第一章 武人と探偵 ~知らない過去と美食を求めて、わたしは旅を始めようと思います。~
その後、ゴールドメイルとパーティーを組んでいるという青年が「うちの突撃隊長が無礼を働いて申し訳ない」と謝罪に訪れ、お詫びがしたいと申し出た。そんな彼に空は「ボロくていいので移動手段が欲しい」と言ったところ、新車の『軍用蒸気駆動車』を手に入れることができた(ゴールドメイルは元陸軍歩兵隊副隊長である)。
「こんな立派なもの、もらっていいのですか?」
おどおどする空に、その青年、パーティーリーダーである『勇者アルス・ライトアームズ』が申し訳なさそうに返す。
「いいんだ。こいつは戦えばそれなりに強いんだが、本当にこいつのプライドの高さからくる横柄さにはうんざりしていてさ。お詫びならこのくらいはさせてもらいたい。しかしその若さで世界を見て回る旅を、か」
「ええ。どこかおすすめの場所はありますか?」
「そうだな。なら、せっかく冒険者の資格を持っているんだからレアガルド王国の各地でいろんなクエストを受けてみるといい。そして困っている人がいたら手を差し伸べるんだ。『この世界は因果応報で成り立っている』。善行は時を経て恩恵として返り、悪行はうちのバカを見れば言わずもがなだ」
「ありがとうございます」
「うん。道中ご無事で」
空とアルスは握手を交わし、空は車に乗り込む。
……のだが。
「車って、どうすれば動くのですか?」
空は、運転ができなかった。
「馬を贈った方がよかったかなぁ?」
そしてアルスは頭を抱えた。
その後。
アルミスセントラル南門の先、交易路。
「助かりました、アレットがついてくるって言ってくれて」
空がアルスからもらい受けた車の運転席には、アレットがかけていた。
「いいんッスよ! 自分も広い世界を見て回りたいって思っていたッスから。確かに保安庁諮問探偵は稼げるッスが、難事件が無い限りヒマでヒマで毎日お悩み相談受けたり懸賞のパズル解いたりの日々なんッス。だから、こうして出会えた空氏と旅をするのもいいかなーって思うわけッスよ。で、南に行ってどうするッスか? 冒険者仕事として海賊船でも沈めてやるッスか?」
「それもいいですが、海がある町アンカーボルトにはおいしい海の幸がそろっていると聞きます。またアンカーボルトは港湾貿易都市でもありますし、わたしの知らないものがたくさんあると思いますので、今からそれが楽しみで仕方ありません」
「おっ、目的は美食ッスか、いいッスねえ!」
「はい。おいしい料理は生きる力ですからね。……そうです、今決まりました」
「何がッスか?」
「わたしの旅の目的です。世界を見て回ることや自分の過去を探すこともですけど、世界中のおいしいものを食べ歩く旅をしようかと。自分探しとおいしいもの探しの旅、いいと思いませんか?」
「いいッスねえ! 自分もお供するッスよ! 空氏と一緒なら、きっと胸躍る美食の発見があるに違いないッス! よーっし、アンカーボルトに向けてアクセル全開! ぶぅーっ飛ばせぇ―――――ッ!」
そしてここから、空の果てのない旅が始まる。
旅の終着地はない。空が冒険と美食を求め続ける限り。
……その頃。
アンカーボルト北方の『祈りの塔ジグラス』。
ジグラスに訪れた着物姿の少女が、書庫に保管されていた書物を読みあさっていた。
「『災禍の神と伝説の八士・レアガルド伝記』……」