ルナリアという人
初めての作品です。よろしくお願いします!
はらりと額にかかる黄金の髪と、太陽さえ凌ぐほど煌々と強い橙の瞳。
記憶にあるよりずいぶんと逞しくなった背は、見上げるほどに高い。
ルアリナは、なんだか和むような心地で、宣告を待つ。
────ごきげんよう。どうぞ、この罪を許さないで。
ルナリア・バートンは、伯爵家の長女だ。
兄が数年前に出奔してしまったため、今はルナリアが後継ということになっている。
母はルナリアを産んですぐに離縁し、今はどうしているかわからない。父とふたりの家族だった。
社交界に一切出ない世間知らずで、富豪の親に甘やかされ贅沢三昧の令嬢。
それが、世間一般に知られたルナリアの姿だ。
たしかに、伯爵家当主の父に本邸よりひと回り小さな別邸を一棟丸ごと与えられ、調度品は父が揃えた最高級品ばかり。
クローゼットや宝石箱も常に最先端の流行物が入っている。
けれど、ルナリアは常に最低限の身だしなみを整えるだけで、豪奢な品々は使用されることはなかった。
父は領地経営のほか、社交に娼館や孤児院への支援にと忙しく、滅多に家に帰って来ない。
派手好きな父が帰宅する時だけ、令嬢らしくドレスアップすることにしている。
バートン伯爵領は、農業や果樹園が盛んだ。
程よい税に、程よい手当て。程よく栄えて、程よく闇がある。
一見、どこにでもあるような変哲のない領。
ただ、ルナリアは幼い頃から、言いようのない気味の悪さを感じ取っていた。
本邸には、常に『お姉さん』と呼べる年頃──おそらく十五歳前後──の女性が何人も滞在し、定期的に入れ替わる。
入れ替わりの時期には、必ず父が帰宅し、女性たちに自ら部屋を与えてはしばらく共に過ごす。
そして、また父がふらりと出かけた後は、少しずつ女性たちの数が減っていく。
いい人に出会って婚姻した、行儀見習いに出た、孤児院の管理を任せた。
屋敷の者は揃ってそう言うが、父と女性たちの奇妙な力関係というか、そういうものが見えるたび違和感が強くなった。
そうして、十歳になった頃。たまたま数回挨拶をしたことのある女性を町で見かけた。
大人たちが口々に『近づいてはいけない』と言いつけるその場所は、いわゆる娼館街。
拠り所を失い、日々の生活のため身を削って生きる女性たちの場所に、本邸に滞在していたはずの人がいる。
これは本格的におかしなことになっていると危機感を覚え、地道にひっそりと数年かけて辿り着いたのは、父が行っている罪の数々だった。
父は、身分が低く見目のいい女性を見つけると、仕事先や婚姻の斡旋をすると唆し、本邸に滞在させる。
そして、満足するまで自分の相手をさせた後は、とある商会を通じて娼婦や奴隷として売り捌いていた。
奴隷という制度のないこの国では、人身売買は禁じられている。
しかし、奴隷制度が定められている国もある。
父が懇意にしている商会は他国に拠点があり、その国では奴隷は違法ではない。
己の欲を満たしながら、お金を稼ぐ。
思わず吐いてしまったほど醜悪な男が、ルナリアの唯一の家族である父だった。
潔癖なところがあった兄は、もしかしたら、このことに気づいて逃げ出したのかもしれない。
自分も連れて行ってほしかったという気持ちと、兄だけでも逃げられたことへの安堵との狭間で、ルナリアは決心した。
罪のない女性たちの身が脅かされていいわけがない。
まして、そのお金で裕福な暮らしをするなど反吐が出る。
でも、今の自分には力がない。
必ず確実な証拠を手に入れ、告発すること。
あともう一つ。ルナリア自身も、逃げ切ること。
罪を背負うことは当然。
罪を犯して稼いだお金で衣食住を与えられた時点で、ルナリアは存在そのものが罪なのだ。
けれど、連座の罪を負うとしたら、それは『父の子』としてだろう。
修道院か、平民落ち、罪の多さによっては処刑。
『罪人の娘』として生きるのも、死ぬのも、どうしても嫌だった。
薄情だと自分でも思う。
だけど、せめて、贖い方を自分で選択したかった。
どれだけ醜い、忌み嫌われる願いだとしても、どうしても生きていたい。
傲慢でひどく自己中心的な、醜い本音。
罪悪感で嘔吐きそうでも笑顔で隠して、これでいいのかと迷っても決して涙は流さず、ルナリアはお気楽な箱入り娘を演じ続けた。
悟られないよう常に神経を張り巡らし、証拠を集めながら過ごすルナリアに婚約の話が出たのは、十六歳の春だった。




