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3.婚約破棄と国外追放

そして迎えた卒業の日。

学園の卒業は卒業パーティーという形で締めくくられる。


アシュリーがカサンドラを攻撃し始めてから半年。


いつしか笑顔は消え、大分やつれてしまったアシュリーは、やっと解放される時が来たと胸を撫でおろした。


だが、そんな簡単に事が終わるわけがなかった。


アシュリーの身に起きた異常事態、それが何故引き起こされたのか。まだ解明されていないのだから。


「アシュリー・ウェントワース侯爵令嬢! 君との婚約を破棄する!」


卒業パーティーも終盤に差し掛かった頃、カスターは声高らかに宣言した。

突然のカスターの発言に、アシュリーは驚愕して声も出ない。


(何故……何故、婚約破棄だなんて……いいえ、心のどこかでは分かっていたわ。だって……)


今日、会場に入る際、アシュリーの隣にカスターの姿はなかった。


卒業という学園の行事であれ“パーティー”と名の付く社交場において、エスコートは重要な意味を持つ。


婚約者がいる場合は相手にエスコートされ、互いにパートナーがいることをアピールするのだ。


しかし今日、カスターがエスコートしたのはカサンドラ。

アシュリーは王太子という婚約者がいるにも関わらず、エスコートされなかった。


その意味は明白である。


(思えば、いつからだったかしら、カスター様が私を見なくなったのは。幼い頃に親が決めた婚約だったけど、それでも互いに国の為と歩み寄っていたはずなのに、いつから擦れ違ってしまったの?)


始めこそ、二人は仲良くしていた。

国を背負う、その未来のために語り合ったこともあった。


ところが、徐々に二人には差が出来始めていく。


優秀な頭脳を誇るアシュリーに、カスターは無意識に劣等感を抱くようになっていたのだが、誰も気づかないまま二人の溝は広がっていった。


「聞いているのか!」


苛立ちの混ざるカスターの声に、アシュリーはビクリと身体を震わせる。


「アシュリーとの婚約は破棄。そして、ここにいるカサンドラと婚約する」


新たな婚約発表に会場からは、ざわめきが上がる。

平民の血が混じる女と結婚するのかと。


カスターの横で、カサンドラはニコニコと満足気な笑みを浮かべ「カスター様」と囁きながら、その腕に抱きついた。


「あぁ、それから。アシュリーの今までの悪行、僕の愛するカサンドラを嫉妬に駆られて酷く傷つけた事は知っている。こんな悪女、この国に置いては害悪にしかならないからな。国外追放を命じる」

「なっ」


広い会場に響くカスターの声。

『国外追放』の言葉に、ついにアシュリーは立っていられなくなり座り込んだ。


「わ、私は……」

「何か弁解でもあるというのか!」

「私は」


それ以上、アシュリーの口から音は出なかった。

いつものようにパクパクと動くだけ。


傍から見れば、それは弁解の言葉も浮かばないようにも見える。

周囲からは非難の視線が投げられた。


『国外追放』という言葉に、アシュリーに便乗していた令嬢達は焦り、自分は悪くないと周りに合わせ始める。


それまでカサンドラを蔑んでいた目が、今度はアシュリーに向けられた。


「当然ですわよね」

「あぁ、かなり酷い虐めだったと聞いているぞ」

「そんな方が国母になるなんて有り得ませんわ」

「とんだ悪女だな。侯爵家では一体どんな教育をしているのやら」


ザワザワとアシュリーを罵倒する言葉が波のように広がる。


(実際、カサンドラ様を傷つけたのは事実だわ。私の意思ではなかったとしても。でも婚約破棄だけでなく、国外追放だなんて。お父様、お母様ごめんなさい。迷惑を掛けてしまって、ごめんなさい)


アシュリーの頭に浮かんだのは家族の顔だった。


自分がした事の責任を負うのは仕方ない。

でも、その所為で家族までもが巻き込まれるのは望むことではなかった。


(あぁ、あぁ……私は、もう)


卒業すれば、やっと自分は解放される。


そう思って耐えてきたが、希望を見事に打ち砕かれたアシュリーには、もう気力が残っていなかった。

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