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キレイの定義  作者: 他紀ゆずる
起編
12/80

11 魔女を交えると話しはますますややこしくなります

 悲しいかな。人間生きている限りお腹はすくもので、怒濤の朝のひと時からすっかり日も昇りきった9時(地球時間では11時くらい)頃になると、疲労と空腹から自室の長いすでへばる羽目と相成りました。

 あの後、わたしの爆発した怒りをきっちり食べた悪魔の双子は満足顔で舌なめずりし、天使の双子は『笑ってくれなければ乾きは癒やされない』と懇願してきた。

 もちろん、どっちもきっちりどついてその後、自室に籠もったまではよかったんだけど。


「お腹すいたよぅ~喉渇いたよぅ~」


 グーグー鳴る胃の抗議にそろそろ痛みを感じてきた。喉も怒鳴ったせいでひりひりするしなぁ。

 怒り爆発だったもんだから、これ以上悪魔に感情をくれてやってなるものかと、メイドさんもカイムさんも立ち入り禁止にしたのがまずかったか。キッチン(この規模のお屋敷になると厨房?)のありかもわからなから、自力で食べ物飲み物を調達するわけにもいかない。

 さて困ったと、頭を抱えていてはたと閃く。


 魔法使ったら、良いんじゃない?折角覚えたんだし。


 そうだそうだ。エイリスってば本気でわたしに召還術を教え込もうとしてたらしくて、一番最初に教えてもらったのがどっかから(どこだかは怖くて聞けなかった)物を取り出す呪文だったもん。

 急に元気を取り戻して長いすにきっちり座り直すと、丸暗記させられた何言っているんだかわからない呪文を唱える。

 確か取り寄せたい物をイメージするんだったよね。えっと、お茶とぱさぱさしてるサンドイッチ辺りが無難かなぁ。あれ、安物のパンを使ってるせいで決して美味しくなかったんだけど、何故かエイリスが香草で焼いた鶏肉を挟むと急に美味しくなるんだよね。そういえばエイリスは茶葉を作るのも上手で、こっちの紅茶っぽいやつより彼女の緑茶っぽい方が好きだったなぁ…。


「あなた、一体どんな魔法を使ったの?」


 ぼんやり思い出しながら呪文を唱えきった後、思いがけない声にびっくりして辺りを見回す。

 と、何故か長いすの真後ろにエイリスがいた。それも両手に生の鶏肉とティーポットを持って。


「え、嘘。なんでいこんなとこにいるわけ?」

「だからそれはこっちの台詞」


 呆れ顔のエイリスは、やれやれと呟くと、右手の生肉に顔を顰めて短い呪文と共にそれをどこかへ消した。そのあと、わたし作の浄化の呪文・改で手を綺麗にすると勝手に向かいのソファーに腰を下ろす。

 1日ぶりくらいじゃ、魔女の態度の大きさは1ミリたりとも変わらないらしい。相も変わらず傍若無人のようでなによりです。角も絶好調に渦渦だしね!


「で?姿を消して一日やそこらで私を呼び出す位なんだから、何かあったんでしょう?」

「…そりゃあもう」


 上から目線の魔女に極上の笑顔で答えて、空腹も忘れたわたしは山盛りの怒りを込めて今朝の出来事を勢いよく話し始める。

 『人間』のことから種族の階級、一妻多夫制、なによりどこより女性の数が異常に少ない理由を説明してくれなかった怒りは深いんだからね。天使からも悪魔からも『美味しくって減らないエサ』扱いされる私の気持ちがわかる?

 最後までおとなしくこれらの抗議を聞いていたエイリスは、いやみったらしく肩をすくめると、


「その辺りは諦めるしかないわ。だってせっかく隠してあげたのに、あなたってば見つかっちゃうんですもの」

「お気軽にいわないでよ!どんだけ弱肉強食なわけ、この世界?」

「あら、ミヤが動物の肉を食べるのと変わらないでしょ、天使や悪魔が他種族の女を食べるのは」

「表現方法間違ってます。頭からかじるみたいでしょ、それじゃ。食べるのは精神」

「そうぉ?」


 全然気にしてないし、この魔女。

 どうでもいいとばかりに人の話を聞き流したあげく、お茶くらい出ないの、とか言っちゃうんだから、むかつく。

 だけど悪びれないその態度に、なんか毒気を抜かれて脱力しちゃったんで、話題を変えることにした。


「わかったわよ。でも一妻多夫制についてはどうなの?このくらい説明してくれてもいいでしょ?」

「だーかーらー、よくお使いに出してたでしょう?その間に街の人と仲良くなって聞き取り調査をするとか、訪ねてくるお客とも会わせてたんだから、世間話装って世界情勢聞いてみるとか考えなかったの?」


 すっぱり言い切られて、返事に詰まった。

 確かに半年もいたら自分から何かを調べたり知ったりする時間はたっぷりあったはずだよね。

 でも、そうしてこの世界に馴染むことは、2度と地球に帰れないんだって認める行為でもあって、なんとなくできなかったのだ。


 だって未練なんかありありなのよ?

 お母さんにもお父さんにも会いたい。友達とだって会いたい。学校だってまだ行きたかった。

 けれどそれはもう望むこともできない。望んじゃダメだって心の切り替えをするために半年を費やしたのだ。

 そしてやっと、時々思い出して懐かしんで悲しむ、その程度で済ますことができるようになったのに、いきなり拉致されちゃって衝撃の事実つきつけられちゃったからなぁ。

 それでもわたしが全部悪いんだろうか?

 納得しきれず首を傾げると、人の心を読んだかのように魔女がふっと苦笑を浮かべる。


「少なくとも私に聞くことはできたでしょう?それなのに貴女と来たら、こっちが説明することを受け止めるばかりで自発的に質問したりしないんだもの。何か思うところがあるのかしら、とか勝手に喚んでしまった方としてはこれでも気を使っていたのよ」


 そうでした。エイリスは本当はいい人だったんだって、別れ際、思ったじゃない。わたしの様子を見つつ気を使ってくれていたと言われればわかる。なにしろさっきも自身で認めたように、踏ん切りをつけるのに半年かかってたんだから、その間よけいな知識を入れないでいてくれた彼女に感謝しなくちゃいけないんだろう。


「ごめんなさい。確かにあの時聞いてもわたし、混乱するだけだったよね。でも今は大丈夫。混乱突き抜けて空飛んでるから」


 実際、衝撃が大きすぎて理解するって言うより無理矢理、自分の知識にした感じ。でも、おかげでもう何聞いても大丈夫な気がしてるから。

 笑ってみせるとエイリアスもほっとしたように表情を緩めた。


「そう。それなら事情を話しても平気ね。こちらの世界の女性は平均で4人から5人の夫を持っているわ。多い人になると二桁なんて例もあるのは、子供が産めるうちはいくらでも男性から求められるからね」

「じゃあエイリスはもう、女性として終了?」

「失礼なっ」


 いきなり小さい風の塊をぶつけられて、頭を押さえると正面で魔女が怖い顔をしてた。

 凶暴さも、1日ぶりくらいじゃ変わらないらしい。一緒にいる頃も口答えするとこういう攻撃をよく受けたものだ。

 懐かしさじゃなく痛さで滲んだ涙を拭いつつ先を促すと、彼女は面白くなさそうに続けた。


「魔女はね、特別なのよ。他の女達みたいに子供を、特に女の子を産むことに固執したり生涯をかけたりしないの。それより魔力の強い男と結婚して、自分の後継者になる存在を世に送り出す、それに生涯をかけるから目的を達すると子作りより後継者の育成に力を注ぐの。因みに独立した息子も魔術師として生計を立ててるわよ。私が死んだらあの子が女性を召還する仕事を引き継ぐわ」

「へぇ初耳」

「貴女をある程度仕込んだら会わせるつもりだったのよ。ついでに結婚させて後継者を産んで貰うところまでこぎ着ければ、その後の人生はあなたの望むままにできるはずだったのに、悪魔に奪われるなんて誤算もいいところ」


 心底悔しそうなエイリスに、思わず溜息がこぼれた。 

 心配してくれたその気持ちには感謝しますけれど、どうしてこの世界の方々は、どいつもこいつも人の人生を勝手に決めようとするんですかねぇ…。

 全くもう。



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