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キレイの定義  作者: 他紀ゆずる
起編
30/80

29 隣家への道のりで、不可解な関係に遭遇です

少々、箸休め的なお話です。進展はほぼ、ありません。

 ヘロヘロになるまで、いろんな意味で食べつくされた翌日。さすがに罪悪感にかられたアゼルさんとべリスさんから、ぺったべたに甘やかしてもいました。

 満足です。体は辛いですけど、めちゃめちゃハッピーです。しみじみと、優しくて綺麗な旦那様をもってよかったなぁと、愛されちゃってるわたしだって2人に恋しちゃってると自覚しました。


 まだ、愛になっていないところがポイントです。もしかしたら彼等も愛じゃなく、執着とか『人間』に対する独占欲かもしれないけど、ともかく繰り返し愛していると言ってくれるので、彼らのは愛だと信じておくことにします。

 でも、わたしは恋。だって、愛なんてまだわからない。本気で人を好きになった時の行きつく先を理解できるほど、大人じゃありません。


 なので、約束の朝、迎えに来たサンフォルさんとメトロスさんに連れられていく様は、多分かの童謡のような風情だったのではないかと思うのです。

 金銀の大きな白人に両手をそれぞれ預け、連れられていく小さい日本人。

 背後では悲壮感を漂わせた悪魔の旦那様たちと、悪魔の使用人の皆さんが見送ってくださっている。彼らは状況が呑み込めているのに、当の本人のわたしは大した感情もなく、ぼんやり連れて行かれるがまま…これで赤い靴を履いていたら、完璧なのにっ!

 なぜか握り拳を作ったわたしを、天使さんたちが不思議そうに見下ろしていますが、当然です。日本の童謡を遠く離れた異星の住人が知っているわけないし、ましてや内容なんてわかるはずもない。


「えっと、お2人のお家ってお隣なんですよね?」

 そのあたりの説明が面倒で、さっさと話題転換しようとにっこり笑って見上げると、サンフォルさんがなぜか顔を顰めながらもそうだと頷いてくれた。

 どうしてそんな怒ったような目でわたしを見るんだろうと、首を傾げているとメトロスさんが答えをくれる。

「これ、あいつらがやったの?」

 加減なしに後ろから襟元を引っ張られて、ぐえってなった。


 長すぎるドレスは苦手なので、足首丈のシンプルなワンピースを普段着にしているわたしは、今日は首の半分以上まで隠れる高襟のモノを着用している。

 理由は簡単。夜というか昼というか…その、口に出しづらいいろいろの最中に、双子のどっちかにカプリと首筋を噛まれちゃったから。意識朦朧中にはよくあることなんです。特におとといがひどかったのは、まあ、今日のことがあったからなんだけど。


 苦しそうにしているの気づいて、メトロスさんはすぐ手を放してくれたけど、視線はずっと噛み跡に据えたまま、わかりきってる返答をわたしがするまでそうしているつもりらしい。

 しょうがないからできるだけなんでもないことに見えるよう、へらっと笑いながら頷くと、少々子供っぽい発言が多い彼はあからさまに不機嫌な顔をして舌を鳴らした。


 あの、ガラ悪いです。天使の容姿で、舌打ちとか似合いません。


 少々痛い子を見る感じでメトロスさん見上げると、更に彼はご機嫌を斜めになさいました。

「あのさ、ちゃんと嫌だっていいなよ。噛まれたり、縛られたり、好きじゃないでしょ、そういうの」

 ぐっと目の高さまでひっぱり上げられたわたしの手首には、擦過傷がある。できるだけ傷つかないように気を使って、柔らかくて太い布で縛られながらやっぱり口に出すのははばかられる行為をしてくれたんだけど、苦痛と快楽に我を忘れてもがくので、どうしてもこういうのが残ってしまうのだ。

 きちんと袖で隠していたはずなのに、どうしてばれたんだと視線だけで問うと、わかるに決まってると冷たい目をされてしまった。


「連中は苦痛、恐怖、悲哀を好んで喰らうんだよ?ミヤを愛していながら、それらの感情を大量に摂取しようとしたら、ひどく抱くしかない。君をベッドに縛り付けて羞恥を引きずりだし、快楽を与える前に押し入って痛みを喰らう。その後で囁くんだ『愛している』『赦して欲しい』ってね。ほーんと、間違った愛情表現しかできない連中だよ」

「あの、覗いてませんか?寝室」

 あんまり的確に状況を再現してみせるものだから、ついつい疑いを抱いてしまったのだが、

「…へぇ。ミヤの僕に対する評価がよくわかったよ」

 これこのように、全く暖かみを感じられない笑顔で返されますと、もう言葉も出ません。恐ろしくて。


 悪魔より、天使の方が邪悪なんじゃありません?


 体を縮こまらせて思わずサンフォルさんに救いを求めると、ふっと口元を緩めた彼は自分の片割れを諫めてくれた。

「その辺にしておけ。ミヤが我々の間に根付く嫌悪を理解しない限り、悪魔と天使は互いの習性を知りすぎるほど知っているという事情に、納得することはできないだろう。となれば、今の発想は極めて自然だ」

「わかってるよ、そんなこと」

 不機嫌ながらも頷くメトロスさんと、苦笑いを浮かべるサンフォルさん、そして部外者のわたし。

 天使と悪魔に関わるようになってから、そこそこ理解していたと思っていたこの星の住人の生態が、度々意味不明になるのはこんな瞬間だ。どうやら天辺に君臨する2つの種族の間には、とーっても高い壁があるらしい。それも双方向に『立ち入り禁止』とでも書かれた、ひどく厳重なやつが。


 これは是非謎解きをしておかねばなるまいと、手短に彼等の説明を求めると、本気で簡潔明瞭なお答えを頂けた。

「生理的嫌悪、これに尽きる」

「本能的に彼等そのものを、受け入れられないだよ」

 すぱっと、言い切っちゃうんですね。そして、わたしの翻訳機能は大変正常に働いていたわけですか。


 天使が悪魔を敵対視するのは、地球では当然のことだと理解されていた。なにしろ、黒と白、善と悪、天国と地獄、彼等に関係するものは相反するものばかりだ。

 行動もさることながら、生理的・本能的に受け付けない存在ならば、嫌い合っていても仕方ない。そして、なぜだかそういった相手こそ、よく知っているものだしイヤでも関わっちゃったりするものだ。

 なので、理解したし、できた。


 彼等はお互いを大変意識し合っていて、お互いを無視できないほどの感心を持っていて、お互いに常に競い合っていなければ気が済まない好敵手だっていうことが。


 そう説明したら、2人は顔を真っ赤にして反論してきましたけどね。

 延々と、100メートルの短い距離を自宅へ着くまで、ずーっと。

 手を変え品を変え言葉を選んで、いかに自分たちが悪魔を嫌いか力説するんです。

 だから教え損ねちゃいました。


 嫌いの本来あるべき姿は、無視だってこと。本当に嫌悪する相手には、無関心になってしまうんだってこと。


 早く、気づけると良いですね、2人とも!


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