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6.テオの正体

ほどなくして、カサンドラは意識を手放したので静寂が訪れる。

騒ぎが一つ収まったのを確認すると、テオは次の問題へと目を向けた。


「さてと。宗主国から禁じられているはずの禁術を、従属国であるこの国では使えるとは、一体どういう事だ?」


実は、このルテノ国は従属国である。


ある程度の自治を認められているものの、従属国は宗主国の支配下にある国。

つまり宗主国が従属国に禁止事項を課せば、従わなくてはならない。


当然の事ながら、カサンドラが使用した魔法は禁術であり、犯せばルテノ国も宗主国から責任を問われる。


急に旗色が悪くなったカスターは狼狽えた。


「き、貴様に問われる謂れはない」

「ほう。本当に愚かな王子様だな。お前の国を支配している王族の顔も覚えていないとは」

「はぁ?」


カスターは訳が分からないと声を上げたが、テオの横に座るアシュリーは察していた。


それは先程『殿下』と叫んだ騎士がテオに話し掛けた事、この国の王太子に対しての強気な姿勢、そしてテオの指示に従う騎士達の服装。


その服装は宗主国であるルガリア帝国のものであった。


(テオお兄様は、もしかしてルガリア帝国の王子殿下?!)


アシュリーは唖然とした。

テオの事を従兄だと思っていたのに、違う可能性が出てきたのだ。


(帝国の王太子殿下のお顔は拝見したことがあるけれど、それはテオお兄様とは違うし年齢も合わない。でも確か、帝国には第二王子がいらっしゃって、その名前は)


「テオフィルス殿下」

「さすがアシュリー! 察しがいいね」


ポツリと呟いたアシュリーに、それまで険しい雰囲気を纏っていたテオことテオフィルスは一転して淡藤色の髪を揺らしながら、にこやかな笑みを浮かべた。


(まさか、本当に?! でも従兄は何も……あ、もしかしてお忍びでいらしていたとか? それで本当の身分は明かされなかったと? そして身分を隠すため“テオフィルス”だから“テオ”と愛称で呼ばれて……え、えっ、どうしましょう。私、てっきり本当の従兄だと思っていたのですが?!)


アシュリーは王太子であるカスターの婚約者として、宗主国の王族についても学んでいたがテオフィルスの顔までは知らなかった。


それは、自分の身分がバレてしまっては、アシュリーが今まで通り接してくれなくなると懸念したテオフィルスが意図的に隠していたからだった。


一方、カスターはルガリア帝国の王族と対面したことがあるので、テオフィルスの顔を知っているはずなのだが、どうやらアシュリーの一言でやっと思い出したようだ。


「テ、テオフィルス殿下?!」


慌てて礼を取るカスターに、周りも一斉に倣った。


「ど、どうして、こちらに」


先程までの横柄な態度は消え去り、カスターはオドオドと尋ねる。


従属国は宗主国に逆らってはならない。

ましてや宗主国の王族に対して無礼があってはならない。


この場で一番偉いと思っていた自分より身分が高い人間が突然現れて、カスターは動揺を隠せなかった。


「アシュリーを救うために決まっているだろう。ついでに禁忌を犯した罪人を捕まえる為でもあるな」


テオフィルスは目線だけカサンドラに向ける。そして周囲を見回した。


「それにしても、この国の人間はどうなっているんだ。思いやりのあるアシュリーが人を傷つけるはずがないのに、誰一人として疑問にも思わないとは」


テオフィルスの嘆きに、答えられる者はいない。


「本来なら婚約者が、真っ先に気が付くべき事なのだがな」


嫌味を含めた視線をテオフィルスはカスターに送る。


「まぁ、いい。それより」


テオフィルスは気を取り直した様子でアシュリーに向き直った。


「アシュリー、君は婚約破棄されたよね」

「え、はい」

「ちょうど良かったと言ったら気を悪くするかもしれないけど、僕にとっては好都合だ」

「はい?」

「アシュリー、僕と結婚してくれないかな?」

「ふへぇ?!」


突然のプロポーズにアシュリーからは変な声が出た。


テオフィルスは、会場に入った瞬間に始まったカスターの宣告を全て聞いていた。

このチャンスを逃す気はない。


「それから、国外追放もされていたよね。ちょうど良いから僕の国においで」

「えぇ!」

「あぁ、そうだ。ウェントワース侯爵領は帝国と隣接しているから、この際ウェントワース侯爵領を帝国の領土にしてしまおうか」

「えっ、いえ、でも」

「アシュリーの異変に一切気付くことがなかった愚か者しかいないこの国に未練ある?」


首を傾げたテオフィルスに問われて、アシュリーは考えた。


(そう言われると……あれ、ないかもしれないわ)


先程、自分に向けられた周囲の人々の視線。

それに友と思っていた令嬢達も、アシュリーの異変に気付かなかった。


皆“王太子の婚約者”を見ているだけで、アシュリー自身に目を向けていない。

むしろ、ちゃんと見ていたのは―――


アシュリーの気づきを察したテオフィルスは笑みを浮かべる。


「さぁ、問題はないね」


そう言ってアシュリーを抱き上げた。


「あ、ちょっとテオお兄、いえテオフィルス殿下」

「いやだなー。今まで通りテオと呼んでよ」


テオフィルスは「あ、でも“お兄様”はいらないよ」と笑い、戸惑うアシュリーに構うことなく出入口へと一歩進む。


「あぁ、そうだった。そこの愚かな王子様は確か、禁忌を犯した罪人と婚約したんだったな。追って沙汰があるから楽しみにしておくといい」


肩越しに振り返ったテオフィルスは侮蔑の眼差しをカスターに向ける。

そして、後の事は騎士達に任せるとアシュリーを抱えたままその場を立ち去った。

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