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第三章 暗躍の赤蠍 ~心身ともに飢えてちゃあ、説得聞く気にもならねえんッスよねえ。~

 アルミス州南西部、アンダーウッド。

 アルミスセントラルとアンカーボルトとを線で結べば、三角形になる位置にある。

「アレット。アンダーウッドとはどのような街なのですか?」

 蒸気駆動車の運転を交代し、空は助手席にかけながら流れてゆく景色を楽しむ。

「そうッスねえ。ぶっちゃけ何もない農村っす。ただ、グルメ好きな空にとっては新鮮な食材を用いた料理が味わえるから、空には気に入ってもらえるかと。まずは2日。それで冒険者としての仕事が得られるかどうか、そしてもっと味わいたいグルメがあるかどうかで、その先の滞在日数を決めるのはどうッスかね?」

「いいと思います。では何から食べましょうか」

「麦の産地ッスからね、パンが味わえるかと。ほかにも酪農家や養鶏場もあるらしいッス、ハンバーガーやホットドッグとか食えるんじゃないッスかね?」


 アンダーウッド集落、中央商店街。

 どういうわけか、どの店も閉まっている。

「本日の営業は終了しました、ってやつッスかね? にしては早すぎるッスね。まだ昼前ッスよ? ……空?」

 車を走らせながらいぶかしがるアレットだが、助手席にかける空は神妙な面持ちで周囲を見渡す。

「アレット、車を止めてください。これはただごとではありません」

「おっ? わ、分かったッス」

 アレットは車を止め、空とともに周囲を見渡す。

 商店街は静か。いや、『静かすぎる』。

「誰もいなくなったゴーストタウン、というわけではありません。確かに人はいます。立てこもっています」

「車を止めると確かに分かるッス。この感じ……、一切客を寄せ付けないと言うよりは、戦いに備えているようにも思えるッスね。それも、防衛戦」

「防衛戦、ですか?」

「そうッス。だいたい農村には碌な戦力はない。できるとしたら防衛のみかと」

「誰から……。まさか」

「近頃、この町に盗賊でも来たんッス。次の目的地、決まったッスよ!」


 村長邸。

 とは言っても、会議室と賓客宿泊室を持つ程度の、民家の二倍の大きさしかないログハウスである。等間隔に木が植えられ、自家菜園用の畑を持ち、外側に木を組んだ策が施されている。

 門番のみならず、農具を持った屈強な男たちが門を守っている。

 アレットが男たちから距離を置いて車を停めるが、男たちの方が車を囲い武器や農具を向けてきた。

「出ていけ! お前らのおかげでみんな飢えているんだ! お前らに明け渡す食料も兼ねもあるもんか!」

「ちょちょちょちょちょちょちょぉーい! ちょい落ち着くッス! 確かに自分らは武器を持ってるッスが、そんで強盗なんてできるわけがないッス! はい身分証! 自分、レアガルド王国議会保安庁諮問探偵アレット・ドイルと言うッス! こっちはCランク冒険者の呉空! 決して怪しいもんじゃないッス!」

 アレットと空は、左腕を掲げて腕輪型探偵ライセンスと冒険者ライセンスを提示する。それまで殺気立っていた男も、それらを見て互いに顔を見合わせ、ゆっくりと武器を下ろす。

「そうか。悪かったな。たぶん商店街のうまいもん目当てで来たんだろうが、盗賊に目ぇつけられてこのざまだ」

「やっぱり盗賊ッスか。村長にお目通り願えないッスか?」

「村長に聞いてこよう。待て」

 ひとり男が村長邸に入り、空とアレットは車から降りて姿勢を正して村長を待つ。

 しばらくして、村長と思われる腰の曲がった老人が現れた。

「これはこれは、旅のお方。ええと、探偵さんに冒険者さんでしたな。わしは村長のアース。立ち話もなんじゃ、そなたらのことは拙宅でお伺いしよう」

 村長アースに会議用広間に通され、女性秘書官(兼執事兼メイド)がふたりに紅茶を差し入れる。

「ご丁寧にどうもッス。改めまして、自分は保安庁諮問探偵アレット・ドイル」

「わたしは冒険者の呉空と申します。とても良い香りのお茶ですね」

「ドイル殿に呉殿だな。さて我が集落の有り様は見たかね」

「そりゃもう寂しいもんッス。現在、町はどうなってるッスか?」

「お気遣い無用、村ないし集落と呼んでくれて構わんよ。早ければ今日、遅くても明後日ごろだろう、この村に目を付けた盗賊団『レッドスコーピオン』がやってくるのは。だから今、この村の有り金と作物をはたいて保安庁や冒険者ギルドに討伐依頼を出しておるのだが返事は来ず、保存可能な農作物は底をつき、今は森の動物たちを狩り、雑草やもみ殻をスープにして口にし、何とか生きているという程度。助けが来ぬなら、もう我々はこのまま朽ち果てるしかいのだろうか。希望は、どこにもないのじゃ」

 悲壮感ただようアースの言葉だが、先ほどアースを呼んだ男性、副村長のリュークが「だったら!」と叫び続いた。

「そう、だったら俺たちの手で奴らをぶっ殺すんだ。応援がアテにできねえ、だがこのままじゃみんな飢え死にだ。いっそ俺たちの手で殲滅してやろうじゃねえか。今、村の男たちが静かに襲撃に備えている。俺たちの村は俺たちで守るんだ。そうだろうみんな!」

 そうだそうだと男たちが吼える。こんなことになって申し訳ないとアースは頭を抱え、女性秘書官も顔を伏せるばかり。

 そんな彼らにアレットが言った。

「どこかでその応援が途絶えている可能性もあるかもしれないッス。保安庁諮問探偵の立場から、最寄りの保安署、そこから周辺の保安署に応援を要請するッス。なんなら自分たちも協力」

「間に合うか! 奴らは今日来てもおかしくねえんだ! 命が惜しいならてめえらだけで逃げやがれ!」

 唯一できる説得だが、それも無理そうだ。

 探偵にできるのは、頭を働かせることと人脈を駆使すること。前線に立って戦うことではない。ましてや今アレットが死ねば、王国議会保安庁は優れた相談役を失うことになる。当然、アレットだって死にたくはない。

 すると、空が尋ねた。

「レッドスコーピオンなる盗賊、奴らの戦力を教えてください。具体的には人数、彼らの所有する武器や道具、移動手段と貨物運搬方法、やってくる方角と去る方角。逆らう者は容赦なく殺すか、痛めつけて脅して終わるか、主に狙う品物は何か」

「それをテメエに話してどうなる」

「力で力に対抗するとなれば、純粋に戦闘力が高い方が勝利することは目に見えています。であれば頭脳を使って敵を駆逐するのです。簡単に言えば、罠を張っておけば罠にかかったところを一網打尽にできると言うものです」

「確かに……。だがこの村にはそんな材料すらねえぞ」

「もっと視野を広げましょう。この周辺地域の地理に詳しい人を呼んでください。作戦はそのあと立てます」

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