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第二章 海賊強襲 ~わたしはひとりで戦っているのではありません!~

 アーダルベルトのガトリング乱射は止まらない。甲板に伏せたクルーや海賊たちは死してなお血しぶきを上げ、生き残ったクルーたちもブリッジやマストの向こうに隠れるのみで反撃もできない。

「あんなものをどうやって……。いえ、ひとつだけ手はあるでしょうか」

「空!? あんなもの相手にどんな手があるって言うんッスか!?」

「あります。アレット、貨物室から取ってきてほしいものがあります」

「了解、空に賭けるッス!」

 すると、マストに隠れていた空が槍を担いで姿を現す。アーダルベルトがそちらを見やると、仁王立ちする空の向こうでアレットが駆け出していたところだった。

「貴様から死にに来たか」

「いいえ、決闘です。よもや武人として、決闘を受けず背中を向けるなどということはありませんよね」

「挑発か? 安っぽい挑発だな、クソガキ。だがその槍一本で俺様に刃向かったその勇気は褒めてやる。だが死んで思い知れ、それは勇気ではなく無謀だと言うことをな」

「どうとでも。さあ、武器を構えてください」

 空は槍を構え、そして言う。

「……仁義礼智と信の字胸に、誇る力は活人が為に。武の道行く我、地鳴らす一歩は天の采配のもとにあり。尋常に勝負。あなたの悪行、決して許すことはありません」


 先手はアーダルベルトが取った。

「勝負はつくさ! 今すぐになぁ!」

「ふっ!」

 アーダルベルトが繰り出すものは火炎放射器。もはや略奪したものを運び出すクルーがいないのでは盗み働きをしたところで海軍に追いつかれる。それよりは殺しを楽しんで逃げた方がよいと考えているのだろう。

 ――火炎放射器。確かに威力は高いですが、炎は弾丸ほど遠くに届きませんし、炎が途中で上昇するため相手からもわたしを視認しづらいはず。かと言っててわたしも彼に近づけない。続いて繰り出すガトリングもただ乱射するだけで、回避は容易かと思いきや、攻撃ラインが読めないから意外と厄介。と言うよりは、わざと命中率の低い攻撃で標的をじわじわ追い詰めるという戦法で殺しを楽しんでいるとしか思えません。頼みの綱は、やはりアレットでしょう。

「ならば」

 空は火炎の放射と弾丸の嵐から逃げながら、その時を待つ。

 一方のアーダルベルトは、相変わらず乱射を楽しんでいる。

「こちらも遠距離攻撃です」

 空はガレキを槍で突き刺し、槍を思い切り振って火炎放射の向こうにいるアーダルベルトに攻撃を仕掛ける。当たった様子はないが、「小癪な真似を!」と言う叫び声が聞こえてくるあたりアーダルベルトを挑発する役には立ったようだ。

「さて、本気を出してくるか、なお暴れまわるか。厄介な相手であることに変わりはありません。さて、次は下段攻撃です」

 空が繰り出すガレキ攻撃は、当たりこそしないもののアーダルベルトのすぐそばを飛んでゆく。頭上や足のそばなど思いがけない攻撃の連続にアーダルベルトは不意を突かれるが、いよいよ本気になったか火炎放射はやめてガトリング一択の攻撃で空を追い詰める。

「うらうらうら! 俺様を舐め腐ってんじゃねえぞこの虫けらが!」

「舐めているのは」

 その時、空の視界の片隅に待っていたものが現れた。

「あなたです」

 何と、アレットが小麦粉の入った麻袋をアーダルベルトめがけて投げつけたのである。

「なっ!?」

 その途端、麻袋に仕込んでいた手榴弾が爆発し、麻袋は破裂してアーダルベルトの周辺で小麦粉が舞い散る。それと同じことが三連発。アーダルベルトの動きは小麦粉の雪に封じられてしまった。

「ぐぇほっ、ぶぇはっ! 何だこれは、何のつもりだぁッ!?」

 アーダルベルトはただうめいて咳き込む。だがこれで終わりではない。

「アレット!」

「分かってるッス! これでとどめ!」

 続いてアレットは右手に構えた照明弾で麻袋を撃ち抜く。弾丸が引く炎が空中に舞い踊る小麦粉に引火し、それは赤々とした炎を上げ、炎はさらに広がる。空がアレットに提案した作戦は、『粉塵爆発』による爆撃だったのである。

「なっ!? ぐあああ! うおおあああああああああッ!」

 炎に包まれたアーダルベルト。背後のバックパックも爆発し、断末魔を上げてメイフラワー号のデッキに伏す。銃火器狂いが炎に飲まれて死ぬと言う皮肉な最後を迎えたアーダルベルトだが、それでも地獄のような血まみれの戦いに勝利した事実を、空もアレットも、そしてクリストファーも強く嚙みしめた。

「……この船はもうだめだ。生存要因、積み荷を急いで海賊船に移せ! 敵船内の海賊たちを配下に置き、アンカーボルトまで帰港する!」

 クリストファーは海賊船に乗り込みアーダルベルトの敗北を宣言、命が惜しくば我が意に準じよと海賊たちを従属させた。そしてすべての積み荷、戦いの中で伏せたクルーのタグと冒険者の武器を遺品として回収し、はしごとロープを捨てた後は炎に呑まれてゆくメイフラワー号と仲間たちの骸とメイフラワー号に敬礼した。

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