第十三章 湖水地方で家(その他)、建てます ~船頭多くしてなんとやら。なんだったでござろうか?~
第二回新領土開拓会議(第一回はアルケモートのライブ居酒屋クラヴィアで開いた)。
議長はアレットが務める。
「この場所の名前ッス」
確かにそれは重要だと全員が頷く。
「しからば、ここにいる全員の名の頭文字を取り並べてゆくのはどうでござろう。拙者はひまりであるから『H』でござるな」
「私はピエリーナなので『P』なのです」
「わたしは空なので『K』ですね」
「自分はアレットなんで『A』ッスが、どう並べると名詞っぽくなるッスか?」
試しに四文字を様々に並べてみたが、名前としてまとまりそうにない。そもそも母音が足りないのだ。
様々に考えたものの結局いい案が浮かばない。だがここで、ひまりが空の肩に注目した。空は、自分の家紋入りセーラー服を着ているのだが。
「武器……」
「はい?」
「いや、我々は全員武人でござった。徒手空拳に兵器術どちらも使いこなし、陛下の後ろ盾がござる。そこで、『フォーマメント』と言うのはどうでござろう?」
ひまりは持ち運びの絵筆(墨池と筆のセット)で暖炉用の薪木に文字を綴る。
「Four+Armament(四つの戦力)=Fourmament。いいッスねえ! ほかにアイデアある人ー!?」
ひまりがいきなりよさげな名前候補を出してきたので、空もピエリーナもうなって何かないかとアイデアを探す。
「んじゃ、とりあえずフォーマメントが第一候補で。明日までに追加アイデアが無かったら、ひまりの案を採用したいと思うッス」
空とピエリーナは「もうこれでいい気がする」とうなずいてしまった。
議長は空に交代。
「それでは、これからの目標です。国王陛下から頂いた開拓支援金の1/4をこの領主邸に使ってしまいました。それとは別に報奨金などがあるので我々の懐は温かいですが、それでも節約しつつ、来客体制を整え、ここで我々が食べてゆくのに困らないシステムを整えたいと思います。
基盤は主にふたつ。ひとつは可能な限り畑を開拓し、もうひとつはこの湖水地方での狩猟です。野菜が育つまでは時間を要するので、まずは湖で魚を、森で獣を狩り、食べない骨や皮の部分は素材としてアルケモートに卸そうかと思います。ジェフリーさんの商売敵になるのは避けたいので、卸売先はジェフリーさんにしたいと思いますが」
「よき案と存ずる。狩猟は拙者と空が、アレットとピエリーナには畑仕事を、という役割分担を大まかに決め、細々とした調整はまた後日とするのはいかがでござろう?」
「自分は異論無しッス」
「あれこれ考えるよりまずはやってみる、と言うことなのです」
次の議題は、この土地の代表である。
議長はひまりが務める。
「ヤマトには『船頭多くして船山に上る』ということわざがござる。いつかこの土地を四分割するにしても、まずこの開拓を何らかの形で運営できるようになるまではひとつの土地の顔となる者が必要でござろう。そこでこの中で誰よりも国王陛下に近いレアガルド王国議会保安庁諮問探偵という肩書を持つアレットに、当面の『領主陣代表』を推薦しとうござる。そうでなくとも、アレットにはリーダーシップがあるでござるからな」
「じっ、自分がここの代表ッスか!?」
「然様。推薦理由はそれだけではござらぬ。空は軍人、拙者は武士、ピエリーナは接客業と、我々は誰かにかしずいてきた者。一方でアレットは王国議会に意見できる立場を持っている。ムードメーカーとしての素質もあり、拙者としてはアレットを推薦する理由などいくらでも持ってござる。無論、アレットが代表を辞退し空かピエリーナが代表を務めたいと名乗り出るのであれば、『やる気のある者こそ最大の素質を持っている』として各々の意を尊重したいと拙者は思う次第でござる」
うろたえるアレットだが、顔を見合わせた空とひまりはうなずいてアレットに言う。
「今までアレットにとても助けてもらいましたし、アレットの明るさにいつも元気をもらっています。あなたが代表となるなら、わたしはそこに異を唱えることはありません」
「私もなのです! アレットさんはとても頼りになるお姉ちゃんなのです。アレットさんが代表になってくれるなら、安心して私の、私たちの家をお任せしたいと思うのです!」
「え~……? まあ確かに自分は個人事業主のくせして王国議会相手に物言える立場ッスが、それでも探偵としての立場からのご意見番程度ッスよ? 領主陣代表って大丈夫なんッスかねえ? 貴族社会って結構ドロドロしてる部分があるのを目で見て知ってる分、気が進まないんッスが」
頭をぼりぼりと掻くアレットに、空が言った。
「であれば、ここにいる誰が代表を務めても同じです。もしアレットが代表を心底嫌がるなら、方々からの嫌われ役はわたしが一手に担い、アレットにはわたしの補佐をしていただくという案を提言します。わたしの車をアレットが運転してくれたことから始まった、わたしの支えとしてのアレットの在り方です。これまでと関係性を変えず、それでいてアレットに対する恩返しができるのであれば、わたしが領主陣代表に名乗りを上げるのもやぶさかではありませんが」
「空……」
空に言われ、アレットは腕を組んでうなる。
三人に見守られることしばし、アレットは「ん!」と力んで答えた。
「恩とかそんなの関係ないッス!」
「アレット?」
「空。自分が嫌がるからって立候補するのは無しッス。みんなが自分を推してくれるなら、それに応えるのが礼儀ってものかと。心底自分には合わないと思ったら断るのもひとつの礼儀ッスが、やってやれないこともないのなら、みんなの推薦を受理するッス。その代わり、我々は四人でひとつの地を治める領主。自分に至らぬ点あらば、ぜひとも協力をお願いするッス!」
「無論でござる。これまでのようにこれからも、我々は支え合い共に邁進致そう」
そして最後の議題。これが最重要事項である。
議長はピエリーナが務める。
「それでは、この手つかずの自然に満ちた湖水地方をどう開拓してゆくかなのです。これまでの会話から、ピックアップしてみたのです」
議長ピエリーナは両親を呼ぶための別荘地にしたい。
ひまりは旅に疲れた後のスローライフの地にしたい。
勇者アルスは国王に成り代わり国有地を自由に開拓できると言う。
そしてこうして訪れて目の当たりにした湖水地方は、本当に何もない。
アレットは思案し、それを言葉にした。
「これほどの土地を、どうして誰も開拓してこなかったんッスかね」
「アレット?」
「貴族制は遥か昔かあり、貴族になれば、あるいはそれだけの功績を立てられれば、こんな感じの土地なんて好き放題にできたはずッス。それがどうして今まで開拓もされず放置されていたんッスか? 別に凶悪な獣が出るわけでもなし、湖から人を丸呑みするヘビが襲ってくるわけでもなし。ところがプリモディアル・ジグラスのあった国立公園の存在と比較して考えれば、ここは国立公園レベルではないにしても『国有地とすることで誰にも開拓させない自然保護区』だったと見ることも可能ッス。つまり国王陛下は、『環境汚染を誘発するレベルの開拓さえしなければ自由に開拓していい』と暗に言いたいのかもしれないッス」
「一理あるでござるな。しかし、自然保護区としての役目を維持したければ国有地を新米貴族に開拓させるでござろうか?」
「ひょっとしたら、今の時代にその必要性はないと思ったのかもしれないのです。その意図は分からないのですけれど」
「この土地を自分らに分け与えてくださった理由は陛下のみぞ知る、ってことッスか。ここが今まで手付かずだった理由はいつか陛下にお尋ねするとして、とりあえずどう開拓したいかッスが、『ここをリゾート地とする』、と言うのはどうッスかね?」
リゾート地とはどういうことかと空たちは尋ね、アレットは錬金術由来の『水反応紙』に水を浸した専用のペンを走らせて大まかな地図を描く。
「まず、自分たちが暮らしていくに困らない程度の畑を開拓、そこまでは先程話し合った通り。そしてこの領主邸を受付として、領主邸からほど遠くないところに『来客宿泊棟』を建設、そこから湖を眺められる位置、それも湖の東側に大中小の宿泊施設をいくつか建設するッス。それを別荘として売るかグランピング施設として貸し出すかは未定。利用者が食料を持ち込んでキャンプ料理を作るもよし、こちらで食料を調達して提供するもよし、利用者にとってオールマイティーな食文化提供システムを用意したいところッスね」
「なるほど、分かりました。しかし東側に建設するのはどうしてですか?」
「んッス。東西向かい合う形で建設すると、互いの様子が見えてしまってリゾート気分を台無しにすること、一日を締めくくるのに夕日と夜空を堪能してもらうため、主にその二点ッスね。この地が収益を得るために金持ち相手に『特別感を提供』したいところッスが、旅好きやキャンプ好きの一般層に楽しんでもらうために格安プランも用意して、そこに対しては食材の販売だけにとどめるつもりッス」
なるほどと、空たち全員は地図を見ながらうなずいた。
「さてピエリーナの両親のための別荘地ッスが、領主邸をはさんで来客用宿泊棟の反対側に建てたいッスね。これはピエリーナの両親だけ特別待遇されていると、賓客に宿泊棟暮らしの中で見せつけたくないからッス。あぁあと、出入りには表の玄関ではなく、玄関と同じ構造の勝手口を使ってもらいたいッスね。これも配慮ッス」
そう言って、地図に描かれた領主邸のすぐ西側に建物を示す四角形を描く。ドアを示す線は、湖側と森側にふたつ描かれていた。
「ありがとうなのです、アレットさん!」
「んッス。さてピエリーナ議長。ほかに議論しておきたいことはないッスか?」
「そうなのです。領主邸はもう建っちゃったから今から変更はできないのですけれど、宿泊施設はどんな風にするのです? 領主邸を建ててくれた大工さんにお願いするか、特別感を演出するためにデザイナーさんをはさむとか」
「それもありッスね。誰かこういうことに聡い人~?」
そこに、ひまりが手を挙げた。
「ヤマトでは、田舎暮らしにあこがれる若夫婦が廃村から旧領主邸を解体して移設して再建して暮らすと言う『移築』という手法で田舎暮らしを満喫するという例があるらしいでござる。あとは、大岑帝国やシュトラルラント王国では『リノベーション(用途の刷新)』と言う形で、戦争で滅んだ亡国の城を博物館や歴史館として運営する、海沿いの地域では廃船や海賊船をそのままホテルする、などの例もあるようでござるな」
「それです!」
空が突然叫んだ。
「空!?」
「これは予算があったらで構いません。せっかく広い湖があるのです。廃船を譲っていただけたら、それを湖の遊覧船あるいは高級リゾート施設として運用できないかと思います。もちろん維持は大変でしょう。そこは船舶のメンテナンスに秀でた事業者を定期的に呼ぶことで利益を維持費に充てるのです」
「空、さすがッス! ピエリーナ?」
「はいなのです! 開拓が面白くなりそうなのです!」
「面白き案にござる。ピエリーナ、これ以上議題が無ければ、今日はひとまずキャンプにしとうござるが」
「ひまりさん? もうキャンプする必要、ないのです」
「あ」
その日は、森で狩ってきたイノシシを解体して塩とハーブで味付けした『イノシシステーキ』を堪能した。骨はきれいに洗って干して、スープのもとにするらしい。




