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会いたい。さよなら
少し短めです。
部屋に戻ってすぐ、書類を改める。
思った通りの内容だったことに、全身から力が抜けるほど安堵した。
でも、これは始まりに過ぎない。
クローゼットの奥の金庫を、首にかけた鍵で開き、中にあるものと取って来た書類をまとめて鞄に詰め込む。
猶予はない。
明日は、トリスタンとの婚約が結ばれる。
けれどそれより、時間があけば、きっと父はルナリアを寝室に呼ぶだろう。
奇妙なほどの確信があった。機は、今しかない。
いずれこの時が来ると、ずっと前から覚悟していたし、何度も脳内で練習を重ねた。
なのに、なぜだろう。
隠し通路から外に出て敷地から抜け出したルナリアは、思わず重い足を止めてしまった。
明かりのない道は、ルナリアの姿を隠す。
こうしていても仕方ないのに、どうして。
────会いたい。あの子に会いたい。
せめて最後に、あの子に会うことだけは、許されないだろうか。
うろ、と視線がトリスタンのいるであろう方向を見てしまう。
彼は明日の父との面会に備え、領内の宿にいる。
どうしよう。
迷ったのは一瞬。
鞄を肩にかけ直し、ぎゅっと目を閉じて深呼吸。
ルナリアは夜道を駆け出した。
その日、伯爵家からひとりの令嬢が姿を消した。




