虎の穴に行こう
「東倉先輩、強かったなー」
健人は、ボンヤリと窓の外を見つめていた。レアキャラ特有の、初見殺しを食らったとは言え、昨日の敗戦は応えていた。
「いくらチームメイトとは言え、あんな負け方してるようじゃ、全国は夢のまた夢だ……」
「健ちゃん、梓姉ぇは学生ランク全国2位の強豪だよ。それに食らいついているんだから、十分強いよ健ちゃんは」
「そか〜、東倉先輩そんなに強い人だったのか。って! 肇先輩、何時から居たんですか? あと、顔が近いです」
「5分くらい前」
健人の顔を、横から覗き込む様に、ギャル先輩の高柳肇は彼を見つめていた。
「あ、部室行きます? 今日は肇先輩と対戦したり、東倉先輩に再戦を申し込みたいんですけど」
「良い表情に、なって来たねー。でも、今日は健ちゃんに来て欲しい所があるんだ」
「何処です?」
「虎の穴」
「は?」
◇
虎の穴へ行こうと告げられ、学校から引きずり出された健人。肇は健人の腕を掴み、グイグイと引っ張り目的地へと向かう。
スタジアム横を通り、大通りを越える。そして、総合体育館を越えた先に、目的地はあった。
館外工業高等学校。
「ここが虎の穴?」
「そうだよ」
校門の前に着くと、肇は誰かに電話をかけた。軽いやり取りを終え、待つこと数分くらいだろうか。
校舎の中から、ジャラジャラと金属音をたてながら、中性的な顔立ちの男子学生が、此方に向かって来た。
「こんにちは。高島さん、高柳さん」
「正純さん、オッスオッス!」
「ようこそ。格ゲー対戦会、虎の穴へ」
◇
ジャラジャラと、校舎内にアクセサリーの金属音が響き渡る。古田正純の両手と首元の、チェーン状のアクセサリーが、歩くたびにジャラジャラと音をたてる。
「凄いですね、そのアクセサリー」
「ああ、自慢の妹の作品でね。作ってくれた以上、身に付けないわけには行かないだろう?」
「すみません」
やばっ!? と、顔を強張らせる健人。それを見た正純は、ゴメンねと、軽く謝る。
「ところで、店長からもらった左右逆のレバーレス、気に入ってもらえたかな?」
「え! 何で知ってるんですか」
「知ってるも何も、アレを創り上げて店長に渡したのは俺だからね。で、使い心地はどうだった」
「凄く、使いやすかったです。反応はいいし、無駄な力も要らない。最高のレバーレスでしたよ!」
「いやー、そこまでに行ってもらえると、職人冥利に尽きるよ」
アケコン談義に花を咲かせながら、校舎内を歩いていると、部室と思わしき部屋にたどり着く。
正純は、引き戸をガラガラっと開ける。
「いけー! 梓。今日こそ上原に、一発かましてやれ」
「何言ってるの、綾乃お姉様が負けるわけないでしょ」
部室内は、ちょっとした大会をやってんじゃないかと思うくらいに、盛り上がっていた。
「あ、梓先輩!」
PCで対戦をしていたのは、チームメイトでもある東倉梓。その横では、背の高いポニーテールのお嬢様が、梓と対戦していた。
「格ゲーの知識が無い、僕でも知っている!? 若干十一歳でプロライセンスを獲得した、ファンタズムバトルの現学生王者。上原綾乃プロだ!」
初めて見るトッププロを前に、健人は魅入られたかのように、目を輝かせるのだった。
解説 プロライセンス(本作品)。
本作品におけるプロライセンスは、以下の効力を持つ。
1 プロライセンス獲得大会で好成績をおさめている為、プロとしての実力を証明できる。
2 本作の法律では、格ゲーで高額賞金を獲得する為に、必要なライセンスである。
3 ライセンスの獲得者は、プロとして相応しい人物である。