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第九十八話 天界への序章・瑤心


体がじんわりと温かくなり、まぶしい光につつまれた気がした。


その感覚に心地よさを感じて、ゆっくりと瞼を開ける。


その側には、輝くような髪の色の美しい男が立っていた。




銀色に近い美しい金色の髪色の彼は、私に優しく微笑んでいる。


辺りは騒然とし、皇太子殿下が私を抱きしめて泣いているけど…





「あら?え?」


なんだか私だけが、別の世界にいるようだ。

飛んでくる矢が体をすり抜け、痛みも感じなければ苦しみも感じない。



ゆっくりと体を起こすと、まるで脱皮したかのように体が軽くなる。


その男性はそっと近づいてくると、優しく私を抱き起こしてくれるが、その姿が皇太子殿下と一瞬重なり恐怖を覚えた。



目の前には、皇太子殿下に抱きしめられている自分が横たわっている。


「皇太子殿下!!危ないですよ!!」



私の名を叫んでいる皇太子殿下に触れようとしても、身体が通り抜けてしまう。


「寧王殿下!!あぶないっ!!」



「凌雪?」


「え?」


よく見ればその顔に見覚えがある。神医靈麗(れいれい)ではないか。




「靈麗?え?あら??」


髪色が違うから、全く気付かなかった。





それにしてもまるで自分は、異空間から戦芝居でも見ているかのような違和感…


私の声は、どうやら彼らには届かないようだ。





「靈麗…私…」


雰囲気は違えど、よく見れば彼は確かに靈麗だ。



その美しい髪に触れ、私は思わず感嘆の声を漏らす…



「靈麗…綺麗ね…神様みたい…」


瑤心(ようしん)歴業(れきごう)は終わった。これから天界に戻るのだよ」


「え?でも…」



見れば目の前で、皇太子殿下によって赫連 景の胸は衝かれ、再び駆け寄った皇太子殿下に私らしき体はすぐに抱きかかえられる。


私の周りには寧王殿下や父上が同じように駆け寄ってきて、皆口々に私の名を叫んでいた。


「靈麗…私…みんなと離れるなんて嫌だ…」



「しかし瑤心は、人間ではないから…」


「えっ?」


「人なら亡くなれば49日の猶予がある。その間別れを偲ぶことも。けれど神の歴業の場合は、すぐに天界に戻らねば。このまま人間界に残ることはできないのだよ」


「…神?」


「さぁ…このまま忘川(ぼうせん)彼岸(ひがん)に行き、九重(ここのえ)蓮花門(れんかもん)を渡らねば」


「……」


「大丈夫。皆にすぐ会えるからね」


そう靈麗に言われて、私は“皆”とは父上たちの事だと思っていた。




彼に導かれるようにして言われるがままついていくと、見たこともない大きな川のほとりにたどり着く。


穏やかで明るい色のその川辺には花が咲き乱れ、視線を動かすたびにその色は変わった。




そこから翡翠のように輝く二本の橋が見え、皆がそこを渡っていく。


小さな子供が手招きしているのが見えたので、そちらについて行こうとしたら、靈麗が慌てて私の手首をひっぱった。


「瑤心、そっちに行ってはダメだよ。まずはこれを飲んで?」


白磁に浸された、青白い水を差しだされ言われた通りに一気に飲む。


「これは、なに?」


「これは、忘川の水だよ。歴業(れきごう)での全てを忘れるために…」


そう言われ飲んだ後からすぐに、今までどこで何をしていたのかよくわからなくなってくる。




「なんだかぼんやりするわ…」




頭を小さく振り更に彼についていくと、その忘川と言われる川の流れの中央には巨大な蓮が浮かんでいて、その花びらが九重の門のように広がった。


「さぁ、こちらへ…」


彼に手を引かれ一歩一歩花びらを踏めば、その都度今までの記憶が剥がれ落ちていくようだ。


もう自分の名前も思い出せない…



最後の花びらを踏んだ時に、目の前に龍紋の刻まれた古い青銅の門が現れた。


瑤心(ようしん)…さぁこちらへ…」


私が近づくと門は自然と開いて、霧が布のように垂れ下がっている。

門をくぐれば、現世の記憶はひとつ残らず消え、私はそのまま彼について天界へ昇って行った。



私が天界に戻ると、盛大な祝宴が催されていた。


色とりどりの花が咲き誇り、楽師たちの奏でる雅やかな調べが、天界の空に満ちている。


神仙たちが皆、笑顔で私の無事を喜び、杯を掲げて歓迎の言葉を贈った。


この上ない賑わいの中、私は温かい祝福に包まれ、ここでの記憶を取り戻す。


「燁煊…??…思い出したわ!!たただいま!!」


笑顔でその胸に飛び込むと、彼は優しく抱きしめてくれた。


「瑤心…お帰り。よく頑張ったね…無事で良かった…」



「なんてことなかったわ!」


そう笑顔で言った私に、彼は苦笑いをするとそっと髪を撫でた。優しさが指先から零れ落ちるようだ…


「今日はゆっくり休むといい…疲れただろう?」


凛宸(りんしん)は?凛宸はまだかしら?」


「あぁ…凛宸は後三日後かな?」


「そうなのね!」


「瑤心…人間界でのことを何か記憶には?」


「え?だって忘川の水を飲むでしょ?全部忘れちゃったわ…」


「凛宸の事は?」


「凛宸?私一緒だったの??」


「いや…」


「なんだか眠いわ…」


「明日からは忙しくなる…女神の儀式や学ぶことも山ほどあるから、気を引き締めないと…」


「そうね…頑張らないと…」


こうして私は、人間界での記憶を完全に失い「女神瑤心」として天界に戻った。


人間界での記憶は何もない。

でもここでは、そんな事なんの問題もなかった。


例え「皇太子殿下」の事を、全て忘れ去っていたとしても…





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