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7/11

最後の仲間は、漆黒のお嬢様

 ゲーミングカフェ、グランプリボスの一件から一夜。

 アレだけの事があったものの、健人は何事も無かった様に登校をしていた。


「昨日のやつ、ニュースや新聞にも取り上げられていない。あんな事が、あったのに」


 学校の近くで、あの様な事件が起きれば、次の日はその話題で持ちきりになると思うのだが、その気配はない。


「肇先輩、泣きじゃくっていたけど、大丈夫なのか?」


 肇の心配をしつつ、午後の授業を受けていると、授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。

 教科書を終い、教室を出る準備をしていると、ピシャンと引き戸が開けられる


「健ちゃん!渡したいものと、メンバー紹介するから、部室にいこー」

 

 カーディガンを腰に巻いた、金髪のギャル先輩の高柳肇が、元気良く勢い良く入って来た。


「心配は、杞憂に終わったみたいで、え!」


 健人の目の前に来た肇は、何の前触れもなく手を捕まえる。


「ちょっと、クラスメイトの前なんですよ」


 モデルを思わせる程美人なギャルに、平凡な男子が手を引っ張られ教室を出ていった。それを見た、生徒達は、「いーなー、羨ましー、アタシらも付き合っちゃう」等、様々な反応をしつつ彼を見送ったのだ。


 バタバタと、中履音が響く廊下。それを何事? と言った表情で、生徒は彼と彼女を見送っていく。


「先輩、部室棟の場所くらい分かりますから、引っ張ってかないで下さいよ」


「えー。手を繋ぐとか、恋人同士みたいで良いじゃん」


「いや、恋人同士は引きずり回す様な、引っ張り方をしません。それに、恋人の件に付いては保留と言いましたが」


「じゃーお試しで、友達から始めようよ、健ちゃん」


「ま、まあ……それ位なら」


「うっし!」


 恋人よろしく? の強引な手繋ぎで、廊下を駆け抜ける二人。渡り廊下を越え、校舎に隣接する部室棟に入っていく。



「到着だー」


 電脳遊戯研究会(格ゲー部)。部室棟の奥から数えて2番目の扉に、部活名が書かれたプレートが張られていた。


 コンコンコンと、3回ノックをしてから、「入るよー」と、肇が告げる。すると中から、「どうぞー」と、何処かで効いた、はんなりとした声が聞こえてきた。外開きのドアを開けると、腰まで伸ばした、黒髪パッツンのお嬢様が席に座っていた。

 

「あ、昨日の人って。えっ!?」


 健人は彼女を見るなり、驚きを隠せなかった。昨日の、髪、制服、タイツまで黒で固めた、スレンダー美女のファッションは強烈だったのだが、今日のはそれを上回る。


 椅子も、机も、カップも。彼女の席および、彼女の所有物、ほぼ全てが漆黒に染められていた。

 ただ、黒のアケコンの隣に置かれていたカチューシャだけは、何故か白だった。


「ウチは、東倉梓とうくらあずさ。今度の大会のチームメイトや。よろしゅうな」


「高島健人、よろしくです」


「そう言えば肇、この子に例のアレを、渡すんと違う?」


 肇が鞄に手を突っ込み、ゴソゴソと探り、コレだーと長方形の箱を、机にコトリと置く。


「あー、昨日使っていた左右逆レバーレス! どうしたんですか、コレ」


「いやね。健ちゃん以外に、左右逆を誰も使わないから、感想を含めたデータ収集と引き換えに、あげるんだって」


「成る程ね」と、健人は相槌をうった。


「なぁ、来て早々悪いけど。そのレバーレスで、ウチと対戦せえへん?」


「バッチコイです」


「元気ええなぁ、あ肇。健人君の隣での座って、彼のデータ収集と、対戦後の指導お願いな」


「りょ」



 東倉梓に言われるまま、ファンタズムバトルで対戦する事になったのだが、健人は苦戦していた。


 梓の魂キャラ(お気に入り)のミカミ・ミカは、ピンク髪でツインテールの肌面積の多い、アメスク風学生服纏い。下はスカートの代わりに、ホットパンツを着用していた。


 肌面積多めのギャルるんな少女は、やや前傾気味で、両足を軽く曲げている。ムチを持った右手はだらりと下げ、左手は腰の後ろ。「何時でもどうぞ」と言わんばかりの、待ちの姿勢でミカは構える。


「トウカの得意なアウトレンジの、更に外からの攻撃。崩してみせる!」


 トウカは地面を強烈に蹴り、ダッシュでミカとの距離を詰めようとするが、水平に滑る超遠距離攻撃のムチで、ダッシュを止められてしまう。


 画面端から、もう一方の画面端へムチを飛ばしつつ。

 マナをハート形に練り上げた、ふんわりと動く飛び道具。この2種類の遠距離必殺技で、トウカに攻撃をしかけていく。


 この単純なミカの行動。ノーマルの必殺技に、飛び道具の無いトウカにとって、最悪とも言えるキャラ相性の原因になっていた。



「ムチのリーチが、画面の端から端って長すぎ。現代の格ゲーに出していいキャラじゃないだろ……」


「初代からおる、腕がよぉ伸びる格闘家の、コンセプト引き継いだキャラやからねぇ」


「アウトレンジからの、一方的な攻撃。相手にやられると、これほど厄介なものなのか」


 ムチと飛び道具の合わせ技でいたぶられる、地獄のような時間を味わったトウカだが、我慢の成果が出始める。

 ガードを利用しつつジリジリと距離を詰め、ジャンプ攻撃が届く距離まで近づき、ジャンプをする。このラウンド初のジャンプ攻撃だっただけに、通ると確信をしていた。


「この手の遠距離キャラ、対空や近接に問題があるのがお約束。ならソコをつかせてもらう」


 だが健人の読みは、大きく外れる。


 梓のミカは、ジャンプ攻撃をして来たトウカを、バレーのI字バランスを思わせるモーションで対空のキックを放つ。

 ミカのキックは器用にトウカの腹を蹴り上げ、空中攻撃を跳ね除ける。


「極端な遠距離キャラなのに、ノーマル技対空が優秀なんですか」


「ミカやからねぇ」


 上からの攻撃に失敗はしたものの、どんな攻撃も届く近距離まで距離を詰めたトウカ。彼女はミカに対して、次々と攻撃を繰り出していくが、ガードで最低限のダメージに抑えられてしまう。


 トウカの攻撃をうまい事いなしていた、梓のミカだが、攻撃によるノックバックで画面端の壁に到達してしまう。


「よし追い詰めた、一気に畳み掛ける」


「そうは問屋が、卸さへんよ」


 端に追い詰められたミカは、トウカの猛攻を受けジリジリと体力を削られるも、しゃがみガードと立ちガードを駆使し、致命傷になる攻撃を防ぐ。


「画面端だって言うのに、冷静に攻撃を捌いてくる」


「コレくらいの芸当出来ひんと、ミカはツライキャラでねぇ。あんたの攻撃、何とか捌いたる!」


 手堅く、堅牢な梓のディフェンスで、画面端の猛攻を防いでいたが限界を迎えようとしていた。攻撃でゲージをガリガリと削られ、ガードを割られそうな状態まで追い詰められる。


「あと一押しで、ガードも出来なくなる。ゲージを使い切ってでも、このまま押し切れぇ!」


「このまま押し切られるのは、かなわんなぁ。ほな、オサラバさせてもらおかぁ」


 ミカは垂直ジャンプをし、ゲーム画面の天井にムチを引っ掛け、ターザンの様に空中で前移動を見せる。そしてそのまま、トウカの後ろに回り込んだ。


「え!? その空中軌道変化、みてないんですけど」


「そらぁ切り札は、見せびらかすもんとちゃうからねぇ」


 トウカの後ろを取ったミカは、ギューンと超必殺の発動音と共に、右手ムチと左腰から持ち出した左手のムチを手にする。

 右手のムチが、振り下ろされる。左手のムチが水平に走る。

 ありとあらゆる方向から飛び交うムチに、体力を半分以上削られたトウカは、為すすべは無かった。



「10戦お疲れさん。よぉがんばったねぇ」


「負けっぱなし悔しいです。まあ、最初の負けた悔しさを火種に、梓先輩の7勝と僕の3勝に持ち込みましたけど、せめて僕の6勝まで持っていきたかったな」


「負けてなお、その言葉が出てくる。ええ、格ゲーマーになりそうや」



解説、ミカミ・ミカ。


腕が伸びるヨガ使いが、美少女の皮を被っていると言う、皮肉が出る程、プレイヤーからの評判がこぶる悪いアウトレンジメインのキャラ。


トウカと同じく、以前は強キャラだったが、相手に触らせず勝つというコンセプト。

コレが多くのユーザーに、嫌われてナーフさる。結果、ミカは最弱四天王の一角となった。

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