第六章 踊銃使いの錬金術師 ~まずは魔法と魔術と錬金術の違いを勉強しましょう。~
その言葉に、誰もが「?」となった。
「何ん、ッスか、それ?」
「はい。カポエラは遠い国の武術で、ダンスのように軽やかに舞い、『テコンドー』や『カラリパヤット』のように蹴り技を多く使う武術なのです。そしてガン=カタは、演劇のために編み出された拳銃を使った武術なのです」
その時、賓客室のドアが開いた。
「そう。とある劇団が『舞台でもっとド派手な演出ができねえか?』って編み出した演出であり武術だ。しかもただ派手なだけじゃねえ、説得力を持たせるために本当に戦えるように作りこまれた、れっきとした武術だ」
そこにいたのは、黒い肌に太い唇、鋭い目、ドレッドヘアー、鎧のような筋力とカノン砲のように膨らんだ腹部を持つ巨漢であった。
「師匠!」
ピエリーナが師匠と呼ぶその男性こそ、舞台に向かって小豆球を投げていたアシスタントであった。
「待たせたな、ピエリーナ。ちょっとほかの観客と話し込んで、帰ってくるのが遅くなっちまった。……お嬢ちゃんたち。オレはここの会社の取引相手で、ピエリーナに武術をかじらせてる、『ジェフリー・プレストン』だ。よろしくな」
空たちはすっくとソファーを立つが、ジェフリーは「そのままでいい」と座らせ、自らも買ってきた瓶ビールの栓を素手で開けてあおる。
「……手、痛くないんッスかね?」
「鍛えているのでござろう」
「そういう問題でしょうか」
するとジェフリーは、ビールを飲みながら空たちに尋ねた。
「ところでおめえさんらは、この錬金術の町に何しに来たんでえ? 観光か?」
「はい、それもあります。目的は主に三つ。この国全てのジグラスを巡り、多くの町のグルメを味わい、記憶喪失であるわたしの過去を探すことです。わたしは、自分の名前と武術の流派しか覚えていませんでしたから」
「ほう、やはり旅をしてるだけあって戦えんのかい。こりゃおもしれえ。その武術に興味がねえこともねえが、観光するならやっぱ錬金術工房だ。この会社も錬金術の道具や商品を取り扱ってる。企業秘密のところ以外は心行くまで見学していきゃいいい。社長にゃあオレから頼んどく。どうでえ?」
「はい。よろしくお願いいたします」
こうして、観光という名の会社見学が始まった。
案内役はピエリーナが立候補した。
まずは錬金術に関する講義から始まる。
「そもそも錬金術とは、『アークル』と呼ばれるすべての生命体が持つ『命のエネルギー』を使う技術のことなのです。
ざっくり魔法と魔術と錬金術の違いを説明するのですけれど、魔法は『精霊種』や『魔族』、ほかにはアークルを操る素質を持つ人間が、願いや祈りなどで引き起こす『現象』のことなのです。魔術はアークルを使って現象を引き起こすところまでは同じで、現象を起こすまでの工程を祈りや願いではなく『魔術式』や『魔法陣』にすることで瞬時に行使することができるのです。錬金術は魔法や魔術よりも科学に近く、魔法や魔術が現象を起こすのに対して、錬金術は『物質の状態を変化させる、モノを作り出す』ことに特化しているのです」
「……なるほど、理解しました。魔法、魔術、錬金術が、そこまで明確に区別されているとは、わたしはそれらに対して無学である言ことを今思い知らされました」
「普通の人にとっては、錬金術の道具もまた使えればいい程度のものなのです。でもそれは仕方のない事でもあるって、お父さんは言うのです。さて、お父さんの会社が作っているものをお見せするのです!」
錬金術に必要なものは、一般的なものでは一・五から二キュビトほどの大きさのガラス製の窯『錬金釜/錬成炉』。魔法陣ないし魔術式が刻まれたリアクターに素材を入れ、手順通りにアークルを流し込むことで錬金術を行使することができる。
先述の通り、株式会社アーラ・ビアンコでは各種の靴を製造して販売、時に調整もしている。トゥーシューズに関しては、アーラ・ビアンコの錬金術を爪先でステージの上に立つために必要な『トゥー』の強化に極秘の技術として使っており、ほかにもシューズを履いて踊る際に足を傷めないための工夫がいくつも施されている。それらのシューズはキッズバレエ教室のみならず、アルケモート周辺の劇団や教室から高評されている。
そのほかの錬金術製品だが、紳士婦人用の靴の靴底補修材や中敷きの素材、撥水やダメージ軽減加工を施した布素材、暗い夜でもアークルの供給で光る発光焼き印のコテと塗料(焼き印と言いつつ焼いていない)、舞台や普段に使える高撥水性傘、靴用消臭剤、水虫薬など、様々な商品を販売している。
「なるほど。商品は靴だけではないと言うことですね」
「はいなのです! ほかにも、オーダーメイドの靴や傘や舞台の小道具を作ることもあるのです!」
会社を一通り見学させてもらった空たちは、翌日からもほかの錬金術工房を見学できるツアーに参加し、時にはアーラ・ビアンコの接客や素材調合の依頼を受けたりもした。しかも錬金術の仕事は護衛任務に匹敵するほど給料が高く、「本当にこんな平和な仕事で高給を手にしていいのか」と空たち全員が戦慄する。




