です

見方によっては、精神的残酷表現があると思います。

お気をつけ下さい。

「ところで疑問があったんですけど、解消してもらえます?」

 微妙にタイミングを計っている節のある双子を煙に巻くため、いろいろ、本当にいろいろあって聞けず終いだった謎を解いてもらえないかと水を向けてみました。

 あ、因みにまだ平和な客間にいますから。お茶はいつの間に手に入れたのかエイリス特製のもので、1人用のソファーにどっかり座るわたしの正面に、カウチに並んだ天使さん達がいます。

 空気は緊張感か漂うモノですが、気にしちゃいけません。ようは気合いで持ちこたえれば良いんです。


 そんなわけで、答えてもらえるか問うと、メトロスさんが頷いてくれた。

「いいよ。何が知りたいの」

 許可が出たなら、幸い。お茶をテーブルに戻しつつ聞いてみる。

「天使と悪魔って、お互いの一族同士でしか結婚しないんですか?たとえば天使のお母さんに悪魔のお父さんとか、どっちの血も受け継いだお子さんとかか、存在しないんですか?」

「いるよ。すごく少数だし、その時点で悪魔にも天使にも認められない存在になるけど、いる」

「…は?認められないって、どんな扱いなんです?」

「他の種族と同じ扱い。でも、感情は食べるんだよね。『エサ』にはなれないのにさ」

「え~可愛そうじゃないですか、それ。どっちかの一族に入れてあげられないんですか?」

「無理。だって喜びも苦痛も食べるなんてどっちつかず、質が悪いじゃない。お互いを嫌悪し合ってる僕らが、受け入れられるわけないでしょ」

 平然と言いながらクッキーを口に放り込んだ彼を見て、脳裏に浮かんだ場面がある。ハーフの子供が謂われのない差別を受ける、戦時中を描いたドラマだ。


 別に殺し合うほど仲が悪いわけじゃないのに、そこまでお互いの存在を否定し合うなんて、生理的嫌悪って言うのは大げさな表現じゃないみたいですよ。むしろ具体例を示さなかっただけ、婉曲表現だった気がします。

「そこまで根本から受け入れられないのに、よく結婚しようなんて強者が現れますね」

 生まれた子供はどちらからも受け入れられないとわかっていながら、それでも生むんだから酷く勇気がいるだろうと呟くと、サンフォルさんがそうだなと同意してくれる。

「全く理解できないが、必ず現れるんだ。数十年に1組くらいそういった物好きがな。だが、本人達は幸せでも、子供は哀れなものだ」

「………確かに」


 身勝手な自己満足から生を受けた子供は、どれほど両親が愛情を注ごうとも世間から認められない。しかも親は自分より必ず先に死ぬんだから、残された彼等はたまったものではないだろう。

「どこで暮らしているんですか、その子供達は」

 どこにも属せないどこにも属さない、そんな天使や悪魔は生まれ育った社会にいることができないんだから、どこかでコミュニティーを作っているんじゃないんだろうか。

 何となく思いついたことなのに、メトロスさんは不快そうに顔を歪めると吐き捨てた。

「スラムだよ。『エサ』が手に入りやすく、一族の目につきにくいスラムで奴らは暮らしている」

 いつにないその怒りに、やっぱりそんな人達を彼は嫌っているんだと切ない気分になっていると、

「あんなバカ共のせいで、子供達は最悪な環境で育つ羽目になる。やっと保護しても大抵は手遅れで、凶悪な暗殺者になることが多い」


 悔しそうなその声に、ああ違う。この人は優しいんだとしみじみ思った。

 理解できない、一族には迎えられないと言いながら、生まれ出でた命を哀れんでいる。だからこそ、その末路に腹を立てるのだと。


 スラムはエイリスと住んでいる頃に、近づいてはいけない場所だと教えられたところだ。あの出不精の魔女が、裏路地を数本入った先までわざわざ一緒に来て、ここから先がそうだと見せてくれた。

 昼でも陰鬱としたそこは、荒れ果てた石積みの建物と腐臭、なにより血の臭いのする場所だった。日もほとんど当たらず、人の気配もない。

 お化けでも出るのかと聞いた時、魔女は少しだけ顔を歪めて否と言った。ここには人が住んでいるのだと。訳あってで生きられない者達のねぐらで、少々魔法が使える程度のわたしではいいカモにされ殺されるのがおちだから、決して近づいてはいけないと。


 あんな場所で育たざるを得なかった子供。天使からも悪魔からも見放され、きっとこの世の全てを憎んでいるだろう子供。


 殺人を生業とするには、もってこいの生い立ちだろう。いや、それ以外にできる仕事がないのかも知れない。

 そう考えるともっとメトロスさんの辛さが染みるようで、わたしは胸を押さえた。

 まさか何気ない質問に、これほど重い返答がなされるとは思ってもいなかったのだから。

「あの、変なこと聞いてすみません。そんなつもりじゃなくて、ただ天使の王様が悪魔のアゼルさん達とわたしの子供を息子の妻に欲しいっていっていたのを聞いて、異種族結婚とかあるのかなって考えてただけなんです」

 お互いを嫌悪し合っている者同士でありながら、なんでそんなことを言ったのか気になっただけなのに、思いがけずダークサイドを覗いてしまってオロオロしていると、微笑みを浮かべたサンフォルさんがこちらの疑問は解決してくれた。


「同じ一族でなくとも、人間の血が入ったのなら話しは別だ。彼等は女であれば、夫の食料となる感情を生み出せる。男であっても他の同族より強い力を持つことは確実だが、感情の提供はできない。だから、息子限定で妻に欲しいと王は言ったんだ」

 納得すればそれは至極簡単なことでした。

 そうか、そうなんですか。あのスラムの子供達も、一滴でも人間の血が流れていたのなら、あんな場所で暮らさなくても一族の中で大切に育てられたってこと、なんですね。


 理解した途端、わたしは妙な使命感に駆られてしまった。

 勿論、大前提としてメトロスさんサンフォルさんを好きになるところから始めなくちゃいけないんだけれど、それさえ過ぎれば後はとっても簡単だ。

 握り拳を作り、未だ怒りの抜けきらない様子のメトロスさんと、穏やかにこちらを見ていたサンフォルさんに顔を寄せる。

「頑張りましょう。一杯、人間の血を残せるように。何十年かに1度恋愛して子供作っちゃう天使や悪魔のために、わたし子供産みますから!」


 知らなければやり過ごせることも、知ってしまえば何かせずにおれない。といったわけでの子作り宣言だったんですが、2人は斜めに取りました。都合の良いように軌道修正をしました。

「そりゃあ名案だね。それじゃ早速寝室に行こうよ」

「ああ、善は急げというしな」

 立ち上がりわたしを抱き上げに来そうな勢いにちょっとびびりましたが、負けません。これ、大事ですから。

 逸る天使を簡単な足止め魔法で止めて、術を破られる前に早口で宣言です。


「まず、知り合いましょう。わたしの許可なくいかがわしいことしたら、即隣に逃げ帰りますからね?」

 絶対譲らない覚悟で見やると、一瞬考える素振りをした2人は小さく舌打ちして元のソファーに逆戻り。

 やっぱりわたし程度がかける魔法は、秒殺で突破されちゃうみたいです。

「りょーかい。納得したいわけじゃないけど、せっかく結婚を前向きに考えてくれてるミヤに逃げられるのは、ごめんだ」

 行儀悪く足を組み、背もたれに両腕を預けたメトロスさんは天井を仰いで降参のポーズ。

「そうだな。こんなに早くミヤが来てくれただけでも、喜ばしいんだ。もう少々待つくらいどうということはない」

 一方、両膝に腕を預けて前屈みで口の端を上げたサンフォルさんは、大人の余裕を見せている。


 ともかく、第一段階は無事突破できたようです。

 

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