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第八十六話 追われる王妃の行方


「王妃…御無事だったのですね…」


韓碧心(かんへきしん)は泣きながら、私の体を摩っている。それから蘇璃(そり)たちも…

聞けばあれから、慶淵王殿下の手の者の助けにより、そのまま蒙成国(もうせいこく)へ向かったらしい。


しかし国へ着くあと一歩のところで、今度は景国(けいこく)の者に馬車ごと拉致されたと…


それは、私が一緒にいると思っていた、蕭烈微(しょうれつび)の手の者達の仕業だった。


そこに私がいないと知って、蕭烈微が地下牢に?


皇太子殿下の指示だと言っていたけれど、嘘だった…


どうしよう…蕭烈微は信用できない。


「私達ここにいては、いけないのでは…」



「王妃…」


「韓碧心、皇宮に戻りましょう。皇太子殿下ならきっと助けてくれるはず」


「でも…」


言葉を濁した韓碧心に変わって、彼女の侍女緑瑛(りょくえい)が答える。


「王妃…側妃の御父上は韓清之(かんせいちん)殿…こたびの戦では慶淵王(けいぶちおう)殿下側に付いております。そして寧王殿下があのような事になり、皇宮に戻ればお嬢様の命はございません」


「…そんな…」


それならば韓碧心を連れては、戻れない…

でも彼女を置いて戻るなんて、絶対にできない。


「そう言えば…寧王殿下の軍が、もうすぐそこまで迫ってきているそうです」


「殿下の軍が?」


「はい。今朝見張りの者が言っておりました。

凰影門(おうえいもん)は突破して、清栄門(せいえいもん)まで来たと。なので蕭烈微も景国に戻るそうです。驚きました。妃殿下は殿方だったのですね…」


聞けば蕭烈微は、天黎(てんれい)に加勢する為、自ら景国の軍を率いると…

蕭烈微が男だと明かされ、景国の者は皆混乱しているそうだ。


殿下の軍が、そこまで迫っている。

ならば、蒙成国まで行かなくとも、清栄門に軍営があるはず…



「韓碧心。殿下の軍営に行きましょう」


「正妃…」


「慶淵王殿下亡き後、寧王殿下のご指示に従わねば」

「慶淵王殿下は、お亡くなりになったのですか?!」


韓碧心は、驚きで目を丸くし両手で口元を塞いだ。―――この戦乱は誰も彼もの運命を、混乱に陥れている…


もう、私も流れに逆らう事は出来ない。


韓碧心を助ける為には、寧王殿下の元へ行くしかない。


「韓碧心。皆で、寧王殿下の元へ行きましょう。ここにいても仕方がない。

蕭烈微に、景国へ連れて行かれてしまう…」


「え!?景国に?」


「しっ…」


私の声に、みんな息をひそめて耳を寄せた。


さっき、見張りにねぎらいのお酒が配られたの。だから深夜は手薄になるはず。

隙を見て、四人で逃げましょう…


「正妃…うまく行くでしょうか…」


「信じましょう…」



こうして私たち四人は、真夜中酔いつぶれた護衛の隙をつき、裏口から屋敷を抜け出して裏山に入った。

出来るだけ暗いうちに、山沿いを清栄門目指して歩き続ける。


韓碧心は、身重の私をとてもいたわってくれた。


凰影門、清栄門…天黎の守りの門の位置なら、大体は頭に入っている。

父上が、良く小さい頃からその地図を見せてくれた。

兄上と駒を置いて遊んでいたから、よく覚えている。


凰影門よりも内側にある清栄門…あそこまで進軍しているならば景都が落とされるのも時間の問題かもしれない…



皇太子殿下は大丈夫なのだろうか…

寧王殿下の裏切りに、心痛めていらっしゃるはず。


あの鏡の話が本当なのかどうなのか、私にはわからないけれど…

実の弟だと話す皇太子殿下のまなざしに、嘘はないように見えた。



それから夜が明け、少し眠ろうと私達は木陰で休むことにする。


今が真冬でなくて良かったと、心から思った。


疲れてうとうとしていると、数人の男たちに取り囲まれハッとする。


この状況で、韓碧心と緑瑛はぐっすり眠っていた。


「お嬢様…この人たちは一体…」


蘇璃は、私にしがみついて怯えている。

すると、その中の一人が話しかけて来た。見れば少し高貴な出で立ちで、身分が高そうだ。


でも、少し天黎の衣にしては様子が違っていた。


「娘が4人、一体何をしておるのだ」


その人が連れている兵士が6人ほど、私達の周りを歩き回り様子をうかがっている。

それに気づいた韓碧心と緑瑛が目を覚まし、驚いて身を寄せ合った。


その時ふと、韓碧心がその男を見て思わぬ名を口にした。


「皇太子殿下!」


「え?」


韓碧心は、その名を叫びそのまま跪く。


皇太子殿下??


訳も分からぬまま私も跪き、それを見た蘇璃も緑瑛も同じようにした。


「私、韓清之の娘韓碧心でございます」


「あぁ…前に一度会ったことがあるな。韓殿と凰影門でお会いした時だ」


「正妃…こちらは蒙成国(もうせいこく)皇太子・赫連(かくれん)(けい)殿でございます」


韓碧心に耳打ちされ、私も驚いて頭を下げた。


「韓碧心、この女子は?見れば身分の高き女子のようだが」


「こちらは、天黎第二皇子寧王李璿(りせん)殿下の正妃凌雪殿でございます」



韓碧心は、彼が蒙成国の皇太子だと知っていて、味方になると思ったのか、私の素性をそのまま告げた。でも…なんだか嫌な予感がする。


父上が、この様なときは“決して身分を語ってはならない”と言っていたからだ。


味方だと思っていたものが、急に掌を返すことがあると。

良く見極めねばならぬと…


蕭烈微も寧王殿下も…皇太子殿下にとってはそうだった…。



「ほぉ!寧王李璿の正妃か?それはそれは…私は蒙成国皇太子・赫連 景。お見知りおきを。


しかしなぜそなたらが、このような場所で寝ているのだ。しかも衣も汚れているではないか?天黎は、王妃にこのような扱いをするのか?」


韓碧心は、赫連 景に心を許したのか、ことの事情を話して聞かせた。


自分たちが蒙成に行こうとしたら、景国に邪魔をされた事。

そして、私は天黎に捕えられ逃れてここに来たと…


そして寧王殿下に、会いに行くところだと。



「ちょうどよかった。私達は今から寧王殿下の軍営に陣中見舞いに行くのだ。一緒に行こうではないか。すぐそこだ」


そうにこやかに言われて、韓碧心は喜んで私の肩を叩いた。



赫連 景…


蕭烈微が言っていた。天黎の公主を娶ると言いながら、蕭烈微(しょうれつび)の妹蕭烈月(しょうれつき)を拉致し、この度公主との縁談を白紙に戻したと。


慶淵王殿下を掌で転がし、そして天黎をここまで追い詰め…


本当に信用できる人なのだろうか。


だって私達は、天黎の人間なのだ。

それに私は、蒙成国がまさに今、追い詰めようとしている天黎の王妃なのに…


それから、私達は赫連 景の馬車に乗せられて出発した。


信じ切ることはできなかったが、逃亡している不安からは少し解き放たれたような気がして、馬車の揺れでうとうとする。


暫くして目を開けると、真っ暗な山の中をひたすら走っていた。


「韓碧心…起きて…」


私は、不安になり韓碧心に声を掛ける。


眠そうに目を開けた韓碧心は、周りが真っ暗な事に驚いていた。


「正妃。いま、どのあたりなのですか?」


そう言われて馬車の前方の掛布をそっと開けて前を見ると、ちゃんと赫連 景の馬車も走っている。



「殿下は、割と遠いところにいらっしゃるのですね」


韓碧心が、隣の緑瑛を起こしながら言う。


これは…


景都の南方の清栄門まで、ここまで時間はかからないはず…


今が夜だとして一体どれほどの時刻なのかわからないけれど、とっくについても良い頃だ。



それから少しして、馬車は止まり外が騒がしくなってくる。

馬車から外を覗いた韓碧心が、ついたようだと笑顔で言った。



すると外にいた兵の一人が、私達に到着したので降りるようにと告げる。


恐る恐る馬車を降りると、そこは清栄門ではない…


「凰影門だわ…」


私は思わず目を疑った。


ここは、南の砦『凰影門』

子供の頃、父に連れてきてもらったことがある。


ここが破られると天黎が危ないと、そう言っていた――――


呆然と門を見上げる私達に、赫連 景が近づいてきて丁寧にお辞儀した。



「寧王妃、こちらは蒙成の軍営になります。寧王殿下のいらっしゃる清栄門は緊迫している状況…少しでも安堵できるよう、こちらにお連れしました。

見ればご懐妊されているようなので…」


そう言って、彼は不敵な笑みを浮かべる。


「では、こちらへ。お前たち!丁寧に扱うのだ」


そう言いつつ、赫連 景は私達四人を鍵のついた牢に入れた。



その状況に寧王殿下の御身が、一気に心配になる。



やはり蒙成は、侮れない…

これから私達はどうなるのだろう。


不安そうな韓碧心が、私にそっと抱きついてきた。


「正妃…怖いです…私達はこれから一体どうなるのですか…」


そう言えは、韓清之はどうしているのだろうか…

慶淵王殿下亡き後、蒙成にいるのだろうか?


「韓碧心…御父上はどこにいらっしゃるの?」

「父は…わかりません。私も知らないのです」


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