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第二章 海賊強襲 ~お給料の上乗せのためにも魚を獲ります!~

 船出。

 この日は風があまり吹かないため、蒸気エンジンとスクリューでの航行となる。空もエンジンには興味あるらしく、窯焚き仕事を半日だけ手伝わせてもらうことにした。

 帆走はマストの向く角度を調整するが、蒸気推進はスクリュー後方の舵の向きを変えることで針路変更=転針を可能とする。空とアレットは操舵室も見学させてもらい、航海士の指導の下で舵取りを体験した。

 空の旅の楽しみと言えば食事。だが船旅は保存がきく食料に限られ、海の上での料理はほとんどできない。そのため塩漬けの牛肉や水分のほとんどない乾パン、乳製品でもチーズが主。そのまずさにクルーは誰もが「延命のため」と我慢して口にするが、空は「魚でもさばきますか」と銛を手にした。

「おいおいおい、誰だあんなもの持ち込んだのは?」

「わたしです。海の上で食料が尽きた時のために」

 空が素直に名乗り出た。

「用意周到と言えばそれまでだが、事前申告した武器以外で武器に転用できそうな私物は併せて申告するように」

「分かりました。以後気をつけます」

「空……。まさに食欲の権化……」

 航海開始から三日、空は鳥の群れを発見した。すかさずロープを結わえた銛を構えるのだが、そんな空にクリストファーが言う。

「一応言っておくがメイフラワー号は漁船じゃない、輸送船だ。確かに新鮮な食料は欲しいところだが、だからと言って釣りポイントまで連れて行ってやることはない。それだけ留意しろ? 一応近くまでは寄ってやるがな」

「心得ています」

「それと……、いいの捕まえたら俺らにも分けてくれ。給料はその分色を付けてやる」

「もちろんです! がんばります!」

 やはりクリストファーも新鮮な魚には弱いようだ。

 そしてとらえた。

 海鳥の群れがあるということは、その餌になる小魚の群れもその直下にあると言うこと。その小魚は大型魚類がそもそも狙っているため、そこが漁ポイントである。

「マグロでも仕留めてくれればいいなあ」

 そうクルーはつぶやくが、空が投げ入れた銛には網が結わえ付けてあった。

「確かに大型の魚が仕留められればよいのですが、一発大きなものを狙うより小さくても確実に多くの成果を出すことも重要かと思いまして」

「マジで用意周到……」

 そして大量のイワシがかかった。

 この日から目的地である港町キュルスまでは、三食にイワシ料理(刺身、一夜干し、焼き魚)が追加された。


 キュルスからの帰りの航路。

 クリストファーは、航海士を残して全員を食堂に集めた。

「いやあ、今までになく順調な航海だ。雇った護衛は皆強く、読み書き計算も申し分ない。キュルスでも寄ってきた強盗を嬢ちゃんたちが返り討ちにしてくれたのには驚いた。見せしめに吊るし上げたのが抑止力になったな!」

 キュルスでは現地の盗賊が強襲を仕掛けてきたが、殺気を感じた空とアレットが一早く警戒し、ほかの護衛が出るまでもなく槍と拳銃で駆逐、その全員の首に縄を巻いて「俺たちに盾突けばこうなるぞ」と見せしめのために何時間でも何日でも立たせ続けたのである。盗賊たちは彼ら自身が肉の壁の役割をも果たさせられ、それ以降は取引相手以外近寄らなくなった。

「恐縮です」

「ま、冒険者と探偵として当然のことをしたまでッスよ! 大船に乗った気分で、ってすでに大船でしたね!」

「そうかな? 小規模ギルドの大したことない輸送船だが、そう言ってもらえると嬉しいものだ。ああ、気分は大船だ。空の仕留めたイワシの料理が更に船旅を盛り上げてくれる。刺身にはやはりビールだな!」

 そう言うクリストファーに、クルーが「船長はいつでもビールじゃねえですか」とツッコミを入れ、全員で笑い合う。

 そして空も。

「昨晩、初めて酒を美味しく味わいました。ビール、とてもいいものですね」

「お? 空、陸軍じゃ酒は飲まなかったのか?」

「いえ、おそらく成人しているだろうと判断されて飲まされたのですが、喉を焼くばかりの酷いものでこりていたところです。しかしビールと言うものは本当に、香りも色合いも口当たりやのど越しも素晴らしいものでした。美味なビールに新鮮な魚、潮風の香りとともに海の上の贅沢を堪能した、そんな感じでした」

「そうか。いいものだろう、ビール?」

「はい、とても」

 クリストファーに、空は静かな、しかし満足げな笑顔で返す。クリストファーもとてもうれしそうだ。そこに別のクルーが言う。

「詩人だねえ、空ちゃん。そんな贅沢にありつけたのも、空ちゃんのおかげだ。何だったらずっとこの船にいてくれてもいいんだぜ?」

「お気持ちだけありがたくいただきます。わたしは、自分の過去とまだ見ぬ美食を追い求めて旅をすると決めましたので」

「そうか。それはいい旅の目標だ。がんばりな!」

「はい。皆さんとこうして旅ができた思い出は、わたしの宝物になるでしょう」

 嬉しいことを言うと、クリストファーやクルーたちは笑い合う。そんな一同を見て、アレットも「こうして絆の環は広がってゆくんッスねえ」と感慨に浸っていた。


 だがその時だった。

「緊急事態! 不審船舶発見! 繰り返す、不審船舶発見!」

 伝声管を伝い、航海士からの緊急連絡が響いてきた。

「なっ!?」

 食堂の一同は戦慄するが、ここで慌ててはいけない。

「観測士が報告! 不審船舶航行海域、八時の方角、三十二海里! 不審船舶の予想針路、本線の針路上! 船長、指揮を請う!」

「了解。総員、第一種戦闘配置! エンジン全開、最大戦速! 敵を振り切れ!」

 号令を聞いた機関長をはじめとする機関士全員で蒸気エンジンを出力最大まで稼働させ、航海士は航海長へと舵取りを交代。航海長はクリストファーに進路変更を具申するが、彼の答えは。

「針路そのまま! 舵を切った先に町はない。ならばこのまま逃げ切り、アンカーボルトの海軍分隊に協力を仰ぐが得策。追いつかれた場合は海上戦になる。戦う覚悟は、今決めろ!」

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