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キレイの定義  作者: 他紀ゆずる
起編
14/80

13 これ以上、夫候補はいりません

「なぜ魔女を喚んだのですか?」


 またもやエイリスの失言で、アゼルさんから微笑みを向けられるはめになってしまった。この手の笑みは目が笑ってなくて怖いので、やめてほしい。

 焦って嘘でも言おうものなら怪しまれるし、なにより嘘をつかなきゃならないような理由でもないので正直に理由を話すと、メトロスさんがそれみたことかといわんばかりの得意顔で悪魔の双子を責め始めた。


「本能の赴くままに感情を食べるから、ミヤは怒って引き籠らざるを得なくなって、とばっちりで呼び出された魔女のせいで僕たちまで振り回されたんだけど、これでもまだ自分たちだけが彼女の夫だとか言い張るわけじゃないよね?」

「…確かに、今朝ほどはやりすぎましたが、基本的に彼女は私たちの妻です」

「そうだ。国にも庇護者としてきちんと届けは出している」


 その辺、初耳なんですが?…なんて言える雰囲気ではなく、サンフォルさんまで参加してドンドン空気は悪くなる一方だ。


「そんなものはミヤが庇護者を変えたいと申請しなおせば済む話だ。幸い彼女がこの家に来たのは昨日、馴染んだ物や思い出もほとんどあるまい。なにより、感情を食われればそれを補うために大量の食事を必要とする、などという初歩的な説明を忘れた連中にたった1人しかいない『人間』のミヤを預けるわけにはいかんな」

「時間がなかったんですよ。貴方方が早朝から襲撃のように訪ねてきたもので」


 わたしの意見など全く聞く気なく舌戦を繰り広げる4人を呆れ半分で眺めていると、いつの間にやら背後に立っていたエイリスが楽しげに囁く。


「すごいわねぇ、ミヤの争奪戦。まあ、あなたの体がもつのなら何人夫を持っても構わないんだから、別に奪い合う必要はない気もするのだけれどね。どう?その勢いでわたしの息子も夫にしてみない?」


 勘弁して…。

 夫を1人持つにも早い年齢の地球人に、なんの試練ですか、これ?しかも人間的には乗り越えなきゃいけない何かがいっぱいあるんです、この世界の人達の特徴は。


 まず、平均30センチは違う身長差。これ、思いのほか威圧感があって怖い。常に見下ろされてるんだよ?それが今でさえ4人もひしめき合って…小学生が高校の教室に放り込まれたような圧迫感があります。


 次に倫理観。一妻多夫って、旦那さんは何人いてもいいって、言い方変えたら浮気し放題の平安貴族なイメージでしょ?それも男女逆バーション。光源氏が性転換して頭の中で妖艶に微笑んでる状況に、未だついて行けません。


 最後に1番大事な種族の壁。地球には肌や髪なんかの色素の違いこそあれ、鳥人間や羊人間はいなかった。ましてやトカゲとか蛇はもう、無理とか以前に受け付けないです、いろんな意味で。

 幸い夫だなんだと騒いでいる方々は一見でっかい人間にしか見えない外見の持ち主なので、なんとかなってますが、このうえ羊な男性に出てこられたら…考えるだけで逃げ出したくなって来た。やっぱ、羊は無理。目玉は普通がいい。


「…あなた、息子が私と同じ外見だと思ってるでしょう?残念だけど、違うわよ。あの子達は夫に似たから、狼と猫」

「頭の中、読んだ?…猫はともかく、狼は抽象表現抜きにしてマジ襲われそうなんだけど」


 一段、低い声で再び囁いた魔女に、背筋を冷たい物が流れた。

 狼に襲われる、は日本人なら大抵知ってる表現なんですが?

 ちょっと古くさいけど、今でもちゃんと伝わるんだ。『狼になるなよ』とか『送り狼』とか。

 それが本気で狼なんだ。耳が狼なのかな。目は犬とかと同じだと白目がないんだけど、羊なエイリスにも白目はあるから狼にもあるのかな?猫は町中でちょくちょく見た記憶が…あれ?


「ちょっと、魔女は夫をたくさん持たないんでしょ?なんで息子が狼と猫なの。しかも『跡継ぎはあの子』って複数形じゃなかったから、1人だと思ってたんだけど?」

「夫が2人いたからに決まってるでしょ。ちっともたくさんじゃないじゃない。それにどっちも魔術師だけど、高度の魔法はジャイロ…猫の息子しか使えないの」


 平然と言い切られるとこっちが間違ってた気分になるから不思議だ。

 …そうか、2人は多くないんだ。じゃあもしも、わたしがアゼルさんとベリスさんを夫にする気になったとしても、それだけじゃ足りないわけですね。平均的には後2、3人夫を持てと。だから息子さんのどっちかを…?


「いやいやいやいや、多い。2人でも充分多い。同時に旦那さんが2人とか無理がある。どんな生活ですか」


 同じ屋根の下に夫が2人を想像して、愛人と本妻が暮らす家、的想像をしてしまったじゃないですか。

 本気で嫌そうにエイリスに尋ねると、彼女はやっぱり何でもないことのように笑顔で言った。


「どんな生活も、女次第よ。同じ家に数人の夫と住む女もいれば、それぞれの家に通わせる女もいる。大概の男は女が望む生活スタイルに合わせて結婚して貰うの」

「偉そうね、随分」

「偉いのよ、女は」


 絶対的権力を女性が持てることには、全く反対はない。むしろ女とすれば歓迎だけど、ここまでくるとちょっと違う気がするから、根付いた倫理観って怖いなって思う。

 ていうか、むしろ召喚術に引っかかるのが貞操観念が薄い女性なら問題ないんじゃなかったの?探せばいそうじゃない、カレシ何人でもオッケー、週替わり大歓迎とかの女子。実際クラスにもいたし、告られたから何となく付き合い始めちゃったら、カレシ3人になってた子が。あ、それでも3人か。5人って案外難しいよね。


「だーかーらー会うだけでも会ってみない?狼はもう奥さんが1人いるんだけど、猫は独り身なの。ミヤの好きな方を選んでくれていいから」

「好きな方って、狼さんは奥さんいるんでしょう?」

「いたって構わないわ。なにしろ7人目の夫だからさして大事にもされていないし、あの子が別れたいって言ってもあの奥さんは全く気にしないわよ。むしろ1人分空きができたって喜ぶくらい。なにしろまた新しい男を追いかけてるらしいから」

「わお。男の人はサバイバルなんだぁ」

「ええすっごい競争社会よ。だから現状に満足している女はあまり家から出ないのよね。これ以上目移りしても1人じゃ相手にできる人数に限界があるし、望みもしない男に見初められて言い寄られるのも、気持ちのいいことじゃないもの」

「う~ん…星を変えても存在するのか、ストーカーは」


 共通文化を見つけたというのに、虚しさしか残さないとは。ストーカー恐るべし。

 それにしても街でほとんど女性を見かけなかったのは、そういう理由だったのかぁ。じゃあ、その中にいて声をかけられなかったわたしって、どんだけ恋愛対象外なんだって話しだよね。『美しくない』って言葉が突き刺さるなぁ。

 と、ここまで考えて気づいた。それじゃあ、ダメなんじゃないって。


「あのさ、エイリス。悪魔や天使はわたしの魂が『キレイ』つまり『おいしい』から好きだって、利用価値があるって言ってくれるけど、エイリスの息子さん達には『美しくない』女でしかないんだから、会ったとしても嫌な顔されて終わり、じゃない?」


 別に会う気もないし、結婚すると決めたわけでもないんだからそんなことを心配顔で聞くこともないんだろうけど、なんとなくトラウマが疼くので言葉にしてしまう。けれど魔女はウインクでもしそうな勢いで、請け合ってくれた。


「その辺は気にしなくても大丈夫。多かれ少なかれ魔力を行使する者達は、必ず貴女の『キレイ』な魂に惹かれるわ。私だってね一目見てすぐに思ったのだもの、なんてキレイな魂なのって。息子達は2人とも私とほぼ同じ力を有する魔術師。貴女に惹かれないわけがないわ」


 断言されてしまった…。あんまり嬉しくないけど。

 

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