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9.テオフィルスの想いとプロポーズ

実は、テオフィルスは一目惚れだった。

初めてアシュリーに会った時『天使だ』と、一目見て恋に落ちる。


アシュリーは乳兄弟の従兄。家柄も身分も申し分ない。特に障害となるものもないとテオフィルスは考えていた。


そして今度、アシュリーに会ったら「僕の妃になってください」と言おうと思っていたのだが―――


それは3回目に、アシュリーに会った時だった。

開口一番アシュリーが告げた言葉に、テオフィルスは絶句した。


「私、王子様と結婚するの!」


テオフィルスがアシュリーに想いを伝える前に、カスターとの婚約が決まってしまった。


『王子様』に夢見る年頃のアシュリー。その満面の笑みに“カスターとの婚約”を喜んでいると思ったテオフィルスは打ちひしがれる。


宗主国の王子であるテオフィルスが願えば、アシュリーとカスターとの婚約は白紙に出来るだろうし、自分と婚約も難しくはないだろう。


けれど、カスターとの婚約を嬉しそうにしているアシュリーの笑顔を壊したくないとテオフィルスは思った。


だからアシュリーが望むなら、アシュリーが幸せならばと身を引いて見守ることにしたのだが……その結果が、これである。


アシュリーのことを幸せにするどころか突き放したカスターと、危害を加えたカサンドラをテオフィルスが許すわけがなかった。


そしてテオフィルスが、恋焦がれたアシュリーを手に入れられるこのチャンスを逃すわけもなかった。


(今度こそ、絶対アシュリーを離さない)


テオフィルスはアシュリーの頭に頬を寄せると、フッと口元を緩めた。



******



馬車がウェントワース侯爵家に着くと、すぐさまテオフィルスはアシュリーの父親と面談。


ウェントワース侯爵も宗主国であるルガリア帝国の王子からの申し出を断れるわけもなく―――というよりは最近のカスターの行いを知っていたので、むしろアシュリーが幸せになれるのならばと諸手を挙げての快諾であった。


許可を得たところでテオフィルスはアシュリーの手を引き、庭へと向かう。


「さぁ、急ごう。日が暮れてしまう」

「あの、急ぐってどこへ」


アシュリーの質問に答えることなく、障害物のない庭の真ん中まで来るとテオフィルスは詠唱を唱えた。二人の足元に大きな魔法陣が現れ、光りに包まれる。


その眩しさに一瞬、アシュリーが目を閉じた次の瞬間―――


「えっ、ここはどこですか?!」


アシュリーが目を開けると、先程までの景色が一変していた。

柔らかい風がアシュリーの蜂蜜色の髪を梳くように吹く。


「ここはルガリア王城の一角だよ」

「えっ」


テオフィルスは転送魔法を使い、アシュリーと共にルガリア帝国の王城の一番高い塔へと移動していた。


(転送魔法は、かなり高度な技術が必要な上、術者の負担も大きいと聞きましたが)


目を丸くするアシュリーに、負担などどこ吹く風で涼しい顔のテオフィルスは紹介するように手を広げる。


「ここからの景色を、ずっとアシュリーに見せたかったんだ」


言われて、アシュリーはテオフィルスの手が指す先に視線を向けた。


そこは遠くには山や森が、眼下には城下町が広がっていて、王都が一望出来る場所であった。そして、西の空に沈む太陽に照らされて、辺り一面が赤く染まっていく。


「綺麗」


ほぅっと溜息のようにアシュリーの口から漏れる。


「僕は、この景色が一番好きなんだ。ここから見えるのは、僕ら王族が守るべき民と土地」

「素敵な場所ですね」


横に立つテオフィルスの真剣な目が、夕日に染まる顔と淡藤色の髪がアシュリーには眩しく輝いて見えた。


「さて、アシュリー。君に、これを」


テオフィルスは魔法で何もない空中から花束を取り出すと、アシュリーに差し出した。


戸惑いながらも受け取ったアシュリーが花束に視線を落としている間に、テオフィルスはまたも宙から小さな箱を出すと片膝を突く。


「アシュリー、初めて出会った時から君が好きだった。この想いは、あれから数年経った今も色褪せることはないし、これから数十年先も、いや死ぬまで一生ずっと変わらない。だから、どうか僕の妃になってください」


テオフィルスが言いながら開けた小箱には、綺麗な指輪が収まっている。


それは、アシュリーの事を諦めきれなかったテオフィルスが、渡す当てもないのに作らせた物。

いわば、テオフィルスの未練の塊でもあった。


テオフィルスの真摯な視線に射抜かれ、アシュリーは息を飲む。そして、自分の胸に手を当てた。


(わ、私は……私は)


始めこそアシュリーはカスターに恋をしていた。


しかし、次第に変わっていくカスターの態度に想いは薄らいでいき、残ったのは義務感と使命感。


国のため、そして貴族ならば愛のない結婚も普通の事とアシュリーは受け入れたが、物悲しくもあった。


そんなアシュリーの心を、カスターに代わって温めたのはテオフィルスである。


カスターがするはずの贈り物も、気遣いも、慈しみも全てテオフィルスが与え満たしていた。


(今思えばテオ様の行動は、いとこに対するものとしては過剰だったわ)


そんなテオフィルスの秘められた愛情に、アシュリーの心が動かされるのも無理はない。


(私、テオ様が好き。たぶん、ずっと前から。カスター様がいたから、この気持ちに蓋をして気づかない振りをしていただけ。本当は、ずっとテオ様のことが)


自分の本当の気持ちを自覚したアシュリーは一度目を伏せた後、テオフィルスを見つめる。


「わ、私もテオ様が好きです。どうか、ずっとお傍にいさせてください」


アシュリーの柔らかな笑顔にテオフィルスは一瞬目を見張った後、とろけるような甘い笑みを浮かべた。そして、アシュリーの細い左手の薬指に指輪をはめる。


「ありがとう、アシュリー。君を幸せにする。未来永劫変わらず愛すると誓うよ」


淡藤色と蜂蜜色が絡むように、夕日に照らされた二つの影が塔の上で重なり合った。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

少しでも面白かった、良かったと思っていただけましたら下の☆☆☆☆☆を★★★★★にポチっと押していただけますと幸いです(*ᴗˬᴗ)⁾⁾


ところで、また浮気しましたね、私。

『魔力無しですが溺愛されて聖女の力に目覚めました』を書いている途中だというのに……まだ完結まで書けていないというのに……つい、思いついてしまいまして……折角だから投稿するか!ってことで投稿させていただきました。お盆休みの皆様の娯楽の一つになれたら嬉しいなーなんて思っています(。。*)


あの、ちゃんと『魔力無しですが~』の続き書いていますからね!見捨てずに待っていてくださいね!!とりあえず今夜、続き投稿します!!!

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