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1.はじまり

「あら、空気が悪いと思ったら、卑しいカサンドラ様がいらしたのね」


ここは、ルテノ国の貴族の令息令嬢が通う学園。

貴族という枠組みはあるものの、学園内において爵位の優劣はなく、平等をモットーにしている。


そんな中、侯爵令嬢のアシュリーは光沢のある金色の髪を揺らして、男爵家の庶子であるカサンドラを罵倒していた。それも極めて高圧的な態度で。


「聞きましたわよ。朝からカスター様に擦り寄っていたとか。婚約者がいる殿方に色目を使うとは、なんて浅ましい方なのかしら」

「わ、私は」

「お黙りなさい! まったく見苦しい」


アシュリーは躊躇いもなく、カサンドラの頬を叩く。周りに複数の生徒がいるにも関わらず、アシュリーを止める者どころか咎める者すらいない。


「本当ですわね」

「所詮はお手付きの子。親が親なら、子も子ですわ」


アシュリーの取り巻きの令嬢達も、声を同じくカサンドラを嘲っていた。


「ましてや王太子であるカスター様に媚びを売るとは。身の程も弁えない愚か者ですわね」


カスターとは此の国の王太子であり、アシュリーの婚約者である。

「本当に」と令嬢達がクスクス笑っていると、よくやくアシュリー達を咎める声が響いた。


「何をしている!」


現れたのは、今まさに名前が呼ばれていたカスターだった。

彼はカサンドラを見るなり、近づくと眉を下げる。


「大丈夫か、カサンドラ」

「うぅ、カスター様」


涙目で縋るカサンドラの赤くなった頬を見て、カスターは怪訝な顔のアシュリーをキッと睨んだ。


「これは、どういうことだ!」

「あら。わたくしは、婚約者がいる殿方に擦り寄るのは止めた方が良いと忠告しただけですわ」

「そんなことで、叩いたのか!」

「『そんなこと』とは、どういう意味でしょうか? 貴族の常識として、大事な事ですわよ。それともカスター様は、わたくしの婚約者だという事をお忘れになっているのですか?」


アシュリーは暴力について認める事はしなかったが、否定もせず皮肉を込めて返す。


カスターは分が悪いと判断したのか、反論することなくカサンドラの肩に手を回すと「保健室に行こう」と去って行った。



******



「あぁ、何故こんなことに」


校舎裏。

誰もいないその場所に令嬢が一人しゃがみ込んでいた。


「ごめんなさい。ごめんなさい」


懺悔するように謝罪を告げる姿は悲壮感が漂っている。

その令嬢は、先程までカサンドラを罵っていたアシュリーだった。


「カサンドラ様、痛かったですよね。ごめんなさい」


自分の手を見つめながら、呟かれた声には後悔が宿っている。


いつだっただろうか。

ある日、突然アシュリーはカサンドラを罵倒したのだった。


その瞬間、アシュリーは自分でも何が起きたのか分からず困惑した。

まさか自分が人に暴言を吐くなど思ってもみない事で、アシュリー自身も深く傷ついた。


しかし、その一回きりで事は終わらなかった。

数日後にカサンドラと遭遇した時、またも罵る言葉が口から出たのだ。


そして、それは日に日に頻度が増していき、口だけでなく手も出るようになる。

その度、アシュリーは懸命に自分を止めようとした。


口を閉じようとしても閉じられないから手で塞ごうとしてみたり、カサンドラに暴力を振るおうとする手を必死に抑えようとした。


けれど、そんなアシュリーの抵抗を嘲笑うかのように、身体は勝手に動く。

まるで誰かに操られているように。


「一体、どういうことなの?」


掠れたような声が漏れる。

その目には涙が浮かんでいた。


元々、アシュリーは人を傷つけるタイプではない。

むしろ、その逆で“虫も殺せない”と言われるほど温和な性格だった。


それが、ここ最近は人を攻撃している。

自分らしからぬ行動に、心を痛めたアシュリーは疲弊しきっていた。


さらに何故、自分がこんな事をするのか理由も原因も分からない。

その事も不安でしかなく、アシュリーの精神は擦り減っていくばかりであった。


「明日は、こんな事が起きませんように」


目を閉じて祈る事しか、今のアシュリーには出来なかった。

全9話、毎日1話ずつ更新していきますので宜しくお願いします(_ _)ペコリ

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