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第五十話 守られた原神

「良かったわぁ!!一時はどうなる事かと!!」


緲光仙母(びょうこうせんぼ)が、そう言って胸をなでおろした理由は、凛宸に飲ませた丹薬の解毒剤・鎮情露(ちんじょうろ)が間に合わなかったからだ。


緲光仙母は、あの後“鎮情露”を片手に司命殿に走って駆け込んで来た。

その時、司命殿の入り口でつまずき転んで、その薬瓶が割れ再度作り直している途中に、凛宸が交宿の場へ行ってしまった。


私と老師は絶望し、千里晶盤(せんりしょうばん)(世界を見守る神器)を使って、凛宸の様子を天から見守ることにする。


「凛宸のこんな場面を覗いたりして、気が引ける…」


老師は照れながら、千里晶盤から目をそらした。


「何を言っているのです!魔と交われば凛宸に何が起きるのか…心配ではないのですか老師は。」


「ありゃ??なんだか酒が飲んだあたりから、凛宸の様子がおかしいぞ。」


「え?」


老師に様子がおかしいと言われて、私も真剣にそれを覗き込んで見ていた。


そこへ、鎮情露を作り直してきた緲光仙母がやって来て、千里晶盤を一緒に見せろという。


「あぁ、あの媚薬が効いてきたわね。ここから相当苦しむのよ。」


「苦しむ?」


「欲情が激しくなって、感情も高ぶるの。でも凛宸のこんなところ、私達勝手に見ちゃっていいの?」


緲光仙母はそう言いつつも、千里晶盤をじっと見つめていた。


「これからどうすべきであろうか…。」


老師がそうつぶやいた時だ。


「んっ??なんだかこれは危なさそうね…魔に近づいて動けなくなっているわ。」


「解毒薬を飲んでないからであろう!すぐ使えるよう、いつも常備すべきだ!」


「何を言ってるの!こんなの神が使うなら何ともないのよ!解毒薬なんていらないの!」


二人が喧嘩を始めた時、私は凛宸(りんしん)が「凌雪(りょうせつ)」の名を口にしたことに気づく。


「今、凌媛羅を「凌雪」と呼んだような気がする…。」


私がそう言うと、緲光仙母は慌てて千里晶盤の方へ向き直り、それを掴み食い入るようにして、凛宸の様子を見始めた。


「そんなに見ちゃいかん!凛宸に悪いであろう!緲光仙母、恥じらいはないのか!」


老師がそう騒ぎ立てても、緲光仙母は真剣な面持ちでじっと千里晶盤を見入っている。

すると凛宸は、一通り媛羅と事を終えると意識を失って倒れてしまった。


燁煊(ようけん)!凛宸が倒れたぞ!!」


「これは駄目だ!魔の影響で凛宸の原神が!!」


私は凛宸のその名を叫び、私はすぐに下界へ行こうとした。

すると、後ろからこの手を掴んだ緲光仙母は、確かめたいことがあるから一緒に行きたいと言う。


私達は、この姿のまま一緒に人間界へ行き、部屋に運ばれた凛宸の傍へ、私達は姿を消したまま舞い降りた。


「これは…。瑤心の匂いだ。」


「それって芳華女神・璃華の香袋?」


「そうです。瑤心は歴業でもこの香りを。」


見ればそれは、凛宸の枕元に置いてある。

私は咄嗟に神医の姿に戻り、その香袋を手に取って見た。


「今瑤心が持っている物とは、袋の色が違う。」


「瑤心が、凛宸に香りを分けたのでは?」


「別の袋を作って?そんな必要は…。」


「凛宸と瑤心は、人間界でどんな関係なの。原神が瑤心の人間が側に居て、人間の凛宸が惚れないわけないわ。」


「……。」


「この袋、なんか光っているけど中何?」


「光っている?」

神医の姿では、神力が使えないのでその光は私には見えなかった。


そして私の姿は神医の今皆に見えるが、神のままの緲光仙母は周りには見えない。

そのため神力も使えるのだ。


――香袋の中を見てみると、髪の毛が入っている。


「髪が…。」


「まさか、それ瑤心の髪?」


「香袋が瑤心の物だから、髪も瑤心の物かも…。」


「それなら、凛宸大丈夫よ!!」


「え?」


「瑤心の香袋に凛宸の心は惑わされ、魔には気が行かないわ。

それにその中に髪が入っているなんて最強のお守りになるの!」


「お守り?」


「凛宸は瑤心に…惚れているわよね?」


「まぁ今は…。」


「あの丹薬を人間が飲んだ時、好きな人への効果が更に倍増するの。

普通なら、今頃あの魔に惑わされているだろうけど、凛宸は偶然にも、愛の女神の香袋持っていたのよ!?おまけにその中に、女神の髪が入っているとか、最強の魔除けよぉ!」


「魔除け?」


「今は人間だとしても、その原神は瑤心だからね。

おまけに髪まで持っていたなら、凛宸は、相手の魔が瑤心に見えていたんじゃない?好きな人が愛の女神なのだもの。他の誰も叶わないわ。」


「では、凛宸は…。」


「まぁ、玉焔露(ぎょくえんろ)を飲んでも魔には落ちなかったけど、凛宸は瑤心を諦めなくなるわね。原神が戦神だし、瑤心にもし相手がいたら奪い取るかも。」


「それは…。」


「これはまずい状況よ。だって魔が執着して凛宸から離れないのも変わらないから。複雑すぎるわ。」


「なぜ玉焔露を飲んだのは凛宸なのに、凌媛羅まで。」


「だって凛宸が玉焔露使ったからよ。」


「だからなぜ?」


「玉焔露の効果はすごいのよ!!

凛宸の愛情を受けたと勘違いした魔が、凛宸の虜になるの。だから人間界では禁忌なのよお!」


「そんな…。」


「まぁとりあえず、凛宸の原神は守られたようだし、後の事は上でしっかり考えなさい。」


そう言うと緲光仙母は瞬時に姿を消し、天界に戻っていった。


それから私は、御医に呼ばれ、凛宸の元に出向いた。


――その後はさっきの通りだ。

とりあえず凛宸の原神は、瑤心に救われた。


やはり今の、凛宸の瑤心への想いは、本物なのだな…。

忘川(ぼうせん)の水を飲むとはいえ、なんだかそれは複雑な気持ちだ。


しかしこれからどうしようか…

凛宸が寧王から瑤心を奪うなど、絶対にあってはならない。


やっと凛宸の気持ちが落ち着いてきたのに、一難去ってまた一難だ。

今瑤心と寧王李璿はうまく行っている。私も頃合いを見ては、様子を見ているがそれは司命簿葉の通りだ。


凛宸は媚薬から覚め、これから媛羅をどうするだろうか。

緲光仙母の媚薬で、もしかしたら凛宸の気持ちはまた瑤心に向かい、そして凌媛羅が更に凛宸を…


でも、もうそれでも良いような気がしてこなくもない。


後は二人が歴業(れきごう)を終えるのを待てば、凛宸は一度媛羅と結ばれたわけだし、魔を嫌ってこれ以上かかわらなければ、原神が穢れる事もない。


凌媛羅よりも瑤心の方を向いてくれていた方が、司命簿葉の通りになるのかもしれぬ。


私は凌媛羅が、この先あれほど暴走するとは思わなかったが、無事に凛宸と瑤心が天界に戻ってくれればそれでよいと思っていた。


―――本当にただそれだけを祈る気持ちだった…。





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