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第二章 海賊強襲 ~紳士淑女の武術は意外とえげつないッスよ!~

 不審船の方が船体は大きく、それだけ強いエンジンを積んでいる。

 アンカーボルトまであと二十海里というところで追いつかれ、海賊たちがメイフラワー号に接触するのも時間の問題だ。

 不審船が掲げる旗を見て、クリストファーは尋常ではないほど青ざめる。

「マジかよ……ッ!」

「クリストファーさん? どうなさったのですか?」

「ああ。奴らはこの海域で名を馳せている、悪名高き海賊団だ。名を『アーダルベルト海賊団』。残虐な戦法で略奪を繰り返し、逆らう者、逃げ惑う物容赦せず、とうとうレアガルド海軍の小型軍艦を強奪、今に至る。海賊団長は『重火器狂いのグスタフ・アーダルベルト』。対峙すれば、間違いなく死ぬ」

「そう、ですか」

 冷静にうなずく空に、クリストファーは尋ねる。

「それだけか!?」

「はい。いずれにしろ、戦わなければ死ぬだけです。ならばいっそ迎え撃とうじゃないですか」

 そう言う彼女に、アレットが言う。

「空。おいしいところをひとりで持ってくのはズルいってものッスよ」

「いいえ。ひとりで何とかできるとは思っていません。アレット、お力添えを」

「言われなくても!」

 アーダルベルト海賊団の海賊船は、両舷に六門ずつ、船首に一門のカノン砲を備えている。まず数発、メイフラワー号周辺に威嚇砲撃を行い船足をゆるめる。今から略奪しようとする船を沈める愚策はない。船足がゆるんだところでメインマストを砲撃、風に頼る航行を不可能にしつつバランスと足場を崩したことで航行不可とした。

 そして海賊船では、グスタフ・アーダルベルトと見られる巨漢が指揮をする。

「野郎ども、船に乗り込め! 金と食料を優先して奪え、抵抗する者は殺せ!」

「うおおおおお!」

 海賊たちはボウガンでロープをつないだ銛を折れていないマストに撃ちこみ、はしご(板梯子)をかけ、わらわらとメイフラワー号に乗り込んでくる。だが冷静なメイフラワー号のクルーは剣の届くロープを切り落とし、臨戦態勢が整っていない海賊を斬り、船の残骸の破片を飛ばして薙ぎ払い、ロープやはしごを伝う海賊を海に叩き落す。

「バーカ! 俺たちがただ荷運びだけやってると思ったら大間違いだ!」

「海賊対策だってしてるんだよ!」

「オレらも、雇われたからにはそれ相応の働きをしねえとな」

「嬢ちゃんの魚料理で、元気もやる気もみなぎるってもんだ!」

 『おいしい料理は生きる力』。それは空の標語(モットー)である。

「どうした野郎ども! 荷運び程度にやられてんじゃねえ!」

 海賊も海賊で、戦うことに関しては場慣れてしているだけあって一切の容赦なくクルーや冒険者たちを斬り伏せてゆく。人の死を見慣れない空もアレットも目を覆いたくなるが、それでもここで退いては自分たちが殺される。生きるためには、目の前の敵を駆逐しなければならない。

「だったら、バーティツの本領発揮ッス!」

 紳士淑女の武術、バーティツ。その本領は『上品かつ、時として無慈悲である』こと。紳士淑女を狙う強盗に礼儀や作法などない。ならばバーティツ使いもまたそんなことなど言っていられない。

「とりゃ!」

 アレットはガレキを海賊に叩きつけ、ひるんだところで伸縮自在ステッキを叩きつけてゆく。脛に当てて動きを封じ、側頭部に当てて意識を刈り取り、多重攻撃で相手を叩き伏せ、優雅で華麗な所作は戦いの中でも上品さと冷静さを失わせないためだ。

「死ね!」

「お前が死ねッス! バーティツ、『ステッキコンボ』!」

 海賊は湾刀を繰り出すが、アレットはステッキで弾きつつ胸の前でステッキを持つ右手とバランスを取るための左手を交差、美しき白鳥のように両手を広げつつステッキを海賊の脳天に叩きつける。それでも気絶しない者に対してはステッキの端をみぞおちに叩きつけ、苦しさにうめいたところでさらに首などの急所に一発二発。更に襲い掛かってくる海賊にも、振り返りざまに情け容赦ない一撃を見舞い、ひるんだところを見逃さずに卑怯な攻撃を加えてゆく。

「あれが、紳士淑女の武術、なのですか……?」

 なかなかえげつない攻撃に、空は唖然となるばかりだった。

 ――まあわたしもゴールドメイルに金的を見舞った手前、強くは言えませんが。

 海賊たちはほとんど倒した。だがメイフラワー号のクルーや彼らが雇った冒険者も何人か命を落としている。むしろ悪名高き海賊団相手によく空やアレットや冒険者たち、そしてメイフラワーのクルーが生きているものだと、クリストファーは強気に笑う。

 そしてクリストファーは、アーダルベルトに向けて叫ぶ。

「おい、海賊団長アーダルベルト! もうおしまいか? お前らはこの程度で終わるのか? 存外あっけないな。今なら見逃してやる、俺たちがそちらの船に乗り込み貴様の首を刎ねる前に逃げてもいいんだぞ!」

 それは挑発であり、最初で最後の警告だ。

 だが、アーダルベルトはこれで引くほど往生際の良い海賊ではない。

「はっ。何を寝ぼけたことを。確かに貴様のクルーはよく鍛えられ、手練れの冒険者を雇っているようだな。だが下っ端を殺していいい気になっているのはそっちの方だ。だらしない部下どもに代わって、この俺様が貴様らに引導を渡してやろう!」

 すると、アーダルベルトは背中のバックパックから火を噴いて上昇し、ロープもはしごも使わずにメイフラワー号の甲板の真上に躍り出る。そしてバックパックにつながれた右手装備のガトリングガン、左手装備の火炎放射器を構え、ガトリングを乱射しながら舞い降りた。

「ひゃーっはっはっはぁ! どーよ、俺様自慢のガトリングガンと火炎放射器の恐ろしさは!」

「何なんだあの武器、それに重量武器を片手で操る腕力!?」

 クリストファーは、驚きを通り越してもはや唖然愕然となっている。

 そんなアーダルベルトのいでたちは、ひどく傷んだ長い髪と髭、傷としわが刻まれた老け顔、それに反して長身と筋骨隆々たる体格、紺色のマリンキャップに同色のコートと言うものだった。

「あれが、海賊アーダルベルトですか……」

「重量のある武器を片手でって、普通に戦っても強そうッスね!」

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