第二章 海賊強襲 ~一件落着のようです。~
アレットの推理はまだ続く。
ビリーにバイクのある場所まで案内してもらうと。
「平らなものを引きずった跡がある。つまり犯人は『そり』のようなものを持っているッス。踏み荒らされてもう分かりづらくなってるッスが、そりの引きずる跡がここから明確に沈んでるッス。ここで重量物を、すなわちビリーさんの金庫を積んだのは間違いないッスね」
すると、アレットは空に尋ねた。
「空。思いがけず十一万五千ガルなんてとんでもない金が舞い込んだら、空ならどうするッスか?」
「旅をするなら堅実に貯金と言いたいところですが、冒険者として報奨金をもらった時と同様に、まずはおいしいものを食べるでしょうか」
「そう。貯金とともに、金遣いが荒くなることも充分考えられるッス。海とそりと言えば、遊具を運んだりドリンク販売などの屋台を経営していたり。このコンテナに収まる持ち運び可能な金庫が紛れても誰も何とも思わないほど荷物満載のそりを所持しており、今頃どこかの居酒屋で豪勢なディナーで盛り上がっている、そんな人物が特定できれば」
果たしてその人物とは?
空、保安官たち、アレックス、ビリーは固唾を呑んでその推理の続きを清聴する。
「特定……、できたッス」
アレットが新たに見つけたもの。
それは、消えかけのそりの跡の上の、真犯人を示す痕跡。
居酒屋『パイレーツ』。
元海賊が経営しているという、船の上のワイルドな食事を楽しめると人気の居酒屋だが、店主は当然足を洗って真っ当に経営しており、保安官や冒険者も仕事の後に酒を飲みに来る真っ当な居酒屋である。
そこにアレットが訪れ、とある客の前に仁王立ちになった。
「ちょっとお話を聞いてもいいッスか? ボトルドリンク販売許可状所有販売員『移動販売のタチバナ』のディーン・タチバナ氏?」
「なっ、何だよテメエ!?」
「申し遅れたッス。自分、保安庁諮問探偵アレット・ドイルと申すッス。探偵として単刀直入に。あんた、モートルラートのコンテナから金庫を盗んだッスね? ネタは上がってるッス、吐いた方が身のためッスよ?」
青くなる青年ディーンだが、そばにいた空は「居酒屋で吐けとはどうかと思いますが」とツッコミを入れ、「まあ吐く場合もあらぁな」と保安官は笑った。そしてここにはほかの保安官も飲みに来ている。ディーンの立場は、最悪だ。
「おっ、俺が金庫を盗んだだぁ!? だったら証拠はあるのかよ!?」
「ええ。ビリーさんのモートルラートのコンテナに付着している水滴の手形が乾いた痕跡、更にそりの跡が残された後に水がしたたった痕跡、そのことから飲料の移動販売に従事する者であると推理したッス。その後、何とか消えかけのそりの跡をたどり、移動販売のそりを見つけ、あんたにたどり着いたッス。あんたの背に隠れているその小さな金属製の箱、今日のワイルドビリーの売り上げが詰まった金庫ッスね? そこにビリーさんの営業許可状が入っていれば、もう言い逃れはできないッス!」
金庫の中身を見せれば言い逃れはできない。だが金庫を捨てて逃げようとももはや袋の鼠。見た目なら腕づくで叩き伏せられそうなアレットと空を薙ぎ払っても、その先に保安官がいては逃げることもできない。
ディーンは、観念するしかなかった。
その後。
ディーンはビリーに『百叩きの刑』に処された後、顔面が腫れ上がった状態で逮捕され、ビリーの手元には金庫が戻ってきた。しかしいくらか金は使われたようで、全額戻ってくることはなかった。後日、ディーンに損害の賠償を請求するらしい。
「だが嬢ちゃんの推理のおかげでこうして金庫が戻ってきた。営業許可状もあるからな、こいつだけはなくせねえ!」
「それはよかったッス。とはいえ今回はビリーさんの不注意も原因のひとつッスし、これからはお金から絶対に目を離さないこと。いいッスね?」
「おうよ、肝に銘じておくぜ」
「それと、無実の罪を着せられかけたアレックスさんにもちゃんと謝るッスよ」
「おっ、おう……。わっ、悪かったな、疑ったりして」
すると、アレックスは涙目に憤慨した。
「ホントですよ! 今日、ライドの町から紹介された仕事をギルドまで受注しに来たのに、これじゃあ金を稼ぐどころか違約金発生だぁ!」
「おう……。違約金はあのバカの損害賠償に加算してやるから、ここで収めてくれ……」
その様子を見て、空がアレットに尋ねた。
「諮問探偵の力で、どうにかして差し上げられないでしょうか?」
「そうッスね。事が事ッスし、ギルドも話せば分かってくれると思うッス。アレックスさん、自分からも掛け合ってみるんで、今日はもうホテルにでも泊まって朝一番にギルドまで報告と謝罪に行くッスよ」
「ああ、そうさせてもらう。きみたちはどこに泊まっているんだい?」
「安くてサービスも行き届いているいいところッスよ。旅をするにはちょうどいいホテルかと」
事件は解決。アレックスの問題だけが残っているが、この日はひとまず解散となった。