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第六章 踊銃使いの錬金術師 ~両手でパン! なのです。~

 アルミス州最北端の町、『アルケモート』

 錬金術(Alchemy)と砦(Fort)を合わせたもので、その名の通り錬金術研究が盛んな町である。そのためアルケモート周辺に広がる畑では、農作物のほかには錬金術の素材となる薬草や香草などが多く育てられている。

 防壁の南門ではそれぞれが身分証を提示する。門をくぐれば『薬剤系が得意な錬金術師募集中! 手当もあります!』と求人広告が張り出されていた。

「ところでこの中に錬金術の心得のある人、いるッスか?」

 アレットの尋ねに、空もひまりも横に首を振る」

「心得があった方がよいのでしょうか」

「そうッスね、道端に生えている草を『姑息性(その場しのぎ)ポーション』に錬成することが可能かもしれないッス。もっとも、それを他人に使うには錬金術師ライセンスが必要ッスが」

「では旅の途中でケガや病気をしたら危険ですね」

「探偵が言うのも問題ッスが、悪事はバレなきゃいいんッス。もちろん人に害をなす悪事は許すまじッスが、仲間の命がかかってるって時に資格もへったくれもあるかって話ッスからね。まあそうならないためにも、旅の荷物にポーションのたぐい、応急処置の心得は必要ッス」

「確かに、そうですね」

「おっ! あそこで腹ごしらえッス!」

 道端に車を停め、訪れたのは『ライブ居酒屋クラヴィア』。居酒屋と言いつつ昼間はアルコールの販売はしておらず、食事としてのメニューが豊富で、店の奥にはライブステージがある。ちょうど、近くの『キッズバレエ教室・白鳥の舞い』がバレエを披露していた。

「おー! こんな居酒屋があるんッスねえ!」

「ヤマトにもこのような店はござる。もっとも舞台付きの居酒屋ではなく、茶と茶菓子を口にしながら見る舞踊などでござるが」

「へぇ。じゃあ、ヤマト出身のひまりにはうってつけの店ッスかね?」

「共通点はあるでござろうなあ。まずは何か頂くと致そう」

 ライブを楽しむために、ソーセージや新鮮野菜のサラダなど食べる際に音が鳴る料理は提供されていない。パンや肉料理、野菜スープなどを食事として味わいながら、客たちはバレエを楽しむ。中にはバレエの音楽(音源はレコード盤)を聴きながらコーヒーを飲みつつ書類仕事を片付ける男性もいる。店の楽しみ方は人それぞれだ。

 キッズバレエ教室のプログラムの後、空やアレットと同じ年頃のひとりの少女がステージに立った。それは先程のバレエの衣装とは大きく異なる、カウボーイハット、革のベストに白いドレスシャツ、ジーンズにガンベルトにチャップス(レッグカバー)にブーツと言うもの。ホルスターは左右にあり、二挺拳銃スタイルのようだ。

 少女は言う。

「皆さん、こんにちは~なのですー! これからお披露目いたしますは、タップダンスとシューティングショーなのです。飛んでくる『黒い小豆球(あずきだま)』をよけながら『赤い小豆球』を見事に撃ち落として御覧に入れるのです。それではミュージック、スタートなのです!」

 カウボーイハットを脱いで現れたのは、太陽のように明るい金髪、白くつややかな肌、丸っこい頬にやはり丸い両眼、背丈よりも幼く見える顔。立ち振る舞いや高く鼻にかかった声質やしぐさなどもあり、どうにも幼く見えてしまう。

 アシスタントはドレッドヘアーの大柄な男。ドレッド男が立て続けに小豆を綿の布で包んだボールをステージ上の少女めがけて投げてゆくが、少女はレコードから流れてくる音楽(アコースティックギターによる軽快なメロディーの曲)に合わせて手を振り袖をはためかせ華麗な足さばきでタップダンスを披露しながら、確実に黒い小豆球を回避し赤い小豆球だけをホルスターから抜いた拳銃で撃ち落としてゆく。青い閃光を引き青い光の粒が弾けたことから、実弾ではなく魔力(アークル)を圧縮した『アークルバレット』であることが分かる。

「そう言えばずっと気になっていたのですが、アークルバレットとは何なのですか?」

「そッスね、まずは弾丸の構造から説明するッス。銃弾は『カートリッジ』と呼ばれる形で、主には薬莢、弾丸、火薬、雷管の四つの部品や素材で構成されているんッスが、アークルバレットは薬莢と雷管に『魔術式』が刻み込まれていて、魔術の発動に必要な『魔導クリスタルコア』、通称魔導コアの発動で圧縮された使用者のアークルがエネルギー結晶体となって飛びだしていくんッス。つまり撃つたびに弾丸が消費されることはなく、使用者が力尽きない限り撃ち続けることができる、そんなカートリッジがあの拳銃には装填されてるんッス」

「そうなのですね。ほぼ無限に撃てるとは、優れた弾丸のようです」

「ただ、このショーにも使われていることからわかるとおり、殺傷能力は言うまでもなく低いんッスよね」

「確かに、そうでなければショーにすら使えませんからね」

 愉快なアコースティック音楽に乗せて華麗な振る舞いと拳銃捌きで見事に小豆球を撃ち落としてゆく少女。小豆球も尽きて音楽も終わり、最後はタップダンスしながら両手で拳銃をくるくると回して、両足で「トン!」とステージを軽快に踏み鳴らしながらホルスターに銃を収める。最後は右足を引いて右手を胸の前に添え、左手を広げて首を垂れる。何を取っても華麗な所作に、居酒屋の客たちは拍手喝采を送る。

「いいぞ嬢ちゃん! 俺たちはこう言うのが見てえんだ!」

「見事な銃捌きだったぜ、リトルガンマン!」

「出身はあれかい、『メリクス共和国』かい!? いい腕してるぜ!」

「アークルバレットも星空みたいに綺麗で、素敵だったわよ!」

 そんな客たちに、少女は感謝を述べた。

「ありがとうなのです! 私は『ピエリーナ・マルゲリータ』と言うのです。名前だけでも覚えて帰っていってくださいなのです~!」

 ピエリーナと名乗った少女はもう一度深くお辞儀をして、ハットをかぶって退場してゆく。思わず空、アレット、ひまりも拍手してしまう。

「いやあ、いいもの見せてもらったッスねえ!」

「はい。見事なものでした」

「うむ。どれほどの鍛錬を積んだのでござろう。あっぱれでござる」

 その後も様々なステージが催されたが、この日は子どもや若者の出演者が多かった。常連客らしき男性の説明によれば、プロのダンサーやミュージシャンから趣味でアーティストをしている者まで様々な出演希望者にステージを貸しているらしい。店長も昔ピアニストを目指していたが腕のケガで挫折し、その後はアーティストの支援のためにこの店を開いたのだとか。

 その常連客の説明を聞き、アレットは「だからこの店の名前が『鍵盤(クラヴィア)』なんッスね」と静かにうなずいた。

「そういう経緯があったのですね。素晴らしい店長さんです」

「だろ? 俺の娘も白鳥の舞いの一員でさ、娘の舞台が楽しみなのもあるし、ここで頑張っているアーティストたちを応援したくもあってな、よく来るのさ」

「そうですか。皆さんそれぞれに追いかけているものがあるのですね。わたしも応援したいと思います」

「じゃあ昼飯と晩飯はここで決まりだな」

「旅費が、持ちません。あはははは……」

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