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第一章 武人と探偵 ~賞金首をさらし首にって……~

 冒険者として活動してから三日。

 空が自分で稼いだ金で屋台の料理を楽しんでいると、保安庁諮問探偵のアレットが声をかけてきた。

「空氏ぃ! 聞いたッスよ、冒険者始めたんッスよね? しかもいきなり『賞金首をさらし首にした』とか」

「……なるほど、面白い冗談です」

 しかしその目は冷ややかであった。

「面白いって顔してねえッス!? まあそれはさておき、せっかくの少尉待遇を蹴って不安定な冒険者になるとか、何か夢でもあるんッスか?」

「夢、ですか……? いえ、どうでしょう。これが夢と言えるかどうかはさておき、まずは冒険者としての報酬で買った串焼きです。アレットもどうぞ」

「うおおお! ごちそうになるッス! ここの串焼き美味いんッスよねえ! あーんぐ!」

 大口を開けて食らいつき味わうアレットに、串焼きの主人も「相変わらずいい食いっぷりだねえ、うれしいよ!」と笑う。

「そうでした。夢と言えるかは分かりませんが、記憶喪失のわたしは、この世界を見て回ろうと思います。だから手っ取り早く金を稼いで旅費にする、あるいは護衛任務など移動必須のクエストを探してはいるのですけれど、信頼度、すなわちランクが足りていないので、今のところは新人向けしか任せていただけません。なので数で稼ぐつもりです」

「そうッスね。千里の道も一歩よりッスよ。そうッス。お値段いかほどで?」

「あ、いえ、結構です。この前のお礼を兼ねた、わたしのおごりですので。もし支払ってくださるのであれば、よい武器屋を紹介してくれればうれしく思います」


 冒険者御用達武器屋『ジークフリート』。

 神話の英雄の名を冠しているだけあり、品ぞろえも武器のメンテナンスも一級品。なんでもアレットは、セントラル滞在中はここで拳銃の整備をしてもらっているのだとか。

「マイスター。お客さん連れてきたッスよー」

「おう、探偵ボウズ。誰でえ、そこのひょろっこいのは?」

 カウンターで別の客の受付をしていた人物は、禿げ頭どころか髭まで焼け焦げてなくなっている(だがゴーグルをしているため、睫と一部の眉だけは残っている)筋肉隆々の大男。むき出しの両手両腕には、鍛冶仕事をしてできたと思われる多数のやけどの跡がある。

「マイスター、こう見えてこの子めっぽー強いッスよ。冒険者としては新人ッスが、自分と肩を並べて脱走犯を薙ぎ払ったり、冒険者デビュー初日で賞金首をさらし首に、ってそれはさっき寒いって言われたッスね。そのくらいの実力はある期待の新人ッス。いい武器を見繕ってほしいんッスよ」

「分かった、こちらのお客さんの後でな」

 いかつい外見と言葉遣いに反して紳士的だ。

 空が希望したのは槍。マイスターは空に「両手を左右に広げて」と言って彼女の体格を観察したのち、漆黒の輝きを放つ一本の槍を手にした。

「嬢ちゃんの体格に合う、それでいて上等な武器となると、これ『穿雲(せんうん)』だな。意味は、天空に漂う雲すら一突きで大穴を開けるもの。軽さと耐久性を両立させた、俺様自慢の一品だ。ちなみに素材と製法は秘密だ」

「分かっています。武術にも秘伝はありますので」

「いいねぇ。よし、細かい採寸だ。調整する、今度は体を計らせてくれ。その前に武器の会計だな」

「手持ちはこれで全部です」

 そして空は会計のためにカウンターに赴くのだが。

「あれ? 調整代を加算していないようですが」

「新人冒険者のための初回サービスってやつだ。おやつどきに取りに来な。その時に最終微調整だ」

 その後は再び薬草採収などの簡単なクエストをこなして金を稼ぎ、屋台でトウモロコシの炭火焼きを味わうのだった。


 ジークフリード、カウンター。

「どうだ、触った感じは?」

 マイスターに槍を手渡され、空はひとつうなずいた。

「とてもいい感じです。店の前で振り回しても構いませんか?」

「ああ。ちょっと待ちな、人払いする」

 来客と道行く人に「ちょっと開けてくれ」と言って空が槍を振るう準備を整える。そして空は何度か槍を振り回したのち、ある一点で立ち止まった。

 ――振り回した感じ、まるで元から使い慣れた武器のようにすごくなじむ。サンティーエの盗賊崩れの武器とは比べ物にならない。……穿雲。これならわたしの戦い方にもついてこられるはず!

 そして空が始めたのは、八極拳の『八極小架(はっきょくしょうか)』の套路。本来ならそれは武器を持たずにするものだが、空は槍の柄の中央を持ってそれを始めた。

 八極拳はもともと槍術を発祥としており、槍術『六合大槍(ろくごうたいそう)』とともに発展してきた。八極拳の戦法における突きや肘撃ちなどの攻撃を槍の穂先や柄頭で代用することもまた可能である。

 一度套路を通し、空は槍の柄の中央を両手で持った状態で直立。まるで民族舞踊のような美しい振る舞いに、道行く人々は感激のあまり拍手で称える。しかしアレットとマイスターは全く違う見方をしていた。

 ――武器を手にする舞踊は確かにあるにはあるッスが、あれはどう見ても武術による連続攻撃。あの所作のひとつひとつが、確実に敵を沈めるための一撃につながっている。しかもひとつの技の中に複数の使い方がある。八極拳。この武術を編み出した人、何者ッスかね。

 ――おいアレット。おめえさん、なかなかすげえ新人を発掘してきやがったじゃねえか。ただでさえ強いこいつが今後どう化けるのか、今から楽しみだ。

 だが。

 空が「お騒がせしました」とぺこぺこお辞儀しているところ、ひとりの大男が人垣を割って空の前に出た。

「おい、このクソガキ。あまり調子に乗ってんじゃねえぞ」

「はい? 調子ですか?」

「おうよ。このレアガルド王国No.1の槍使い『剛槍のゴールドメイル』を差し置いて、新人冒険者がイキリ倒してんじゃねえ。表通りに出ろ。俺様と決闘だ。いや、身の程の違いってやつを分からせてやる!」

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