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キレイの定義  作者: 他紀ゆずる
起編
24/80

23 酷いの後の優しいは、基本です

「次は何を召し上がりますか?」

「水分も必要ですよ」

「んぐっ、んぐ、んぐ」


 口の中にものが一杯で喋れません。

 でも視線を追って、アゼルさんは欲しいと思っていたお肉を差しだしてくれたし、ベリスさんは果物ジュースのグラスを口元に運んでくれる。

 ベッドから動くこともままならず腕さえも上がらない状態で、でも栄養補給をしなくちゃ死んでしまうほど疲労困憊のわたしには、このかいがいしい介助は非常に助かっています。

 いえ、原因を考えれば、彼等がここまでするのは当然と言えば当然の気もするんですけどね。


 迂闊にも、昼前に彼等といろんな意味で本当の結婚をしても良いですと誓約してしまったわたしは、薄闇が迫るこんな時間まで解放してもらえませんでした。

 感想は…痛くて辛くてしんどかったです。ううん、現在進行形で、痛くて辛くてしんどいです。

 本当は気絶していたんですけど、しばらく意識のない人の体を撫でたり摩ったりして楽しんでいた旦那様達は、いいかげん体力回復させないと貰ったばかりの嫁が本気で昇天してしまうと気付いて、食事を用意してくれました。


…というのは、彼等の自己弁護に近い説明です。事実は気を利かせたカイムさんがいろいろな手配をしたんだろうってことは、容易に想像がつきます。

 だってわたしを挟んだベッドの両側に、いつの間に着替えたのか夜着で横たわる2人は、とってもそこまで気が回るほど頭が動いてるとは思えない、にやけきった顔、してますから。

 通常モードがイケメン度マックスだとすれば、現在マイナスマックスです。自分のことを過剰評価する気はありませんが、どう見たってわたしのこと以外、考えているようには見えません、イタイことに。


 まあ、やに下がった情けない夫を見たい妻はそうそういないと思いますが、取り敢えず現在は助かっているんで良しとしようかと。

 なんとか指先や首は動かせるようになったしね。

「んぐ。ごっくん、と。はい、もうご飯はいいです」

 体力は平時の半分ほどしか戻っていなかったけれど、これ以上は胃拡張気味だったお腹でも受け付けないので、いったん食事を終了宣言する。

 それにほっとした表情を覗かせた2人は、食器類をサイドテーブルに片付け、今度は頬にキスやら髪にキスやら、過度の愛情表現をし出した。


「すみませんでした、ミヤ。貴女に辛い思いをさせてしまって」

「許して下さい。決して貴女が憎くてやったことではないのです。ただ、私達にとってはああすることが普通のことなので」

 その辺は理解できるのでコクリと頷いて、わたしの表情を伺っている双子を改めて見て、気付いた。

「なんだか、心なしか肌つやがよくありませんか?」


 別に普段が具合悪そうだとか、不健康そうだとかそういうことではなくて、例えるならそう、キラキラ輝いて見えるとかそんな感じなの。取れたての野菜みたいに、鮮度が目に見えてわかる、風なんですけど?

 何故だろうと、首を傾げながら彼等を眺めていると、アゼルさんがわかりますかと、嬉しそうに微笑む。


「これまでにないほど、魔力が満ちているのです。これはミヤの感情を思うさま貪れた結果だと思うのですが、今なら王でも倒せそうですよ」

 何言っているんですか、そんなことしたら国家反逆罪で捕まっちゃいますよ。

「本当に、力が漲っているのです。今までにももう良いと言うほど感情を喰らったことはありますが、これほど満たされたことはなかった。人間の、それも愛する方から与えられる感情とは、これほどに素晴らしいものだったのですね」

 ベリスさん、目をキラキラさせて力説されても困りますから。今後もこんなことが頻繁に続いたら、わたし、死にます。確実に早死にします。


 胡乱な目で興奮する旦那様達を眺めていると、いち早く気付いたアゼルさんがふっと現実に戻ってきた。

 そして、わたしの頬を優しく撫でながら、大変ありがたいことを教えて下さったのだ。

「安心して下さい、ミヤ。この状態ならば、私達は10日は感情を必要としません。つまり、貴女はその間、ゆっくり体を休めることができます」

「それ、すごいですね!」

 思わず本気で感動してしまった。だってこれまでは最低でも3日に1度食べなきゃ死ぬって脅され…いえ、教えられて、それは困るとこまめに食料の提供をしていたのに、それが7日も延長されるなんて、すっごい嬉しいお知らせです!これでこれ以上の胃拡張を押さえられると、神様に感謝しちゃいました。


 わたしの様子があまりに嬉しそうだったせいか、ベリスさんは少しだけ顔を曇らせて、小さな声で聞いてくる。

「もう、私達に抱かれるのお嫌ですか?2度と愛し合いたくない?」

「………」

 言葉に詰まってしまったわたしを、責めないで欲しい。なにしろ正直に言えば、あれは2度と体験したくないことなので。

 でも、返事をしなかったことを気にして、肩を落としてしまった2人を前に本音を言えるわけもない。なので、ちょっとだけ、譲歩してみる。


「いつもいつもああいうのは…イヤです。痛いのは…その、気持ちいいのとセットにして貰ったりもしたので何とか我慢できましたけど、無理矢理も愛があるんだとわかってるんで我慢しますけど、意識なくなるまで食べられちゃうのはきついです」

 言い淀みまくりだったのは、我慢できることと我慢できないことを選定しながら話していたからだ。

 今もあちこち痛いのは…まあ、初めてだったってことで次回はここまでひどくないだろうなって…きっと、うん、信じてる。

 だけど起きたら口をきくこともできないほど感情を食べられていて、お腹が空いて餓死寸前な気分っていうのはいつもいつも味わいたいものじゃない。なにしろこっちは命が危険にさらされる、恐ろしい事態なのだ。


 その辺を改善してもらえないかなぁって、彼等をそろそろ伺うと、真剣な顔で激しく頷いていた。

「もちろん、次回はあれほど性急に大量な感情摂取はしないと誓います」

「今回は初めて貴女が私達を愛していると言って下さったことに興奮して、いささか行動のコントロールが効かなかっただけです。次は決して暴走しないと約束します」

 その様子があんまり必死で、普段の気取った様子からは想像もつかないほど従順で。


 犬みたい。


 気付いたら、忍び笑いが漏れてしまった。

 もちろん2人には訝しげに見られちゃいましたが、理由は言えません。自分より年上で、その上とっても強い悪魔の貴族様に、犬とか言ったら失礼ですからね。

 なので誤魔化すようにとびきりの笑顔を作って、可愛く見えますように祈りながら小首を傾げ、お願いしてみたりして。

「はい。次は優しくいじめて下さいね?」


………言葉には、気をつけた方が良くて、行動には重々注意しないと恐ろしい目に遭う。

 そんなことを学んだ夜でした。


ムーンライトさんには、皆さん無事にたどり着けたでしょうか?

辿り着いてはいけない年齢の方、あえてそう言ったものは必要がないとお読みにならない方、前話との続きは不都合がないよう校正したつもりですが、意味がわからない等ありましたら、遠慮なく仰って下さい。修正いたします

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