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第三章 暗躍の赤蠍 ~陸軍で学んだことが何ひとつ通用しません……~

 会議室には、猟師の大男ガンズが呼ばれた。

「ガンズだ」

 寡黙な男のようで口数は少ないなんてものではない。彼のプロフィールを埋めるためにも、アースが詳細を述べる。

「彼はハンターでな。ハンターと言っても冒険者ギルドに登録しているわけではなく、狩猟資格を持つ食料採集者だ。こやつは子どもの頃から野を駆け回り虫や動物を捕まえるのが得意でな、ハンターとして食用獣を数多く狩ってきた。こやつならば我が村の案内役に最適じゃろう」

 そして空はガンズに、敬礼と共に言う。

「わたしは呉空。今回、この村の防衛に関する提言をさせていただいた者です。よろしくお願いいたします」

「うむ」

「早速ですが、村長に頂いた地図をもとにこのような布陣してみました。まず作戦ですが……」

「うむ。定石通り練られているがそれはここでは通用しないな。奴らは食料を求めておきながら平然と麦畑を踏み荒らしてくる。誘導ルートは使えない」

「であれば作戦の練り直しです。相手がミリタリーバギーを使うのであればパンクさせる手は使えませんか?」

「クワやスキを地面に隠しておくことでできそうだが、鋭利に研ぎなおすには時間がかかる。待て、考えてみろ? 嬢ちゃんの作戦は全て陸軍仕込みで陸軍の装備が用意されてはじめて可能となるものばかりだ。作戦そのものは悪くないが、ここにはそんな装備が無いな」

「であれば、この村にある農具で使えそうなものが無いか見て回るのが先でしょうか。そうでなければロープなど原始的なもので設置可能なトラップを数多く仕掛けるか。……そうです、トリカブトはありますか?」

「ああ、トリカブトじゃないが、毒草や毒キノコならそこら中にいくらでも生えてる。まさか」

「あと一度。あと一度だけ食料をあきらめてください。この作戦がうまくいけば、アレットに配給の要請をお願いします」

「……分かった。戦うのが嫌なギルドのやつらも、食料運搬ならやってくれるだろう」

 食料をあきらめろと言い出した空に男たちは何を言い出すんだと憤慨しかけるが、そうなる前にアレットが食い止めた。

「盗賊団がこの村から奪ってゆく食料の中に、大量の毒草を紛れ込ませるんッス。持ち帰った食料を口にした盗賊たちは一気に食中毒を起こし、最悪死亡。死を免れたとしても動けないうちに敵陣に乗り込んで殲滅。それが」

「はい。武器も罠もない状態でできる唯一の作戦かと」

「だが食料はもう倉庫にあるだけだ。それを明け渡してしまえば、もうその先の食糧はなくなってしまうな」

「作戦立案者として、盗賊殲滅、食糧事情解決までは、わたしもこの村に残って皆さんと寝食を共にします。殲滅作戦成功後、さっきの通りアレットだけはギルドに向かわせてください」

 こうして、戦うのではなく食中毒で盗賊団を殲滅させる作戦が実行された。手始めに男たちは、食材と間違えやすい毒草や毒キノコなどを採取し、食用にするために乾燥させてゆく。

 こうして作戦が進む中でも、空もアレットも警戒を怠らない。

「……空」

「ええ、アレット。『例の作戦』、頼みました」


 二日後。

 山に続く道から、数台の軍事バギーが現れた。

 『火の見やぐら』に上った女性が、オレンジと緑の旗を大きく振って盗賊団の襲来を告げる。

 村長のアースは、「いよいよじゃな……」と小さくつぶやく。そんな彼に、猟師のガンズが言う。

「彼女たちを信じましょう。今、俺たちにできることは何もない」

「そうじゃな。あの子たちが来なければどのみちこの村はこれからも奴らに搾取され続ける。お前たちの反撃が無駄に終われば村は滅ぶ。託そう、あの子らに」

 盗賊団レッドスコーピオンの装備は、軍事バギーが二台、そのうちの一台がけん引する貨物車、十五人ほどの人数に、手には剣や湾刀やリボルバーのピストルと言ったもの。バギーにはガトリングガンが搭載されている。

 倉庫の屋根裏部屋に隠れている空は、換気口から覗いて頷いた。

「事前に聞いていた装備と相違ありませんね」

「さて、あとはこの村の男衆が一切動じず動いてくれればいいんッスけどね」

「敵を欺くにはまず味方から。もとより戦う覚悟はできていたはず。村の皆さまには申し訳ありませんが、彼らにも戦ってもらわなければ勝ち目はありません」

「そッスね。さて、戦闘開始ッス!」

 バギーから降りてきた盗賊団一味。その団長である髭面の巨漢バンブーが、村長に言った。

「よーし、男たちはそろってるな。男たちに食料を積み込ませろ。麦粒一つ残すんじゃねえぞ」

「へっ、へぇ……」

 アースの指示で村の男たちは倉庫に集められた食料をバギー後方の貨物車に載せてゆき、盗賊たちは武器を構えて監視する。その間、村のあちこちから女性や子供たちがその様子をただ黙って見つめていた。

「はっ! 前はクソガキどもが威勢よく反抗してきたもんだが、ちょっと撫でてやりゃすっかり大人しくなっちまいやがって。俺たちは徴税屋かっつーの」

「違えねえ! ぎゃははは!」

 盗賊たちは冗談を言って笑い合うが、村の男たちは歯を嚙みしめて黙って食料を運び出してゆく。

 倉庫が空になったところで、盗賊たちは武器から手を放す。だがバンブーだけは違った。

「おい、村長。今すぐここに七輪と鍋持ってきて、ここでこの食糧でスープ作って食ってみろ」

「なっ、なんじゃと!?」

 毒草混載作戦がバレた。愕然となるアース、動揺する村民たちだが、バンブーはニヤリと笑って更に言った。

「分かってるんだよ。この中に毒草や毒キノコがあって、俺たちを毒殺しようってことがな。バカを働いてくれたもんだ。もうこれらは食い物になんねえ。この村ごと焼き払ってやる」

「そんな……!」

 青褪めるアース。だがバンブーは腰から大剣を抜き、それを振りかぶった。

「まず、てめえから死ね」

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