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エピローグ 夜の帳 ~そして旅は続きます。~

 アルケモート旅立ちの夜。

 キャンプ地。

 空とアレットが蒸気駆動車の蒸気機関に設置した鉄板で料理をしていると、ハーブティーを飲みながらロウソクの火を頼りに読書をするひまりにピエリーナが尋ねた。

「ひまりさん。それは何なのです?」

「これでござるか? これは各地のジグラスに保管されていた『レアガルド伝記』という書物にござる。実はマグからアルケモートの間にあったジグラスは『祈り手』が病に伏せ、それ以降は管理人不在の廃墟になり果てたのでござる。そこで、そのジグラスのある町『グリッド』の町長のご厚意でこの本を譲り受けたのでござるよ」

 そのグリッドでは、ついでに町長直々のクエストとしてレアガルド伝記以外の書物を町立図書館に運搬する仕事を請け負っていた。おかげでひまりたちは、護衛任務レベルの報酬を得ることができた。

「そうなのですね。それはどんな本なのですか? いわゆる聖書のようなものなのでしょうか?」

「それに近いものかもしれぬでござるな。もっとも聖書とはシュトラルラント王国を総本山とする『聖シュトラル創世教』に関する書物を主に指すため、正しくは聖書ではござらんが、これもエンシェントエイゼルンサーガ版聖書と言い換えることもできるかもしれぬ。前に空とアレットにも拙者なりの考察を述べたのでござるが、物語形式のこの書物は、ある悪意を持った権力者が国を掌握せんと暗躍していることを暗示する黙示録ではないかと考えてござる」

「悪意を持った権力者……。まるでアルケモートのナントカ組合やカリオストロ協会みたいなのです」

「そうでござるな。だがこれが書かれたのは遥か昔。今は考古学の資料として、またただの御伽話として、この書物を読んでいるのでござる」

「そうなのですね。ひまりさん、よろしければあとでレアガルド伝記を読ませていただきたいのです!」

「構わないでござるよ。……さて、ふたりの料理もそろそろできることでござろう。本は食後に読むとよかろう」

「ありがとうなのです!」

 この日の料理は、乾燥させた肉と野菜を煮込んだスープ。塩を加えずとも食肉保存用の塩のおかげで味はついている。数種類のハーブを混ぜているがその中に紅茶の葉もあり、「とてもおいしい!」と全員の好評を得た。

 食後の片づけはひまりとピエリーナとなる。すると、アレットはメモ帳を取り出して何かを書き始めた。

「アレット、何をしているのですか?」

「いやね? 晩ご飯作りながらひまりたちの会話を聞いていて、自分も久しぶりにラノベを書きたくなったんッス。題は『八拳演義(はっけんえんぎ) - A Saga of the Sky-Color Warrior Girl』。ひまりが読んでいるレアガルド伝記をモチーフにした、記憶喪失の少女の英雄譚にするつもりッス」

「わたしがそのラノベの主人公なのですか? でも、空色の戦士とはどういう意味なのでしょうか」

「以前ひまりが述べた『八』には別の意味があるのを思い出したんッス。八の字をジンクスとしている大岑帝国には『八紘一宇(はっこういちう)』という言葉があり、それは『あまねく世界』を意味し、八紘一宇の『宇』は、宇宙、空、果てしないところを意味するらしいッス。そして『記憶喪失である空の心は澄んだ青空のように空っぽのようで、実は夜空に輝く星々のように美しいもので満ち溢れている。それこそ天空のように』。……そんな感じがするんッス」

「わたしの、心……?」

「そッス。これから自分が書く物語は、空が感じた美しいものを記録するもの、そしてこれから空が自分らと一緒に苦難を乗り越えてゆく、そんな冒険の物語にしていきたいんッス」

「そう、ですか……」

 しばし考え込む空だが、メモ帳を閉じてアレットが尋ねる。

「やっぱ、ダメッスかね?」

「そうではありません。アレットにそんな風に評していただけるとは思いませんでしたし、わたしなどがアレットの小説の主人公でよいものかと思いまして」

「いいに決まってるッス。なんかワクワクしてくるんッスよ。旅の仲間である空がモデルの主人公の物語を書くのって、自分が著者でありながら第一の読者にもなれる、そんな気がして」

「そうですか。ではアレットの執筆のお役に立てるよう、これからたくさんの美しいものを見ていきましょう」

「そッスね。よろしく頼むッス!」

 夜の締めくくりは、焚き火で熱した清酒を使い捨ての紙コップに淹れて晩酌を楽しむ。つまみは、スープにも使った塩抜き干し肉。ピエリーナは酒をあまり飲まないのか、甘辛い清酒の風味に頭を抱えつつおいしいと評し、その様子にひまりは微笑む。

「さて、見張りは拙者に任せて、皆は寝るでござる」

「はい。それではおやすみなさい。皆さん、よい夜を」

「おやすみッス」

「おやすみなさいなのです!」

 空たちはテントに潜って毛布をかぶる。

 重ねて焚き火にされた紙コップが勢いよく燃え、ひまりは焚き火が爆ぜる音を聞きながら本を読む。

 穏やかな夜が過ぎてゆく。

 いつの間にか焚き火の火が弱くなっても、満天の空に輝く星たちが地上を照らす。

「美しき星空にござるな。まるで物語の一幕のようでござる」


 『八拳演義 - A Saga of the Sky-Color Warrior Girl』。

 英雄譚はまだ序盤。

 そして、旅は続いてゆく。


   ――――――――――――――――――――――――


 八拳演義 - A Saga of the Sky-Color Warrior Girl 邂逅の物語

 THE END.

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