第九章 魔術式の砦 ~これが、この町が変な形をしている理由なのです!~
翌日、オアシスを抜けて。
レッドフォート州側の露店集落に到着した時点でキャラバンを外れた荷馬車も護衛もなく、マックスはキャラバンに同行したすべての冒険者に同じだけのギャラを手渡した。ここからレッドフォート州『五区砦・中央区』までの道のりも改めて護衛を継続雇用するのだが、ここまで旅のお供ができればいい旅人はここでお別れになる。
「ったーくよお、俺たちのおこぼれもらうような旅人のせいでギャラが減るようなもんだ。やってらんねーよな。ここからが稼ぎの本番よぉ!」
手取り額を確かめる護衛の男がそう毒づくが、「まあそれも生存戦略ッス」とアレットは首を横に振る。マックスも言う。
「まあそう言ってくれるな。砂漠の一本道の旅は、誰もかれもが持ちつ持たれつだ。それがイヤなら、このクエストを受注してくれなくてもいいんだぞ?」
「ちっ……。わーったよぉ」
実際、ここで分かれた旅人の中には剣や小銃など強力な武器を持つ武者修行者や傭兵などもおり、キャラバンの人員は彼らにもっといてほしいと思っていたくらいである。
わずかに人数が減ったところで、キャラバンは残る護衛を連れてふたつの町で荷物を下ろしつつレッドフォート州の中央『五区砦』を見下ろせる丘にたどり着いた。
マックスは運送ギルドの営業許可状を『関所』の門番に、そしてたどり着いた『五区砦・東区』の門番に提示、防壁のゲートを通りキャラバンをいざなう。
その間、防壁の塗装や新たなるやぐらの建造などの様子が見られた。防壁のさらに外の三角柱型やぐら、主防壁と三角やぐらにカノン砲や砲弾を搭載するためのクレーン、兵士や砲弾を輸送するための魔導ソレノイドエレベーターなどの建造が進められている
「アレット。やはりピエリーナや先日の盗賊たちの話は……」
「んッス。今すぐ戦争が起こるわけでもないのに、バカなことに税金割いてるッスねえ。もし本当に戦争が起こるって言うなら話は別ッスが、そういうことは国境に近い地域から着手するもんッス」
「無駄な事業に金をかける。癒着は考えられますね」
だが、そこにひまりが口をはさむ。
「先ほど関所のある丘で五区砦を見下ろした時に思ったのでござるが、何かがおかしいでござる。これは何か大掛かりな儀式でも行おうとしているのではござらんか?」
「大掛かりな儀式、なのです?」
「然様。この五区砦の形状はどこか妙な形をしているように思えるでござる。空、アレット。できれば今回の護衛の任務、終わったらすぐに書物店に向かいとうござる」
「はい。ひまりの考えていることと関係があるのなら、拒む理由はありません」
レッドフォート州、東区を抜け中央区。
道中、州民の誰もが生きる気力を失っている。あるいは商店街では主に旅人や観光客を狙って物を売ろうとしている商売人たちの必死な声が飛び交っている。観光客たちは、そんな自分たちの金を狙ってばかりの商売に嫌悪感を抱いてか目も向けずに通り過ぎてゆく。中には「最低ランクの宿も高ぇな。去年はこんなんじゃなかったのに」「野宿すっか」という声まで聞かれた。
中央区『州立商業組合・第一物流センター』にてキャラバンの納品が完了、更にアッシュランド州へ輸送する荷物を積んで輸送費を受け取り、新たに護衛を雇って来た道を帰る。護衛の中にはここまで同行してきた冒険者もおり、彼らは往復で稼ごうとしているようだ。
「ありがとうな、嬢ちゃんたち。縁があったらまた護衛任務を頼みたい」
マックスは賃金を手渡しながら空たちに言った。
「その際は是非。こちらこそ、お世話になりました」
その夜。
レッドフォート州五区砦南区、旅館『サザントラベラーズハウス』。
空いている中で一番安い部屋を取った一同は、それぞれに集めた情報を持ち寄り整理する。
「拙者が中央区書物店『レッドフォート中央書店』で買ってきた最新の地図にござる。五区砦はこの町の中央『美少年神ガニメデの象と聖なる泉』を中心として、円状にキレイに歪みなく建造されてござる。そして方位磁針のズレもなく北側に円柱状のやぐらが、それを起点として北東、南東、南西、北西に、すべてのやぐらを線で結べば『五芒星』の形になるように道路が張り巡らされてござる」
「うーむ。面白い形の防壁と道路ッスね。動脈となるメインストリートは中央を中心に放射状に展開させるのがセオリー。だのにこんな星形のメインストリート、しかも綺麗な直線で歪みもない。砦の設計者の美観と言うかこだわりと言えばそれまでッスが、設計者は何を考えてたんッスか」
「拙者が思うに、これは『陰陽術』にござる」
「おんみょー、じゅちゅ?」
最後、アレットが噛んで一同は一瞬気まずくなる。
「……さ、然様。陰陽術とはいわば『東洋版魔術』とも言えようもので、大岑帝国より大倭皇国に伝わった呪術や占術などを独自の形態に編成し直した術であり学問にござる。占いとしては目に見えぬものを可視化しあるいは探り当て、風水を用いて方角の吉凶を占い、戦いとしては『火水木金土の五要素』を用い、あるいは土くれゴーレムのように紙切れで作り上げた『式神』を兵力として駆使し……、などなど、魔術に近けれど魔術とは根本から異なる存在にござる。拙者も陰陽術には詳しくはないのでござるが、陰陽術は『五つの要素』による反応で様々な効果をもたらすようでござる。その基本の陣形が、この星形の陣、五芒星にござる」
「ほうほう。で、この五芒星はどんなことができるんッスか?」
「申し訳ござらぬが、先述の通り拙者は陰陽術に疎うござる。しかし五つの原理を用いる学問はどうやら陰陽術のみではないようで。ここから先は、空、ピエリーナ、よろしくお願い申す」
空は丸めた紙を広げた。そこには円と線で描かれた、まさしく五区砦の地図のような線が描かれ、その外側にはさらなる三角のマークが五角形を、そしてその五つの三角マークを円形に結ぶように描くように展開されていた。
「これは、現在建設されているやぐらの建造状況と向きと位置を、各地の工事を受け持っている建設事業者から聞いてきたものです。さらに円形の『弓兵隊・弩砲隊攻防砦』も建設されているようで、やぐらの位置を結べば逆五角形の陣を敷いているようにも思えます。これは何を意味するのでしょう。まるで今から悪魔でも呼び出す闇の儀式を行おうとしているとしか思えません」
「空? その知識はどこから?」
「陸軍の兵士がそんな感じのコミックを読んでいました。もちろんフィクションです」
「だろーな。ったく、アルミスの兵隊さんらも暇ッスねえ。ピエリーナの見解はどうッスか?」
「はいなのです。これはとても基本的な魔術式なのです。ただし周囲に複雑で精密な魔術式を書き添えられたものなのです」
「どういうことッスか?」
「おそらくこの町の地下から地下水を汲み上げているのです。町の中央にある聖なる泉には巨大ポンプが埋め込まれていて、そこから五方向に分岐するまっすぐな水路に水を供給することで五区砦に暮らす人々の生活用水の水源になっているのです。大型の水汲みポンプを常時稼働させるには超大型魔導ソレノイドでしかなしえず、そのアークルの源泉はこの町に暮らすすべての人々。つまり水源を維持するには私たちから少しずつアークルを収集することでポンプを動かし続ける必要があり、この町全体に張り巡らされた円と線の意味こそ、この円形の防壁、五か所のやぐら、星形のメインストリートと放射状の水路、それらの方角なのです」
「そういうことッスか。つまりこの町の道路や水路は魔導ソレノイドを動かすためだけに五区砦建立の際に魔術式としてデザインされたものであり、今回の領主代替わりに際して建造を進めている新たなるやぐらに関しては、この魔術式を悪用しようとたくらむ何者かの仕業、と考えるのが妥当ッスね。ピエリーナ、ここから考えられることは何かないッスか?」
「うーん……。それは、この五つのやぐらを調べないことには何ともなのです。ただ人々からアークルを集める魔術式を悪用しようとすることは、水源に使うソレノイドを動かすために必要なエネルギーを用いた何かを発動させようとしていると言うこととも考えられるのです。それが何なのか、今は分からないのです」
「では決まりッスね」
「何がなのです?」
「これ以上、無駄な税金を徴収させないことが先決。この五つのやぐらで何をたくらもうとしているのかは、首謀者をとっちめたあとに吐かせればいいだけのことッス」
探偵にとって真実は重要である。だが真実よりもそこに暮らす人々の生活が優先されるなら、そんなものは推理で解くのではなく首謀者に吐かせ、人々を脅かす禍根を滅することを優先すべきである。
この五区砦の地形と防衛建設に関しての関係性はある程度読み解けた。
あとはその首謀者へのアクセスだが。
「それはわたしに任せてください」
「空? 何か考えがあるんッスか?」
「はい。冒険者としてではなく、陸軍中尉相当非常駐兵としての立場を使わせていただきます。それに際し、皆さんにお願いがあります」
「お願いッスか?」
「はい」
その願いとは。
「……わっ、わたしの食い扶持まで稼いできてくれませんか? 借金と言うことで、後日お返ししますので」
「水臭ぇこと言うなッスよ!」




