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第八十八話 窮地の決断




「何?!今度は凌雪の血痕が付いたものを送って来た!?」


私寧王は叔父上が揃えた天黎の兵を率い、首都景都(けいと)の近くの清栄門(せいえいもん)まで侵攻していた。


そこは凰影門(おうえいもん)よりも内側に位置し、景都とは目と鼻の先だ。





しかし蒙成の皇太子・赫連 景(かくれんけい)から思わぬ報せが届く。




凌雪(りょうせつ)韓碧心(かんへきしん)を人質に取っているので、全て従うようにと・・・



その文に添えられていた繍帕(しゅうば)は、確かに凌雪のものだ。


蕭烈微(しょうれつび)が刺繍した、牡丹の花が施されている。


その文には、兄上を討つようにと書かれていた。




寧王 李璿(ねいおうりせん) 殿


そなたの正妃・凌雪は、今この赫連景の手中にある。


その命脈はすでに我が掌にあり、生かすも殺すもすべて我が一念にて決する。


思えば、奥方を兵どもの慰み者として辱めるも、また一興かもしれぬ。

然れど、そなたが我が言を聞き入れるならば、正妃を汝のもとへ返すことも(やぶさ)かではない。


その証として、正妃自らが(しゅう)した帕をここに添え遣わす。

よく見て、偽りなきことを知るがよい。


もし真に正妃を救わんと欲するならば――天黎皇太子・煊王李煌(けんおうりこう)の首を我が前に捧げよ。それこそが、そなたに課す唯一の使命である。


速やかに皇太子を討ち、天黎を混乱に陥れよ。

さすれば蒙成は天下を手にし、そなたもまた、その栄耀を共にすることができよう。

選ぶがよい、寧王。

妻を護るか、義を貫くか――その決断こそ、そなたの一命をも左右するであろう。



蒙成国 皇太子 赫連景



一体…なぜ凌雪は赫連 景のところにいるのだ?

兄上のところにいるのではないのか?


でもこの繍帕(しゅうば)は確かに蕭烈微が刺繍したものだ。

韓碧心も一緒だと伝令は言っていた。


私はいてもたってもいられず、赫連 景にすぐに返事をした。

凌雪を清栄門に返す様にと。


それに、これ以上蒙成の言いなりにはなれぬ。


こちらは兄上に反旗を翻し、父帝の首を取ろうとしているのだ。


その上、兄上の首を赫連 景に献上するなど、私にはできぬ!



「赫連 景め…」


「殿下、天黎より皇太子殿下から文が届いております」



「兄上から?」


そう言って岳珩(がくこう)が、早馬が持って来た兄上の文を両手で差し出した。



この戦況下に置いて、早馬が敵陣に文を届けるなどよっぽどだ…

私は慌ててその文の封を切った。


そこには、予想もしなかったことが書かれていた。


「…私が…陛下の…お子?」


これは…

兄上は戦況を変える為、また私に嘘をついているのではなかろうか…


しかし兄上はその様な嘘はつかない…

父上がご存知だと?ではなぜ母上は知らぬのだ?


母上は私が、叔父上の子だと。


それに凌雪が…

蕭烈微に連れ去られた??一体どうなっている…



兄上の所にいた凌雪は、蕭烈微にさらわれ、今は赫連 景の所に??


これはどういうことなのだ…


「殿下…」


「岳珩…」


私は、文を持つ手を震わせながら、思わず岳珩に寄り掛かる。


「殿下、皇太子殿下は何と…」


「…凌雪が…蕭烈微にさらわれたと…」


「では、正妃は皇宮にはおられぬのですか!やはり赫連 景の手に??」


「とりあえず…凌雪を清栄門に…こちらも赫連 景のいう事ばかり聞いておれぬ…

私が文を書く。それを伝令に…」


「はい」


「岳珩…。私は…」


一体どうすればよいのだ…


私が陛下の子?

訳が分からぬ。そうであれば、今までの事は一体何だったのだ?


父帝はそれをご存知だと??


私は今、実父に反旗を翻しているのか?



しかし、それが真実かはわからぬ。

戦況下では嘘も戦略の内だ。



とりあえず、凌雪の命を救わねば。



私は急いで赫連 景に、凌雪を清栄門に届けるよう文を出した。



すると今度はすぐに、凌雪の衣の端に血痕が付いたものが送られてくる。


「殿下、こちらが一緒に添えられていました」


岳珩に手渡された、布の切れ端…



その衣は、確かに凌雪のものだ…


見覚えがある。確かこれは…


≪殿下、どちらの色がよろしいと思いますか?≫

≪そなたにはどちらも似合うであろう。どちらも選べばよい≫

≪私はどちらかで良いのです。殿下のお好きな色にします≫

≪うーん…では、こちらにしよう。こちらの薄紫色の衣の方が私は好きだ≫



そう言って一緒に選んだ、あの時の衣だ…

淵に水色の糸で刺繍があった……




寧王 李璿 殿


もう一度申す。

そなたに課す務めはただひとつ――天黎皇太子・煊王李煌の首を討ち取ることのみである。


期日は三日後。


我は鳳関にて休戦の会談を設ける旨、すでに煊王へ文を遣わした。

その席において、そなたは兄と相まみえよ。


そして、刃を振り下ろし、その首を我が前に差し出すのだ。

見事、首を得た暁には、そこで正妃凌雪を無事に返そう。


されど、もし我が命に背き、欺くようなことがあれば――その時は、そなたの目の前に、凌雪の首を供物として差し出すであろう。


この選択を違えることは許されぬ。


妻を救うか、義を取るか――決するのは、そなた自身だ。


蒙成国 皇太子 赫連景



私は、赫連 景からの文を卓上で握りつぶした。


既に兄上に文まで?!

兄上はこの会談に応じられるのか?!



しかし、ここに出向かねば凌雪の命が…


鳳関なら皇宮から一日かかる。

遅くとも明後日の朝までに兄上に文が届かねば間に合わぬ…



「岳珩…私はどうすればよいのだ…」


「殿下…私を帯同することが可能でしたら、殿下と正妃を守りながら赫連 景を討つことは可能です。ただ、赫連 景もそのような事は百も承知。


皇太子殿下にも韓昭の帯同も許されぬでしょう。それに、恐らく用意周到に周りを兵で囲むかと。


それでは、皇太子殿下が危険です。それどころか、殿下のお命もわかりません。


赫連 景は、皇太子殿下と殿下をまとめて討つつもりなのでは?」



「そうだと思う。凌雪を使って私をおびき出し、私を使って兄上を討つ。

狡猾な…」


「寧王妃は、本当に赫連 景の所にいるのでしょうか?」


「繍帕も衣も凌雪のものだ」


「けれど、皇太子殿下は蕭烈微が連れ去ったと…」


「確かに…蕭烈微のあの強さ。天黎の地下牢の護衛を一人で破る腕だ…」


「もしかしたら、これは罠かもしれません。鳳関に王妃はいらっしゃらないのでは…」


「でも、もし本当に凌雪が赫連 景の元にが居たら…彼女は身重なのだ…

この様な状況になり、身体の事も心配でならぬ。


―――こんな事なら私は…」



――――あのような覚悟をするのではなかった…。凌雪を置いて蒙成に加勢するなど…


実父だと聞かされていた叔父の死、そして兄上と凌雪の関係…そのどれもが私の気持ちをかき乱し血迷っていた。


そなたは今、どこで何をしているのだ…


食事はできているのだろうか…腹の子は…大丈夫なのか?



「殿下…魅影(みえい)に正妃の事を調べさせましょう。本当に赫連 景の元にいるのかどうか」


「…そうだな…」



魅影は、叔父上亡きあと密偵として軍営にいた。

彼女に調べさせたところ、凌雪は韓碧心や侍女たちと共に凰影門で赫連 景に囚われているとの事がわかった。


私は次の日、すぐに皇宮へ文を送る。


赫連 景が凌雪を凰影門にて捕らえている事、その命と引き換えに兄上の首を討てと言われている事。

鳳関の会談で、それを行うように言われているという事を全て書き記した。




清栄門から皇宮が近い事が幸いし、おかげで文はすぐに届く。



兄上からは、凌大将軍と相談し鳳関での会談に臨むので安心せよと書かれていた。


天黎もそのつもりで兵を準備すると…




そして…

天黎の皇子として鳳関で再会しようと書かれていた。



兄上は何としても凌雪を助けると…


私は兄に詫びの文を書いた。

天黎の第二皇子にしてあるまじき行動を起こしてしまったこと。


戦が終われば全て償う。命をもってしてもそれは必ず。


そして私が率いる全ての軍の軍師に一斉に文を書いた。


「天黎に帰順し蒙成を討つ」と。


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