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キレイの定義  作者: 他紀ゆずる
起編
28/80

27 自分の知らないところで、話しがどんどん進んでます

「すごいね、ミヤ」

「ああ、すごいな」

「ふへ?」

 傲岸不遜な悪魔が現れた日の夕飯時、ケーキを手にメトロスさんとサンフォルさんがお食事をしに来たのですが、昼の顛末を聞くなりケーキをほおばっていたわたしにこう言うわけです。

 そして何のどこがすごいのかわからず聞き返したのを、アゼルさんがすかさずフォローしてくれるわけで。


「スローネテス様は、人間を祖とする悪魔の中で現在、最強と謳われているお方です。その上お父上は現国王、権力においても最高位に近い場所におられるわけですから、年頃の娘を持つ悪魔達は毎日彼のお方に縁談を持ち込んでいると言われているほどです。それを貴女はいっそ気持ちいいほどの冷酷さで切り捨てたんですから、2人が驚くのも無理がないと言うことですよ」

 無礼な人が置かれている状況を聞いて、わたしは唖然とする。

 偉いのはわかってたけど、能力もある人だったわけね。そりゃあ、あんなこと正面切って言われたら、怒っちゃうかもね、うん。

 納得して、口の中のケーキをこくりと飲み込んだ。


 余談ですが、男女比率が狂った星において、唯一正常なほぼ5:5を保っているのは悪魔族と天使族だけです。 こうなると、あの人がいった『犠牲者』というのは、あながち嘘じゃあないようですよ。

 同族で、容姿も好み、能力も同等、権力も釣り合うお嬢さんと、人間という以外の付加価値を持たない女。

 どちらを選択するかは、推して知るべしです。わたしなら何が何でもわたしとの結婚だけは避けます。絶対お断りです。


「それは本気でお気の毒様ですね、あの方。なんとか別の方にトレードして下さいって交渉は、できないんですか?」

 生涯を1人の相手と共に過ごす彼等だからこそ、嫌いな女と結婚しなくちゃいけないのは苦痛だろうと提案すると、4人は揃って顔を見合わせ、何故か幸せそうに目配せしている。

「交渉はお任せ下さい。得意とするところです」

「だね。はかりごとなら、僕とアゼルニクスの2人で充分いける」

「もしも揉め事になっても私達がいるしな」

「ええ、これでも荒事は得意なんですよ」

………なぜ、それほど満面の笑みなのか?聞くのは怖いので、あえてスルーします。


 取り敢えず、皆さん一致団結してあの方を救う気満々だってことは、理解できました。

 お互いのためにも、それが最良の道でしょう。

 それはいいです。それはいいいんですが。


「あの~?気のせいじゃ無ければ、微妙にメトロスさんとサンフォルさんが浮かれているように見えるんですけど、気のせいですか?」

 それは、彼等が屋敷に現れた時から感じていたことだったのだけど、話題の中心があの方に終始していたもんだから、なんとはなく聞きそびれて食後まで来てしまったことだった。

 殺伐とした話題からの転換には、無難な内容だろうと、お天気の話でも振る気軽さで問いかけてみたのだけれど。


「見間違いですよ」

 アゼルさんは何やら背筋が寒くなるような微笑みで、否定。

「ミヤ、食後のお茶はどうですか?」

 ベリスさんは脈絡なく、ティーカップをくれ、

「ふふふ、いいことがあったんだよ」

 メトロスさんは、それはそれは嬉しそうに顔をほころばせ、

「私達を次の夫に選んでくれたことに、礼を言う」

 珍しく唇に笑みを乗せたサンフォルさんが、答えをくれた。


 わたしはというと、彼等の言葉をゆっくり反芻し、お茶を飲み、無言を貫くという、ささやかな現実逃避に出ていたのだけれど、不機嫌に顔を顰める悪魔ツインズと不気味に顔を緩める天使ツインズが、それを許してくれなかった。

 所謂、現実ですと、態度で皆さん語るんです。


「………え~…わたし、選びましたか?…覚えがないんですが、いつ頃…?」


 たった1度だけ、そうと疑われる発言をした記憶はあるんですが、まさかさっきの今で、しかも限られた人しかいなかった場所での発言が、はっきりとした意思を持つとも思えず、とぼけてみました。

 上機嫌な天使さん達が、見逃してくれませんでしたが。


「ここを出た後、スローネテス様が王宮に”メトロス”と”サンフォル”を名指しで訪ねて来たんだよ。そして、僕らの顔を見るなり聞いたんだ」

「貴様らが、人間の選んだ次の夫か、とな。事情を質せば、ミヤ本人がそのように言っていたと言うのでな、貴女の意思が固まったのなら我々に否やのあるはずはない」


 ここは、いいですよね?当然、悪態をついたって許されますよね?

 あのくそ悪魔!!次会ったら、絶対殴る!そこが王宮だろうが、王様の前だろうが、絶対殴る!!

 己の発言とは言え、まさか本人達に伝わると思わなかったわたしは、心の中で熱い怒りをたぎらせながらも、一体どうやって彼等に言葉の綾だったことを納得して貰おうかと思案していたのだが。


「僕ね、王から祝辞を頂いたんだよ。ついでに娘が生まれたら、是非とも息子の妻に貰えないだろうかって打診していただいてね」

「そんなもの、私だって結婚を宣言した一月と少し前に頂きましたよ。息子の妻の話も、同じようにね」

「天使族の長からも、お褒めいただいた。我らの、ひいては世界の未来にも関わることなのだから、しっかり子作りに励むようにも命じられた」

「同じですよ。世界の、そして一族の未来を愁いているのは、悪魔とて一緒なんだですから。しかし、子供なら先に結婚している私達の方が、有利だと思いますが?」

「関係ないだろ、後先なんて。あんなのタイミングの問題だよ」

「ならば余計に、ミヤと褥を共にする数の多い私達が幸運を掴むでしょうね」


 あああっ!どんどん会話に取り残されていく!そして、なんだか否定できないところまで勝手に話しが進んでる!どうする?どうする?!

 喧々囂々議論を戦わせ、全く本人無視の人達に割り込むタイミング見失ったわたしは、途方に暮れていた。

 しかも微妙に下ネタが混じってる気がする。そういうの、人前でして欲しくない話題なんだけどとか、言いづらい空気が流れてる!

 だらだら冷や汗を流すっていうのを、比喩じゃなく本気で実践してたわたしは、4対の瞳が一斉にこっちを向いた時、完全に冷静さを失ったんだと思う。


「で、ミヤ?今晩は家に泊まるよね?」

「そうだな、事実上も結婚するのなら早いほうがいい」

「バカなこというんじゃない。ミヤにだって心の準備が必要だろう」

「そうですよ、自分たちの都合を押しつけないで下さい」

 言い合いも、言いたいこと言えないのも、もう沢山!

 椅子を蹴倒す勢いで立ちあがったわたしは、全力で食堂を逃げ出した。


「色々全部、考える時間を下さい~~~!!!!」


 尾を引く叫びを残しながら、その夜、久しぶりに自室に戻るときっちり鍵をかけて眠った。もちろん、バルコニーにも施錠を忘れなかったのは、取り乱しても学習機能が働いたおかげだと思う。


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