第七夫人はお気楽王宮生活を送りたい
グライツ王国では王族は一夫多妻が認められている。同じ様に一夫多妻制が認められている国は少なくなく、そしてそういった国々では妻の数とその質は王にとって一種のステータスとなっている。要は家柄や見目が良く、何かしらの才能に秀でている妻を多く持つ者が上、という事である。女性を装飾品の様に扱うこの考え方には非人道的だ、という声も上がる。一夫多妻制を廃止せよ、との批判の声も。それはこの国とて例外ではない。
しかし、未だこの国では一夫多妻制が続いている。先王の急死により、20歳という若さで王位を継いだ現王、アルドリックも一夫多妻制を残し、多くの妻を娶っている。もっとも立派な王になる為に、王位を継いだ日から業務に勤しんでいる彼の妻達は体裁を保つ為の存在なのだが。
第七夫人、マーガレットも体裁の為にアルドリックと政略結婚をした令嬢の一人。実家は伯爵家と身分も申し分なく、見目も麗しかった。特別頭が良いわけでも、魔法の才能があったわけでも無いが、その美貌は貴族の間でも有名であり、両親の必死の売り込みもあって見事第七夫人におさまった。
最初の頃はそれは緊張した。夜会で数回お姿を拝見しただけのアルドリックの妻になる事に不安もあった。しかし、結婚後の初夜はなく、その後も王は職務に邁進されマーガレットに見向きもしない。嫌われてるのでは、とも思ったが、どうやら単純に“妻”に興味が無いのだと分かったのは結婚から半年後だった。何せ第一夫人の元にすらろくに通っていないのだから。彼にとって妻とは己の、そして我が国の権威を他国に示す為の道具に過ぎない。
例外として、何かしらの能力に長けていれば他の仕事も生まれる。例えば、商才があれば貿易の仕事に携われるし、魔法の才能があれば魔術研究に協力出来る。勿論、その分のお給金は頂けるし、働き次第では王直々に褒美を頂ける事もある。
しかし、残念ながらマーガレットに特別秀でた才能はない。なので妻としての仕事といえば、アルドリックのパートナーとして夜会に出席したり、他国との会合に花を添える役割を担ったり、とその程度のものだ。その役目も第七夫人である自分にはそうそう回ってくるものではない。なので基本的に王宮でのんびりと過ごしている。国の為にあまり役に立っていない自覚はあるので、贅沢はしない様に心掛けてはいるが、それでも実家よりも衣食住全ての質が良い、快適な生活を送っている。
王の権威を表す“装飾品”として王宮入りを果たしたマーガレットは、特に大きな問題が起きる事もなく、平和な王宮生活を満喫していた。
・・・・・
コンコン、と数度扉がノックされる。「失礼します」と音も立てずにメイドが一人、マーガレットの部屋に入ってきた。
「おはようございます、マーガレット様」
「おはよう、クロエ」
朝食が置かれたワゴンを持って入室してきたのは、マーガレットの専属メイド、クロエ。実家にいた時からマーガレットに仕えている。アルドリックは妻に興味が無いので、こちらで勝手に専属の使用人を連れてこようが気にしない。勿論、王宮に入る前にスパイや暗殺者の類ではないかどうか調べられはするが。
クロエはマーガレットが唯一実家から連れてきた使用人である。彼女の家は代々マーガレットの実家に仕える使用人の家系で、幼い頃からそばに居てくれる彼女はマーガレットにとってメイドと言うより姉の様な存在だ。
慣れた手つきでクロエは朝食を並べていく。王宮内に大食堂はあるものの、食事は基本的に各部屋で摂る。アルドリックは食事よりも公務を優先するし、妻達も行動パターンがそれぞれ異なるので各々で済ます、というのが決まりであった。大食堂は来賓客の相手をする時くらいしか使われない。
「んー、今日の朝食も美味しいわ」
「マーガレット様、その様に大口を開けて食べるのはどうかと思います」
「クロエしか居ないのだから良いでしょう」
人の目を気にしない食事ほど気楽なものはない。質の良い食材を使って、凄腕の料理人が腕を振るって作られた朝食も、“王の妻らしく”食べていたら途端に味気のないものになってしまう。自室で食事をとれる今のシステムは素晴らしい。これだけでもこの王宮に来たかいがあった、とマーガレットは思う。食べる事が好きな彼女にとって食事は一日の楽しみの一つだ。
「マーガレット様、今日は午後からソフィア様とのお茶会がございます」
「そうだったわ。今日は何を着ていこうかしら…」
ソフィア、とはアルドリックの第一夫人の名だ。幼い頃から彼の婚約者の立場におり、第一夫人に相応しい品格と知性を備えている。王の信頼も厚く、公的な場に妻を連れていく際には必ず供に選ばれる。それ以外にも、公務の手伝いをしたりと忙しい人物だ。のんびり朝食を食べているマーガレットとは正反対と言える。
アルドリックと同じくらい忙しく動き回るソフィアだが、度々お茶会を開催しては妻たちの様子を伺っている。何か不便はないかどうかを調べるのは勿論のこと、妻の誰かが不貞に及んでいないか、王に反発心を抱いていないかも探っている。
いわば面談のようなお茶会であるが、美味しいお茶とお菓子を頂けるのでマーガレットにとっては苦ではない。そもそも今の生活に満足している彼女はアルドリックに対して反発心を抱くはずもなく、また不貞に及ぶほど色恋に興味がある訳では無い。誰かと密会する時間があるなら趣味の読書でもしていたい。
唯一、服に気を遣うのだけが面倒なくらいだ。クロエと相談しながらお茶会に着ていく洋服を決め、時間までのんびりと読書を楽しむマーガレットであった。
・・・・・
「今日はお招きありがとうございます、ソフィア様」
「ご機嫌よう、マーガレット様。私、今日のお茶会を楽しみしていましたわ。どうぞおかけになって」
王宮の中庭。花々に囲まれた場所に置かれた東屋にて、お茶会は催される。ソフィアに促され、マーガレットは椅子に座る。目の前のテーブルには宝石のように輝くお菓子。つい手が伸びてしまいそうになるのをグッと堪え、マーガレットはやましい事など何も無いと言うように、毒気のない笑顔を浮かべる。まぁ実際何一つとしてやましい事は無いのだが。
ソフィアもマーガレットに対してはあまり警戒心を抱いていないようで、ここ最近のお茶会では、王宮での生活やアルドリックの話もそこそこに、他愛ない噂話や趣味の話などで盛り上がっている。
「_______という訳で、とっても素敵なお話なんです!」
「聞いているだけでドキドキしてしまいますわね。私も時間をとって読んでみようかしら」
「よろしければお貸しいたしますわ。私はもう内容を暗記してしまう程読みましたので」
「よろしいのですか?ありがとうございます、マーガレット様」
最近流行りの恋愛小説についてマーガレットが熱く語る。それをソフィアが楽しそうに聴く。いつものお茶会の風景。今日のお茶会もいつも通り和やかに終わるのだろうと思っていた。
「____随分と楽しそうだな、我が花達よ」
低く、凛とした声が降ってくる。声のしたほうこ方向を見れば、そこにはアルドリックが立っていた。なぜここに王が、旦那様が。ましてや話しかけてくるなんて、今までなかった出来事にマーガレットは硬直した。
そんな彼女とは対照的に、ソフィアは優雅に立ち上がってお辞儀をする。それを見たマーガレットも慌ててアルドリックに挨拶をした。
「アルドリック王、如何なさいましたか?」
「そんなに畏まらなくて良い。今は俺も休憩中だ」
「なら、“我が花達”なんて柄にもない事言わないでちょうだい。鳥肌が立ってしまうわ」
「こういう言い方が喜ばれると聞いたのでな。どうやらお前には不評の様だが」
「またくだらない老人達の話を馬鹿正直に聞いたのね。今更貴方にそんな呼ばれ方されたって気味が悪いだけだわ」
気安く王と話をするソフィア。やっぱり幼い頃から共にいる第一夫人なだけあるなぁ、と感心してしまう、マーガレットなどこうして近くにいるだけで落ち着かないというのに。
もしかして2人の邪魔になってるのではないか。お茶会の途中ではあるが、ここは気を利かせて立ち去った方が良いのでは…などと考えていると、不意にアルドリックがマーガレットの方へ顔を向ける。バッチリ目が合ってしまい、マーガレットは慌てて頭を下げた。
「マーガレット、王宮での生活に不便はないか?」
「え、ええ。王のお陰で有意義な日々を過ごさせて頂いております。ソフィア様もこうして良くして下さいますし……」
話し掛けられるとは思ってもみなかった。緊張からどもってしまったが、やましい事があるように捉えられていたらどうしよう。などと心配したものの、アルドリックは特にマーガレットを疑う素振りを見せず、「ならば良い」とだけ答える。
「………………」
「………………」
沈黙。てっきりアルドリックは直ぐに立ち去るものだと思っていたが、何故かまだこの場に居る。マーガレットは何を言うわけでもなく凛と佇む王に疑問符が浮かぶばかり。沈黙が耐え難いが、勝手に口を開いて良いものかも分からない。そんな状況に助け舟を出したのはソフィアだった。
「……マーガレット様、申し訳ありませんが、今宵のお茶会はここまでにしておきましょう。私、早急に片付けねばならない案件がある事を思い出しまして…」
「そ、そうでございますか。残念ですがそれは致し方ありませんわ。お話していた小説は後日侍女に届けさせますわ。
次のお茶会も楽しみにしております」
助かった、と思いながら丁寧に挨拶をして、マーガレットは優雅に、しかしなるべく早足でその場を去った。クロエは「失礼致します」とソフィアとアルドリックにお辞儀をし、慌ててマーガレットの後を追う。
・・・・・
「はぁー、まさかアルドリック様がいらっしゃるとは思わなかったわ。緊張した……」
自室に戻るやいなや、マーガレットはベットに倒れ込む。そのまま広いベットでゴロゴロと転がる主人を見て、遅れて部屋に戻って来たクロエが呆れる。
「マーガレット様、せめてメイクを落として、着替えてから横になって下さい」
「はーい」
間延びした返事にクロエはため息をひとつ。とても王の妻とは思えないお姿だ。これでも王宮に来て暫くは自室でもきちんとしていたのだが、すっかり王宮生活に慣れきった今ではこの有様。しかも口うるさい両親もいないので実家にいた時よりものびのびしている。この王宮でここまでリラックス出来るのはマーガレットくらいのものだ。
たとえ何人いようとも、“王の妻”はそれだけでこの国において確かな地位をもち、そして王政が続く限りその地位に足る生活が保障される。しかしその代わりに、殆どの場合、一生王宮内縛られる事になる。外出をするにも届け出がいるし、そして外出時も護衛がつく。また、外では“王の妻”に足る振る舞いが求められる。そんな生活に息が詰まるという者は多い。
ましてやアルドリックは妻たちに興味を示さない。夫と愛を育む事もなく、王宮で代わり映えのしない日々を過ごす事に退屈した者が不貞に走り、王宮から追い出される事もあった。
しかし元々家に引きこもりがちでズボラなマーガレットにとって、今の生活は快適以外の何物でもない。買い物は商人が王宮まで来てくれるし、食事も一流の料理人によって作られたものが部屋まで運ばれてくる。今日のお茶会の様に時折面談みたいな事はされるし、アルドリックも半年に一度くらいの頻度で妻たちの元へ足を運ぶが、それ以外の時間は自由だ。外に出なければ人目を気にする事も無い。マーガレットは王宮生活に満足していた。
「さてと、気を取り直してこの間買った小説でも読もうかしら。
__あぁ、小説と言えば、ソフィア様に貸す小説の用意をしなければいけないわね。クロエ、こちらをソフィア様へ届けるように手配してくれる?」
「かしこまりました」
今日の最大の用事であるお茶会は終わり、メイクを落とし、着替えも済ませた。あとは好きなだけダラダラと過ごしていい。
マーガレットはだらしなくベットに転がり、趣味の読書を存分に堪能し始めた。
・・・・・
時は少し戻り、マーガレットが立ち去ったあとの東屋にて。ソフィアは、ため息をひとつつき、アルドリックに拗ねたように悪態をつく。
「折角楽しくお話していたのに、貴方のせいで台無しだわ」
「それはすまなかった。ところで早急の用があるんだろう?行かなくていいのか?」
「そんなの方便に決まっているでしょう。分かってくるくせに。
貴方こそ、態々お茶会中に声を掛けてくるなんてどうしたのかしから?いつもはそんな事しないのに。あぁ、“妻の様子を見るため”なんて建前は結構よ。そういうのは全部私や貴方の側近に任せているでしょう」
「全部では無い。定期的に妻達の部屋を訪れては不便がないか聞いている。これでも、 俺も王宮に縛られている彼女達の事を気にはしている」
「半年に一度の訪問なのに?妻たちを気にしている、と言うのならもっと気を配ってやりなさいな」
「せめて訪問する時くらい贈り物のひとつ用意しなさい」とソフィアはまるで我が子を叱るようにアルドリックへ苦言を呈する。全くこの男ときたら、王としては優秀なのにプライベートにおけるコミュニケーションが駄目すぎる。特に女性相手は。そんなんだから老人達の古臭い口説き文句や慣習を真に受けてしまうのよ。
ソフィアとアルドリックは幼い頃から共にいる。一夫多妻制とはいえ、王位継承者には必ず1人の婚約者が選ばれる。能力と家柄を吟味して選出された、“未来の第一夫人”として。第一夫人の使命は公私共に夫を支える事。
ソフィアもその使命を受け、幼い頃から政治やら歴史やらの勉強をし、また淑女としての礼儀作法の他、所謂花嫁修業なるものも習わされてきた。
アルドリックも、王位継承権第一位の座におり、幼い頃から王になる為の勉強をしてきた。
2人は物心ついた時から強要される勉学をこなし続け、嫉妬による嫌がらせや謀略による暗殺に耐え抜き、ここまで来た。いわば戦友の様な間柄であった。今更恋愛感情などは微塵も無いが、2人の間には今まで築き上げてきた確かな信頼がある。ソフィアはアルドリックの事を何でも知っているし、またアルドリックもソフィアの事を分かっている。
だからこそ、あの他人に興味が無く、妻たちでさえ政治の為に娶っているあの男が、お茶会中に声を掛けてくるとは思ってもみなかった。アルドリックと違い色恋にまみれた脳内で余計なお世話をやくかつての重鎮たち__今は隠居している老人達__に何か言われたのかしら、とソフィアは首を傾げる。
ソフィアのアドバイスに対し、アルドリックは困った様に眉を下げると、ポツリとこぼす。
「…………贈り物、とは何を贈れば良いのだろう」
「あら、私の言葉に素直に耳を貸すなんて珍しいわね。
そうね、無難なのはお花だけれど……それぞれ好みがあるから人による、としか言えないわ。例えば第二夫人のフレア様は魔法研究がお好きだから、それに役立つ素材をお喜びになるでしょうし、第五夫人のリーズ様は、流行に敏感なお方だから流行りもののドレスやアクセサリーが良いでしょう」
「……面倒だな」
「公務では他国に贈り物をする時、その国の王の好みを調べてそれに合わせるでしょう?それと同じよ。まずはそれぞれの夫人の好みを把握する事から始めなさい」
「……分かった。___因みに、マーガレットは何が好きなんだ?」
「マーガレット様?読書がお好きな様だから本、かしら。あとは珍しいお菓子とかもお喜びになるでしょう」
「そうか……」
___あらまぁ……。ソフィアはアルドリックの表情が和らいでいる事に気付く。それは長年彼のそばに居る彼女にしか分からない様な小さな変化だが、あのアルドリックが、女性の話でこうも表情を緩めるとは。
「___アルドリック、貴方、もしかしてマーガレット様に興味があるのかしら?」
「…………分からない」
長い沈黙の末返ってきたのはそんな曖昧な返答で。しかし幼い頃から即断即決だった彼が曖昧な返答をするということ自体が、はいと答えている様なものだ。
実際、アルドリックはマーガレットに興味を抱いていた。何せ彼女は、この王宮生活に一つの不満も漏らさない。妻たちの身辺調査を行う密偵からの報告でも、怪しい動きは何一つない。“王の妻”という立場を利用して威張り散らすことも、金を湯水のように使う事も無い。
他の妻は、第五夫人のリーズの様に散財して気を紛らわせるか、はたまたアルドリックに見切りをつけて彼の異母兄弟に取り入ろうとするか___いずれにせよ、王宮に束縛されている上にアルドリックの通いもない現状に不満を抱き、そういった行動に出る者が多い。
勿論、マーガレット以外にも王宮での生活に不満を持たない者もいる。ソフィアは物心ついた時からこの生活が決まっており、とうに覚悟していた。第二夫人のフレアは魔法研究が生き甲斐とも言える人物なだけあって、存分に魔法研究が行える現状に満足している。
しかし、マーガレットはどこまでも普通の貴族の娘である。その美しさこそ普通とは程遠いが、ソフィアの様に幼い頃から英才教育を受けていた訳ではもなく、フレアの様に他に物凄く熱中している___それこそ人生をかけるレベルで___趣味がある訳でも無い。
にも関わらず、他の同じ様な条件の妻たちと違い、散財に走る事も不貞に走る事も、裏切りを企てる事もなく、大人しく王宮に囲われている。それがアルドリックの目には珍しく写った。
まぁ、そもそもの話、他の妻たちが少しアレなのは、ひとえにアルドリックが他人に興味が無さすぎて、ある程度の家柄と容姿だけを条件に、周りに勧められるがまま妻を受け入れているから、というのが大きいのだが。
王に取り入って国の中枢に潜り込もうと両親から送り出された娘たちからすれば、王に見向きもされなければ焦るし、なまじプライドの高い者は“何故自分に見向きもしないのか”と不満を抱く。それが爆発してあの様な行動に走る者が多い、というだけだ。
ソフィアは、少なくとも妻たちが現状に大きな不満を抱いている事を理解していた。それにより、時として彼女たちが暴走しかける事もあった。
これは、ある意味現状を変えるチャンスかもしれない。
「そう…“分からない”のね。ではマーガレット様と、そして他の人とも、もっと関わりを持ちなさい。そうすれば答えが見えてくるかもしれないわ。
貴方は他人に興味がなくて、コミュニケーションに慣れて無さすぎる。人と関わる事で知る世界も、生まれる感情もあるの。それは公務で多少なりとも身に染みているでしょう?」
「………努力する」
ソフィアはまたため息を一つ。私はこの方の母親か何かだったかしら。“自分に出来るだろうか”と不安そうな顔は確かに母性を擽られるけれども。
彼のマーガレットに対する感情は好意なのか分からない。仮にそうだとしたら、色々と面倒な事になるだろう。王の寵愛を一身に受ける妻は否が応でも周囲の関心を集める。その中には当然、悪意も含まれる。
それでも、この事をきっかけにアルドリックが他人に関心を持つようになれば、そしてもっとコミュニケーション能力を高めてくれれば、彼はもっと素晴らしい王となり、この国を導いてくれるだろう。
また、妻たちの元へ通う頻度が増えれば彼女たちの不満も多少なりとも解消される。暴走しかける妻を止める、という自分の仕事も少なくなる。
ソフィアは、マーガレットに降りかかるかもしれない苦難を承知の上で、王の成長と、国の未来、そして自分の負担の軽減をとった。
ソフィアもマーガレットの事は好ましく思っている。けれど、たとえアルドリックがマーガレットに構うようになって、彼女が針のむしろに立たされようとも、それで国の繁栄に繋がるのなら構わない。勿論、マーガレットの負担が少なく済むように最大限のフォローはするつもりであるが。
そんなソフィアの心情を知って知らずか、アルドリックはひとまず妻たちの元を訪ねる頻度を増やそう、と一人新たな決意を固めていた。
___そして話の渦中にいながら、アルドリックとソフィアの間で交わされた会話など知る由もないマーガレットは、小説の世界に没頭していた。
次の日、アルドリックが大量の異国の菓子を持って訪ねて来て、度肝を抜かれる事になるとは露知らず。
___今はまだ、気楽な王宮生活を満喫していた。