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第四章 刃と魂 ~旅の目的を、ひとつ追加しました。~

 その後。

 冒険者ギルド、独房。

「は? 俺、そんなことしたんですか?」

 パイロットの男は、自分がオールラウンダーゴーレムを暴走させ工業地帯を荒らしまわり三人の少女冒険者に食い止められた事実を、全く覚えていなかった。

「マジかよ……。そうだな。昨晩の記憶は、確か……。そうだ。ゴーレムコアの最終調整が終わったんだった。報告書は明日書けばいいかって思ったら、工場長のやつ、『じゃあ今晩中にまとえておいてね、俺は魚でも食いに行くから』って、まとめるのに一日はかかる書類を全部俺に押し付けて、その時プツンと切れて、そっからの記憶が……」

 パイロットの男に尋問していたこの町の保安官は、頭を抱えて彼に言った。

「昨晩じゃない。三日だ。三日もお前は寝ていたんだ」

「は!?」

「そりゃそうだろう。あのゴーレムに乗ってお前は叫んだんだ、相次ぐ徹夜で限界だとな。お前どれだけ寝ていなかったんだ? それでまともな仕事ができるわけがないだろう」

「そうだな。何日寝てねえんだろうな……?」

「だから今は休んで構わん。お前のしたことは許されることではないが、今のお前の話を聞くに、暴走した時のお前も正常な判断ができない状態にあったんだろう。お前のところの工場長や職員にも話を聞き、どこに、そして誰に非があるのかをきちんと見極めねばならん。分かったら飯食って歯ぁ磨いて風呂に入って休め。ほれ」

 保安官は独房の外を見やる。

 パイロットもそちらを見やると、海鮮丼定食が乗ったトレーを持つひまりの姿があった。ひまりのそばには、空とアレットもいる。

「そう。今は養生するでござるよ」

「……お前は見覚えがある。誰だろう。天使か、女神か?」

「お褒め頂き光栄にござるが、拙者はただの冒険者にござる。さあ、今は御身(おんみ)(いた)わられよ」

 そしてパイロットは、海鮮丼の美味と優しく労わるひまりの言葉に滝のような涙を流して海鮮丼を平らげ、そのまま机に腕枕をして眠ってしまった。


 事件から一週間かけて調査された結果は、このようなものだった。

 まず、パイロットの名前はボルタ。ボルタの従事先は『株式会社パワード』。ボルタは新型建設用ゴーレムのパイロットであるより先に、錬金術師でありゴーレムコアの開発関連の主任でもある。工業高校の成績もトップクラスで卒業し、アークルを巧みに操る素質から錬金術工房でもアルバイトをしていた。入社当時から最新の錬金術の知識を駆使して高性能かつ汎用性の高いゴーレムコアの開発に着手、先のオールラウンドゴーレムにもその最新型が搭載されていた。

 だが会社はボルタの有能さを疎み、上司を含む多くの社員がやる気をなくし、「あいつひとりで何でもできんだろ」と多くの仕事をボルタに押し付けるようになる。だが製品には納期があり、その納期にたったひとりで対応できるはずがない。「ほかのプロジェクトにはまだ余裕がある、オールラウンドゴーレムに人を回してくれ」、そう訴えてもボルタの願いは聞き入れられることはなく、ほかの社員に聞けば「元から利己主義、無神経、無能だった」と評された工場長はついにボルタを人として見なくなった。そして工場長や先輩職員はジグラス清掃要員がこぞって注文するであろう海の幸にありつこうと早々に退社、精神的に限界突破したボルタはついに暴走した。

 これはボルタにすべてを押し付けた会社全体の落ち度であり、特に工場長の無慮の責任は大きい。工場長はどこまでも「私は悪くない!」の一点張りだったが、ボルタの怒りの声に反省した社員たちの反撃に合い、工場長は懲戒免職に追い込まれた。

 今回のボルタの暴走は、株式会社パワードを経営不能に至らしめ、周辺の鉄工所や工場の大損害をもたらした。しかしボルタとその妻子(学生結婚、在学中出産だったらしい)の処分は書類送検とアイアンマウンテンからの永久追放で済み、株式会社パワードは持てるすべての資産を売り払って損害賠償に当てることに。社長のグレン・パワードは今回のことを謝罪し、自らの財産の一部を慰謝料を兼ねたボルタの再出発のための資金として提供し、残る財産を売却して会社ともども破産手続きをするらしい。グレンはその後、冒険者ギルドをはじめとする各所に「工場長の部下に対する非道は許しがたく、彼を雇い続けた私にこそ責任がある。申し訳なかった」と頭を下げて回った。

 ところで人的被害だが、事故発生時刻が夜ということもあって死者はゼロ。被害者は、避難の際の軽傷者が数人と、心身ともに追い込まれたボルタであろう。


 事故発生から八日。

「さて、この一週間は復興支援に駆り出されたおかげでたんまり稼げたッスが、肉料理は手抜きのあまり下処理もされない結構不味いものばかりだったッス。次の町ではおいしいものたんまり食うッスよ!」

「はい。新たなる美味を求めて旅立ちましょう」

 蒸気駆動車に旅荷物を載せる空とアレット。そしてほかの冒険者と共にひまりも旅立とうとするのだが。

「ひまり。よかったら次の町まで送るッスよ?」

「えっ? だが、拙者はこれから北に向かおうと思ったのでござるが、貴殿らの行く先は東ではござらぬか?」

「ん~、最初から自分らの目的は世界を見て回って美味いものを食うだけの旅ッスから。あぁあと、記憶喪失の空の過去を探す旅でもあるッスね。だから東に行っても北に行っても新しい景色と美味に出会えればそれでいいんッスよ。だから、ほら」

 アレットは親指で後部座席を指し、乗れと促す。

 ひまりも意地を張る理由がない。ひとつ頷いてアレットに返す。

「かたじけのうござる。よろしくお頼み申す」

「んッス。で、北にもジグラスはあるんッスか?」

「然様。実はあと七か所でジグラス巡りも終わりでござる。……提案したいのでござるが、アレットたちにも拙者の旅につてきていただき、ジグラス巡りが終われば貴殿らの旅に拙者が同行する、と言うのはどうでござろう。無論、燃料代その他諸々は出すでござる」

「いいッスね。空、どうッスか?」

 助手席の空も、笑顔で頷く。

「そうですね。レアガルド伝記とわたしの過去につながりがあるかもしれないと言うことも分かったので、そのジグラス巡り、わたしからも同行をお願いいたします」

「そうか。心より感謝申し上げる」

 ひまりが乗り込むと、アレットは蒸気駆動車のアクセルを踏む。

 目指すは北方の町。さて、どのようなグルメと冒険が待っているのだろう。

 そして、レアガルド伝記と空の関係は本当にひまりの空想でカタがついてしまうのだろうか。


 世界は謎に満ちている。それを解き明かすのも、旅の楽しみなのだ。

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