第六章 踊銃使いの錬金術師 ~いじめを見過ごすことはできません。~
食後。
「さあて、まだ昼過ぎッス。冒険者ギルドでも探すッスか? それとも今日はこのまま宿に直行するッス?」
「冒険者ギルドに行こうと思います。この前倒した暴徒の荷物の買い取りと、そこから彼らのことが分かるものがあれば討伐報告をしなければいけませんから」
「そうッスね。討伐達成報酬は、マグのヤカに全額でいいッスか?」
「一割……、いえ、五分は頂きたいです。さすがに旅荷物については恨んでいますので」
「交渉してみるッス。んじゃ、ひまりがよければ冒険者ギルドに行こうと思うッスが」
「異存はござらぬ。善は急げと申す、出発いたそう」
そして三人は停めていた車に向かうのだが。
「ん?」
空が、何かに気付いた。
「空?」
「……騒がしい声がします。それも女性の声です」
空はそう言って、先程のクラヴィアのわきにある裏通りに向かう。
裏通りは薄暗く、木箱や樽などが雑然と置かれている。騒々しさに嫌気がさしたのか、まるっと太った猫が出てきた。そしてその先を見やれば、カウボーイハットの少女ピエリーナが、バレエの白い衣装をまとった少女たちに囲まれていた。
「ねえ。最近調子こいてるこいつの服さあ、切り裂いて表通りに放り投げちゃう?」
「さすがに裸じゃ表に出られないよねえ」
「ホント、せっかくバレエ教室から追い出したってのに今度はカウボーイとか、マジで目障りなんですけど~」
「あんたが悪いのよ。アタシたちより次のステージでのお客さんの反応よすぎるから」
「笑われちゃえばよかったのに、ね~え?」
「ホントホント! だからさあ、もうこの店のステージに立てないようにしてあげる!」
そして少女のうちのひとりが、衣装の中から折り畳みナイフを取り出した。大人が葉巻煙草を整えるための物だ。
だが、ピエリーナは涼しい顔をしている。
「そんなので私の服が切り裂けるなら、やってみたらいいのです。絶対に出来っこないのです~」
「ふっざけんな、このぶりっ子!」
「どうとでも言うのです、腹黒お嬢様」
「もー許さない! あんたなんか!」
ナイフを持つ少女がピエリーナのドレスシャツの襟をつかんで吊り上げ、その首元に刃を突き付けるのだが。
「そこまでです」
その刃を、空が右手三本の指でつまんでいた。
「なっ!?」
「あっ! カウンターのお姉さんなのです!」
ピエリーナは、薄暗い客席の中にいた客のひとりである空を覚えていたようだ。
「それがケンカだとしても、人を辱め、ましてや刃物を持ち出し傷つけようとすることを看過することはできません。今なら見逃します。この子に今のような仕打ちを二度としないと誓ってください」
「なによ! あんたに関係ないじゃない!」
「見てしまった以上は関係者です。もう一度言います。先ほどの仕打ちはしないと誓ってください」
少女はナイフを引こうとするが、空の右手はびくともせず空の指からナイフの剣身が抜ける気配もない。
「強い……!」
「修行中の身ではありますが、あなたとは功夫が違います」
「だーっ! 分かったわよ! 分かったから! マルゲリータにはもう手を出さない! だからその手を放しなさいよ!」
すると空は無言でナイフを放した。それまでずっと力任せに引き抜こうとしていた少女は、そのせいで背後に吹っ飛んでしりもちをついた。
「大丈夫!?」
「ロッソ、平気!?」
「ネロ、手ぇ貸して! ……マルゲリータ、そこのあんたも、絶対に許さないんだから!」
そしてバレエの少女たちは、クラヴィアの裏口へと逃げてゆく。そして静寂が戻った路地裏に、アレットとひまりが姿を見せた。
「えーっと、どこかでお茶にし直すッスか?」
「事情は聞かせていただきとうござるからな」




