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第二章 海賊強襲 ~まずは観光しましょう。~

 港湾都市アンカーボルト、ハンターギルド。

「えっ!? (くう)氏、食べ歩きしてたら海賊に追われた少女を助けてたッスか!?」

「はい。まあわたしの敵ではありませんでした。それと、昨日も言いましたが『空氏』というのはやめてください。変に他人行儀ですし、旅の仲間なら空と呼んでください」

「そうだったッス、失敬。しかし災難だったッスね。金にならない戦いはしない、それが空氏の、あ、空の主義ッスのに」

「確かに無駄な戦いは避けたいです。しかしそれは金になるか否かの問題だけではなく、余計な敵を作らないことでもあるのです。それに戦うべき時は戦います。わたしが力を振るう時、それは守るべきもののためにあるべきと考えます」

「守るべきもの、ッスか?」

「はい。例えばそう。セントラルで営まれているおいしい料理を提供してくれる屋台、槍をわたしのために調整してくれたマイスターの名誉、先ほど襲われた奴隷の少女の未来、そういったものでしょうか」

「なるほど、分かるッス」

「それに、おいしい料理を台無しにする不届き者は万死に値すると思っています」

「死!?」

 以前、脱獄犯が駆る蒸気駆動車がセントラルのメインストリートの屋台を台無しにしたことがあったが、それについて語る空の目は怒りと憎しみに濁っていた。

 それはさておきと、空とアレットはアンカーボルトを観光しようと車を走らせた。


 訪れた先。

「それでなぜゴーレムなんッスか」

「興味があるからです。陸軍の座学では、戦争の道具として使われたという歴史しか習わなかったもので」

 町北方『ゴーレム博物館』。

 古今東西のゴーレムに関する錬成方法、使い道、発展の歴史などを展示や解説をしており、未完成のゴーレムの粘土板まで展示されているのだが。

「どうしたら土くれが人の姿をして動くのかがとても気になるのですが……、やはり見るべきではなかったでしょうか。ゴーレムの歴史はなかなか血なまぐさいものですね」

「自分も教科書で習ったくらいッスが、確かにあまりいいものではないものッス」

 ゴーレム。

 有名なものは、土に『真実』と書かれた霊媒の札を張り付け生贄の血(その多くは害獣として捕らえられたネズミなどのもの)をしたたらせることで発動させる呪術(実際は魔術)から生まれる泥人形。ゴーレムは疑似的な魂を持つが自我はなく、術者の命令通りに動く『命無き奴隷』。土製であるだけに耐久性はあまり高くなく、せいぜいが戦争で軽い武器を持って敵陣に殴りこんでゆかせるという使い方しかできない。

 だが魔術に錬金術に機械技術が発達した昨今、土くれの人形は鋼の体に、霊媒の札は錬金術で作られた『魔導コア』に変換され、生贄の血は『アークル』と呼ばれるエネルギーに代用され、精密な動作や重量物の運搬が可能となった。

 ゴーレムは今や、人に代わって危険な仕事を受け持つために必要な『重機』となっている。だがそれを戦争に使わなかった時代はない。各国が小型戦闘用ゴーレムを開発する中、サンティーエ帝国は戦車さえしのぐ巨大『自走式ゴーレム』を建造。しかしそのゴーレムは暴走し、敵味方の区別なく殺戮を繰り返し、町を破壊し、アークル切れで停止した。

 原因は『サンティーエの技術者の倫理観の欠如』とされたが詳細は不明。その後、『エイゼル大陸産業技術協定』で従事用ゴーレムの兵器転用と戦闘用ゴーレムの開発の禁止、そもそもゴーレムの戦闘行動目的使用の禁止が盛り込まれた。ほかにもこまごまとした取り決めはあるが、一般人に理解できるのは主にその程度である。

「しかしゴーレムの暴走に関しては、ふたつの仮説が立てられます」

「仮説、ッスか?」

「はい。①:たとえば機械が複数の部品の集合体であるならば、その部品を作った会社が違えばマッチしないことがあります。人間でいうところの脳や血管などに相当するであろう重要部品にアンマッチが起こってしまえば想定外の動作をすることが考えられます。②:そしてアークルですが、それは人間をひとつとするあまたの生命体が持つエネルギー。機械であるアイアンゴーレムに生命エネルギーを利用すると言うことは、もともとが疑似的な魂を与える土製ゴーレムにそれこそ魂に近いものや自我を与えてしまう可能性もあるのではないでしょうか」

「なるほど、そういう考え方もできるッスね。でもそれがまさしくサンティーエのゴーレムの暴走の原因なら、国家機密の一端に触れたことに」

「忘れましょう」

「早いッスね!」


 次なる観光地。

「水族館、ですか?」

「そッス。ここでは『ウエストエイゼル大湾』に生息する生き物が展示されているほか、新鮮な海の幸を味わうことができるんッス」

「つまり、巨大な生け簀ということですね」

「どこまで食欲にまみれてんッスか!? きれいな魚や貝類、サンゴやイソギンチャク、いろんな生き物と交流できて楽しいところなんッス。確かにレストランもあるッスが、展示フィールドではまあ美術館や博物館だと思って、魚たちの可愛らしい姿を観察して触れ合って、そういう楽しみ方をするんッスよ」

「この毒のある魚とも触れ合えるのでしょうか……?」

「あー、そこはきちんと館員さんが管理してくれてるはずッス。あっちにおもしろい展示があるッスよ?」

 ところで、サメと言えば巨大で人すら食う獰猛な魚類であると言う認識が一般的。だが比較的小さく大人し目のサメ、それも子供のサメであれば指を噛まれても食いちぎられる心配もなく、水槽の中に手を入れてサメを撫でられるコーナーもある。その「ざらり」とした独特な感触に、空は子どもよりも驚き、その後十分以上撫で続けて背後に行列を作っていた。

「あのー、空……?」


 次。

「展望灯台というのもまた楽しいですね。遠くの景色がとても美しく、地上とは違う風が心地よいです。それに、この灯台の光が夜の海を往く船の案内役を担っているのですね。こうして輸出入事業に欠かせない船の航行の安全を担う存在、敬うべき存在だと思います」

「そうッスね。そして灯台を建造した人、今ここで船の安全な航海のために働く人、その全てに感謝しなければならない心底思うッス」


 昼食時。

「だというのに、どうして水着に着替えなければならないのですか……?」

「それはもちろん、水着こそ海の正装だからッス! 目指すは焼きそば! たこ焼き! たこせんべい! アイスクリームにクレープもあれば、言うこと無しっすよ!」

「つまり、砂や海水を足にまとわせながら海辺のグルメを堪能する、と言うことですね。燃えてまいりました!」

「本当に空の頭の中は……。まあ、水着で海グルメを堪能していた自分も自分ッスが」

 売店にて、空が選んだ水着は金色の縁の赤いブラトップ&ショーツタイプ。下着と何ら変わらない露出度の高い水着だが、空としては動きやすさを重視してのチョイスであり、結果として空の健康的な肉体美を魅力的に演出している。アレットの水着は自らを美しく見せるためのピンク色のワンピースタイプの水着。しかも生地の染料はヤマトから取り寄せている最上級染物の布地を惜しげもなく使った一品なのだとか。

 海のグルメと言えば、焼きそばとクレープと清涼飲料は定番。瓶の形状が独特なクリアブルーの瓶を見て売店の店主に「ラムネは初めてか? ひとつご馳走するよ」と言われて飲むのだが、ガラス玉が邪魔をしてうまく飲めない。「側面のくぼみにガラス球を引っ掛けて飲むんだ」と説明を受けて、「ラムネもおいしいし飲み方も独特で楽しいです!」と興奮するのだった。

 その後、粗暴そうな数人の男たちに囲われた。「ご馳走にありつけるならついてゆきます」と誘いに乗る空だったが、「明らかにナンパ目的ッス。断るのが賢明ッスよ」とアレットは男たちの囲いをかいくぐる。

「ナンパ、ですか?」

「そッス。非モテなやつやスケベな男はいいなと思った女の子に声をかけ、恋仲になりたいと思う純粋なやつもいれば女体が目的の下劣極まりない変態もいるッス。さっきの男たちは、振る舞いからして後者ッスね」

「確かに胸をよく見られていた気がします。もっとも敵意はなさそうでしたが」

「まあ可愛い女の子に? 敵意を持って近づく男なんて? いないッスからねえ!」

 そしてアレットは、空と自分自身を指で指した。

 そして周囲の女性たちは「すげえ自信」と唖然となる。

 ――気付いていないのかしら。

 ――焼きそばのソース、

 ――ほっぺたにくっついてるけど?

 空のみならず海のグルメを楽しむのには、誰もが破目を外すものだ。

「まあ敵意があったら叩き伏せた上で慰謝料代わりにラムネを100本おごっていただきますけど」

「空も空で容赦ねえ!?」

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