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8.呪いは解けたけど、別の魔法を掛けられたかもしれない

「ところで、いつからテオ様は気付いていらしたのですか?」

「あぁ、アシュリーの異変に気付いたのは一ヵ月前に会った時だよ」

「あの時に」


アシュリーは最後にテオフィルスとお茶をした時の事を思い出した。


(あの時、テオ様は私の異変に気付いたのね。だから、あんな風におっしゃって)


「何故、分かったのです?」

「う~ん、これは何とも抽象的な言い方になってしまうんだけど、アシュリーから変な気配を感じたんだ。何というか、嫌な魔術のオーラみたいな感じかな」


(そういえば、帝国の第二王子は魔術の才に長けていると聞いたわ)


だから分かったのだろうとアシュリーは頷いた。


「それで調べていたんだけど、まさか禁術を使っているとはね。しかも、厄介なことに術が重ね掛けされていたんだ。気づかれず、少しずつ呪いが強くなるように。おそらく半年ぐらい前から掛けられていたんだと思うけど、最初は弱い力だからこの間より前に会った時は気づけなかったみたいだ」


アシュリーとは二ヵ月に一度ぐらいの頻度で会っているのだが、最近になってテオフィルスが気づいたのは術の力が強力になっていたからであった。


「それに、どんな魔法を使っているか判明しても、その解呪方法が簡単ではなくてね。重ね掛けの所為で一筋縄ではいかなくて。まぁ、それもあって術者は解呪されない自信があったから油断したのだろうけど」


その油断のおかげで、あの時あっさりと解呪が出来たとテオフィルスは言う。

でなければ術者が、すぐさま察して抵抗しただろうと。


最悪の場合アシュリーを盾にされ、その命が脅かされる危険性があった。そのため一瞬で事が済むよう、通常はあまり使用しない魔石をテオフィルスは用意していた。


(おかげで、アシュリーが無事で本当に良かった)


実は、あの魔石かなり希少で高価なものなのだが、アシュリーの為となればテオフィルスは厭わない。


「とにかく、何の魔法か判明するのも、解呪の方法を確立するのにも時間がかかった所為で、助けるのが遅くなって、ごめんね。アシュリー」

「いえ、そんな! テオ様のおかげで私は無事でいられました。本当に、ありがとうございます」


気付いてもらえなければ自分の人生は絶望的だったと、尽力してくれたテオフィルスにアシュリーは再び感謝を述べた。


「それより、テオ様が大変だったのではないかと心配で」

「ありがとう、アシュリー。やっぱり君は優しいね」


自分を気遣ってくれたことにテオフィルスの纏う雰囲気は、より柔らかくなる。

何やら甘い香りがして、ドキドキとアシュリーの鼓動は早くなった。


相変わらず横抱きの状態で、居た堪れないアシュリーは誤魔化すように話題を探す。


ふと、テオフィルスが例の二人を名前で呼んでないことに気づいたので尋ねたが「アシュリーに害をなす人間の名前なんて、口にする必要ないよね」と笑顔で答えが返って来た。


(えっ、そういうものですか? いつも優しいテオ様が、そんな言い方……あれ、そういえば先程カスター様や騎士の方達に接している時のテオ様は、いつもと違って厳しい様子だったような)


カスターや騎士に話している時と、自分と話している時に差があるとアシュリーが言うと「アシュリー以外に優しくする必要ある?」と、これまた良い笑顔でテオフィルスは答える。


日頃アシュリーに接しているテオフィルスは『アシュリー専用ラヴラヴモード』であって、カスターや騎士に対しての態度の方が通常運転であった。


それを知らないのはアシュリーのみである。


(何やら、私は特別だと言われているようで嬉しい。それに助けに来てくれた時のテオ様の様子だと、私のことを大事に思ってくれている……でも、あのプロポーズは)


「あの、テオ様。あの時、結婚をとおっしゃいましたが、冗談ですよね?」

「え、本気だけど。あの状況で冗談を言うわけがないでしょう。あ、そういえばアシュリーからの返事を聞いていなかったね」


アシュリーは自分の質問が裏目に出たと後悔した。


「あぁでも、あれではムードがなかったね。それに花束も指輪もなかったから、プロポーズは改めてやり直させてね」


テオフィルスは愉快そうに口角を上げる。

その笑顔にアシュリーは、これは逃げられないやつだと本能的に悟った。


「あの私、ずっとテオ様を従兄だと思っていまして、だって従兄の屋敷にいましたし」

「あぁ、彼とは乳兄弟なんだ」

「えっ! ということは、伯母はテオ様の乳母ということですか?!」

「そうだよ」

「え、でも誰もそんなこと言っていなかったのですが」

「それは、皆には内緒にしてもらっていたからだね」

「内緒に?」

「だって、僕が宗主国の王子だと知ったらアシュリーは気兼ねしてしまうでしょう?」

「うっ」


自国の王子ならいざ知らず―――いや婚約者であったから平気だっただけだが―――宗主国の王子だと分かったら確実に委縮してしまう図が見えたアシュリーは否定できなかった。


「僕のこと、従兄としてしか見れない?」


眉を下げたテオフィルスは、懇願するようにアシュリーの顔を覗き込む。

その整った顔にアシュリーは「うっ」と言葉を詰まらせた後


「そ、そんなことはありません」


何とか振り絞って口にした言葉に、テオフィルスはパァっと顔を綻ばせる。


「良かった! ではウェントワース侯爵邸に着いたら、すぐお父上に結婚の承諾を得ようね」


ニコニコと鼻歌でも歌いそうなテオフィルスに、アシュリーは何だか胸の中が温かいもので満たされる気がした。

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