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キレイの定義  作者: 他紀ゆずる
起編
2/80

1 召還直後に侮辱されました

 蒸し暑い夏の夕暮れ、部活帰りのヨレヨレ状態で家を目指していた足下が、不意にふにゃりと頼りない感触を伝えてきて、なんだっと意識をこらせば周囲は………ごめん、ちょっとワケわかんないんですけど?

 なにこの人口過密。

 ぼんやり視線を上げた先には、人の背中があった。で、隣見たら人の顎。反対側見たら人の肩。振り返りたいけど、そんだけのスペースはない。


 いきなり満員電車に乗った風と申しましょうか、お正月の初詣状態と申しましょうか。ともかく右も左も人、人、人、なわけで。

 それもなにやら160あるわたしよりもかなり大きめな人ばかり。服装も前衛的デザイナーもびっくりな奇抜な感じなんですよ。全身タイツみたく体にぺっとり張り付いて光沢のあるものから、南国ムード満点な布巻き付けただけのものまで、そりゃまあ様々。

 制服にジャージの入ったでっかいバックを持ったわたし、はっきり言って浮いてます。その上この狭さじゃ、お邪魔になってます、恐ろしく。


 すいませんご迷惑かけてと、隣の人を見上げて…硬直しましたよ。

 だってね、こっちに向けられた目が、目が、にゃんこの目、なんでして。ほらほら、あの縦にラインの入ったあれです。


 声も出せず慌ててうつむいて再び硬直。

 なんで足に水かきがついているんですかーっっ!!そのアキレス腱あたりに生えてるの、魚の背びれに見えますよ?!なんかもう、裸足で歩いている事実よりそっちのがよっぽどおかしいーっ!!


 意味不明な状況に無理矢理首を左右に振って、三度みたび硬直です。

 紙の色が…違った、髪の色がピーンークーっ!!!しかもショッキングっ!事実もショッキングだけど、色もショッキングっ!あああ~っ!!!あっちの人は角生えてるよっ!しかもおでこからざっくり30センチほどって、あれじゃうつぶせになるのは難しいよね?!つーかもう、何に驚いてるか自分でもわかんないっ!!!

 

………てな、静かな錯乱状態の中。耳が現状を打開するのやらしないのやら、よくわからない言葉を拾う。


「ああ、この娘は美しいな。オレはこの子にしよう」

「私はこの娘を。やはり尾がある方が美しい」

「一角か。本当は二角がよかったが、この際どちらでも良いか、おまえは美しいしな」


 どういった判断基準なのかはよくわかりませんが『美しい』が飛び交っていることだけは、わかる。そしてそれを発しているのが男性の声だって言うのも。

 この辺りを総合して予想していくと、周囲にいる人たちはみんな女性のようですね。そういや誰も彼も、やけに腰がくびれてたような、胸も大きかったような気がしてくるわけで。


 一体全体なにごとなんだと、現状理解に努めようと努力しているわたしの前にふと影が落ちる。

 なんだ?と首が痛くなるほどそらした先に、やけに耳の尖った吊り目のばかでかい男がいて、こともあろうか人の顔を確かめるなり一言、とんでもない暴言を吐きやがりました。


「なんだ、この矮小わいしょうな生き物は。あげくにみすぼらしく、見苦しい。美しさの欠片もないじゃないか」


 人間、過ぎた侮辱を受けると咄嗟に言葉が出なくなるのだと知る。

 確かにこの中にいたらわたしは小さいだろうさ。ちんちくりんさ。だけど、矮小って何だ!詳しい意味まではうろ覚えだけど、確かそれを人様相手に使うときは馬鹿にしてるときだった気がするぞっ!

 しかもみすぼらしいとか見苦しいとか、確かに美人じゃないし騒がれるほどかわいくもないけど、並な顔してる…筈、多分。この辺は自己評価と、採点の甘い友人、親族評価だからあんま自信はないけど、それだっていきなり罵倒されるほど自分が不細工だと言われたのは、初体験なんですけど?!

 怒りのあまり怒鳴ってやろうかと思ったところを、誰かに腕を引っ張られて、そいつの前から引き離された。


「ちょ、なに?!」


 しかし、ともかく一矢報いてやらなきゃ気の済まないわたしはそれをふりほどこうと必死に藻掻いたんだけど、やっぱりここにも体格差が如実に表れてしまった。

 どうやら頭一つ分は優にでっかい相手にずりずり荷物のように引きずられ、人混みの中心から草の生い茂る端っこへと強制移動させられる。


 そこでやっと自分のいた場所の全貌を確認できたワケだけど、なんですか、これ?


 周囲を木々に囲まれた中心に、2メートル四方位の四角いコンクリートの板?いや、石か?わかんないけどそんなのがあって、周りには白く足が隠れるほど長いマントみたいなもんを頭からすっぽり被った性別不明な人間が8人立っている。

 で、四角の中にはざっと見積もって20人強の女の人っぽいのと、ほぼ同数の男の人っぽいの。

 なんで『ぽい』なのかって言ったら、さっき見たみたいに角があったり、髪がとんでもない色だったり、尻尾があったり、鱗があったり、かぎ爪もってたりして、既にこれを人間のカテゴリーに入れていいのか甚だ疑問だったからなんだけども。


「へえ珍しい。あなたは一体何から進化したの?鳥とも獣とも魚とも蛇とも違うようだけど」


 あの混乱から連れ出してくれた人物は、高い女性の声でこんな風にわたしに聞いてきたのだ。

 顔いっぱいに疑問を乗せて振り返れば、成る程、彼女も頭に羊の角みたいなでっかいぐるぐるを2つ付けて、にゃんこの目が90度傾いた羊と同じ目をしてた。服装は石の上にいる人達よりは地味で、飾り気の無い足首までのワンピースと、ねずみ色の分厚いマントを着けている。

 確かに、こうも動物っぽい人間の中に放り込まれたら、なんの特徴も無い人間は、目立つかもしれない。でも、何から進化したかって聞かれると、う~ん?


「………どっかの学者が言うには、元は単細胞のアメーバってとこですかね。で、魚類や両生類を経て猿、だから獣?そこから尻尾やら毛やらを削ぎ落としたら人間ていう哺乳類のできあがりです。最もこれには諸説あって、爬虫類から進化したんだとか、宇宙人が定住したんだとか、結構あやふやな出生なんですよ、わたし」


 やけくそとばかりににっこり笑って説明すると、隣の彼女もにっこり笑う。


「ああ、やっぱり人間。文献で知ってはいたけど見たのは初めてよ。へぇ~200年ぶりくらいね、人間が召還されたのって」


 …今、聞いちゃいけないことを聞いた気がします。

 笑顔でさっくり召還、とおっしゃいました?それってあれですか、ファンタジーの定番設定ですか。そんじゃ、ここは押さえとかなきゃなりませんよね。


「あの、わたし還れます?」

「還れないわ。残念ね」


 へ~そうなんだ。ふ~ん。

 ………つーかさ、お願いだからそういうのはもうちょっと深刻に言ってくんないかな。すっぱり切んないで、胸が痛いから!

 おかげで泣きわめきそびれたじゃないかと、ざわつく集団お見合いの連中を眺めながら、ぼんやり思った。



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