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第八十七話 赫連 景の思惑




天黎(てんれい)慶淵王(けいぶちおう)をうまく利用すれば、あの国が手に入るかもしれぬと思っていたが、あっけなく最期を迎え私は頭を悩ませていた。


慶淵王が用意した兵は、すぐに天黎に帰順すると思われたからだ。




大国・天黎に兵を向けるには、我が蒙成(もうそう)だけでは到底力が及ばぬ。



しかし、なんと天降奇縁なのだ!

あの、天黎の皇帝・李乾徳(りけんとく)の第二皇子寧王(ねいおう)が、慶淵王の実子だったとは!



父を殺され反旗を翻した寧王が、(わが)蒙成と共に、慶淵王の用意した兵を全て率いてくれるとは。これは、天黎を手に入れろと言う神の思し召しだ!



目障りな天黎の皇太子煊王李煌(けんおうりこう)

やつが蕭烈月(しょうれつき)の姉、蕭烈微(しょうれつび)を娶ったばかりに、烈月を返還せよと強く言ってくるようになった…


「話にならぬ」


私は、鳳関(ほうぜき)での威圧的な煊王の顔を思い出し、椅子の腕の背を強く叩いた。


そこへ一人の伝令がやってくる。


「殿下。寧王妃の繍帕(しゅうば)を、寧王殿下の軍営に届けさせました」


「ご苦労。あとは反応を待つばかり…では、父上に今日の戦況をご報告に上がろう」


「はっ」



私は蒙成国皇太子、赫連 景(かくれんけい)


父は蒙成の皇帝・赫連 玠辰(かくれん かくしん)だ。


だがしかし、父は病に伏しており、ここ一か月ほどは起き上がる事さえもままならない。この状況を隣国に知られないため、それも頭を悩ませている事の一つだ。


実際、蒙成の政権は既に私が握っていた。




「景、今日の戦況はどうなのだ…」


寝台に伏したままの父帝の手をそっと握り、私はご心配なきよう伝える。

「大丈夫です。順調ですよ」


「天黎を敵に回すなど憂慮しておったが…皇太子は蕭烈月を返せとあれほどに…」


「父上…何度も言っておりますが、戦を仕掛けてきたのは天黎なのです」


「……」


「父上は、だまって見ていてください。烈月は我妻も同然。応じるわけにはまいりません」


「景…」


父上は震える手を、私からそっと離した。



父は私と天黎の華琳(かりん)公主の婚姻により、和平を結ぼうとしていた。

大国の天黎が後ろ盾に付けば、国は安泰だからだ。


何十年も北の民族と戦って来た我が国には、その力が必要だった。


民の平和を維持するために…


しかし、徐々に国も力を取り戻し、今では景国よりも兵力では勝る。


ただ、それでも父は、天黎との和親を諦めなかった。






景国はここ二十年ほど内乱が絶えず、国力も徐々に落ちて来た隣国だ。


私は幼き頃から、景国の公主・蕭烈月とは顔を合わせていた。


国交を深めるために景国に大使と共に訪れ、その頃私は蕭烈月と仲良くなる。


彼女は美しく、心優しく、会うたびに心惹かれて行った。

それに比べて姉の蕭烈微は、とにかく野蛮な女子だ。


父も始めは、景国との和親を望み、私と蕭烈月を婚姻させるつもりでいた。

私達は自然と恋仲になり、いずれは夫婦になれるものだと信じて疑わなかったのだ。


しかし、父の心変わりにより、私は天黎の公主・李華琳と婚約することになる。


それにより、私と蕭烈月の仲は引き裂かれた。


悩んだ末、我が国の中の景国と和親を望む強硬派と共に、私は蕭烈月を人質という形で我が国に連れてくることにする。



―――それも初めのうちは、問題はなかった。

やっとそばに居られると、甘美な時を過ごしていたからだ。



しかし、何度も蕭烈微が妹を返せと、使臣と共に来国し、そのたびに蕭烈月は国に帰りたいと言い始める。


それは、天黎の公主との私の婚姻が、なかなか白紙にならないためだ。


蕭烈月は時に感情を荒げるようになり、私はそれに、ずっと頭を悩ませていた。



すると今度は、姉の蕭烈微を娶った天黎の煊王李煌が 烈月を返還せよと言い出す始末。


私は烈月に言った。

側妃でも構わぬかと――正式に娶れば、景国や天黎国を黙らせることができるからだ。


しかし蕭烈月は余計に怒り始め、正室でなければ認めないと…





だが、そこに天黎の慶淵王が現れた。


皇帝である李乾徳に対し、謀反の用意がある。協力してほしいという物だ。



まさに渡りに船だった。




天黎に反旗を翻すならば、私は天黎の公主を娶らずに済む。

そして蕭烈月を皇太子妃として、迎える事ができるのだ。



ただ――姉の蕭烈微が何度も文を、寄こす…


そのたびに、蕭烈月も悩んでいるようだ。国に帰りたいと。


どうやら数年前から母親が病に伏しており、余命幾ばくも無い事が分かった。


ゆえに蕭烈微は、蕭烈月をどうしても母親に会わせたいらしい。



だが、一度帰国させれば、烈月は二度と蒙成の地に足を踏み入れる事は出来まい。


天黎の皇太子が蕭烈微を皇太子妃に娶ったからだ。

蕭烈微は正式な形ではなく、奪うようにして烈月を連れ去った私を相当恨んでいる。


煊王李煌は、いまや蕭烈微のいいなりだ。

戦を起こしてまで、蕭烈月の返還要求をしてくるとは…




この戦必ずや勝つ。



私は煊王李煌を倒し、そして景国を傘下に治める。





「殿下!清栄門の寧王殿下より、文が届きました!」

「どれ…」




その時、天黎の清栄門にまで攻め上っている寧王から、王妃凌雪の繍帕を受け取った返事が届いた。



赫連景殿へ



先日、殿より届けられし繍帕を拝見いたしました。

確かにそれは、我が正妃・凌雪の手ずからのものに相違なく、胸を衝かれる思いにございます。

然れど、何ゆえ殿がそのような言葉を弄されるのか、我には理解が及びませぬ。

我はすでに蒙成の盟友として軍を率い、内より天黎を覆すため尽力している身。

そちらに従い、天黎慶淵王の意思を継ぎ約したとおりに動いているはずにございましょう。


にもかかわらず、“従わねば正妃の命を奪う”とは――その御言葉、いかにも理に背くものにございませんか。

即刻、正妃・側妃ならびにその侍女を解き放ち、清栄門へ送り届けられよ。

それより後の事は、すべて我が引き受け、然るべき道を整えましょう。

妻と子を護ることこそ、我が唯一の願いにして誓いにございます。

赫連景殿におかれては、この信を裏切ることなきよう――切にお願い申し上げます。



天黎国 寧王 李璿 謹白



「あははははは!!裏切る事なきようとはよく言ったな。自分が天黎を裏切っておきながら」


「殿下、どうなさりますか。密偵の話では寧王は、殿下が送られた繍帕と文でかなり動揺し、王妃を開放せねばこちらに反旗を翻すのではと…」


「どうあがこうと、王妃はこちらの手にあるのだ。これを利用しない手はない」


「寧王殿下は、こちらのいう事を聞きそうにありませんが…」


「寧王妃凌雪の衣の切れ端に、血痕をつけて送るのだ。今度こそ、逆らえば命はないと。そしてこちらの要求を再度伝えよ。兄煊王李煌を討つのだと」


私は、最初の文で寧王妃が持っていた牡丹の刺繍が施された繍帕を、寧王に送った。

それに添えられた文に書いたのは、これから要求する事に全て従うようにという事だ。


だが、寧王はそれに不服を申し立てて来た。


「文を書く。それをすぐに届けよ」


「はっ」



こうして、私は王妃の衣の端に、兵士の血をつけ寧王にすぐに送りつけた。



その手で、煊王李煌の首を取るようにと――――


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