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末永く、お幸せに

 肇の運命をかけたマッチで、一本目を先取をした健人。

 のどを潤す為に、ペットボトルのジンジャーに手を伸ばすが、中は空。


「5分間のインターバルをもらったし、買ってくるかな」


 初心者に2戦連続のパーフェクトウィンを食らったせいか、九頭竜はかなり苛立っている様子だった。そのゆだった頭を冷やす為、彼はインターバルを申告をした。


 健人はペットボトルのジンジャーを買う為、席を立とうとすると、ほっぺたに冷たく湿った感触が伝わる。


「ジンジャー買ってきたよ、健ちゃん」


「ありがとうございます」


 この人、人間関係や距離感はバグっているのに、細かい所はみてるんだよなーと思いながら、肇の買ってきたジンジャーを口含む。


「で、健ちゃん。九頭竜君の起き上がりの必殺技や、ヤケクソ超必殺をちゃんとガードしていたけど、どうやったの」


「秘密です」


 味方であっても、理由を教えない健人の対応に、肇はほおを膨らませる。


「勝ってきて、教えますよ」


 あっという間に5分のインターバルは終わり、筐体の戦場へと戻って行った。



 画面では試合開始の、カウントダウンが始まる。


 第一ラウンド開始の時と同じ様に、健人は「ゲットレディ」と呟く。


 ファイト!? と筐体からボイスが流れ、第二ラウンド開始。


 和風女剣士、トウカ。ハイエルフの騎士、ウィリアムスが画面で対峙する。


 先程はやられっぱなしだったウィリアムスは、ペースを変える為に、開幕でダッシュを使用し距離を詰める。

 それを見たトウカは、射程圏に入るであろうタイミングで、もっさりとした大太刀を振るう。


 今まで通りなら、当たっていた大太刀だが無情にも空を切り、硬直状態になるトウカ。


 ウィリアムスはダッシュを途中で止め、トウカの大太刀を寸のところで躱す。そして、躱すと同時に再ダッシュ。ここまで六本あるマナゲージを、4本消費し懐に飛び込む。

 小振りなモーションで、トウカの腹部をランスで2回突く。彼女が攻撃を受けふらついている所で、ウィリアムスが青白く光る。

 数十、いや数百回にも及ぶランスでの連続攻撃。ウォールオブランスを、マナゲージを消耗しながら放つ。しかも、2回。


 開幕早々マナショートを起こしたウィリアムスだが、それによって得た物は大きかった。コンボ攻撃でトウカは後ろに押し出し、画面端に追い詰める事に成功した。


「いいぞー! 九頭竜さん。そのまま畳んじまえー」


 九頭竜の取り巻きは喜び、それ以外の面々が静まり返る。


 トウカの前には、ウィリアムス。後ろには、逃げ道を塞ぐ壁。さっきのお返しだと言わんばかりに、ランスの連続攻撃でなぶり、ジリジリと体力を奪っていく。


 気づけば、トウカの体力はミリ。ちょっと小突くだけで、ノックアウトの絶体絶命のピンチへと追い込まれていた。

 ヒットアンドアウェイで、付かず離れずの距離を保っていたウィリアムスは、再び接近し攻撃を試みる。

 が、そんな彼の首元を目掛け、大太刀が離れる。


「読めてんだよ、ヤケクソ大太刀はよお」


 バックステップで、大太刀の回避に成功。そのままダッシュで接近し、フィニッシュに持ち込む。


「っしゃー! コレで決めるぜ」


 健人を応援するギャラリーが、肇が頭を抱えた。駄目なのか。皆が絶望するところに。ぐあっと言うボイスが響く。


 ウィリアムスが見えない何かが当たり、仰け反る。攻撃を受け硬直した所に、左手の太刀で上から叩き切る。


「その当て身、見えざる刃じゃねえか。2フレーム目押しだぞ。マグレだ! 初心者のマグレに決まってる!」


 トウカから放たれた大太刀をかわし、ウィリアムスが再び懐に潜り込むも、また何かに当たりふらつく。


「コレだよコレ。僕はコレがやりたくて、トウカをプレーしてるんだよ」 


 近づけば、見えざる刃のカウンターから、太刀でバッサリ。離れれば、大太刀でなぶり殺される。主導権を取り返したトウカは、ミリ残しの体力で凌ぎ、ウィリアムスから1セット先取し王手をかけた。

 

 続く第二ラウンドもこの流れは変えられず、状況はウィリアムスの劣勢。


「畜生、畜生。マイハニーと付き合う俺の野望が、こんな初心者のせいで……」


「お前には、肇先輩は相応しくない。肇先輩のと付き合うのは、この僕のだああああああ!?」


 トウカの右手から放たれた大太刀、それがウィリアムスの胴部を切り裂く。彼の体力はゼロとなり、地面にバタリと倒れ込んだ。


 トウカ、ウィン!


 カフェが今日一番の歓声に包まる。常連達は絶叫し、健人の勝利を喜ぶ。


 その光景を見て、右手を上げガッツポーズをしようとしたのだが、その前に肇が抱きついていた。


「健ちゃん、ありがとう。わたし、アイツと付き合わなくてすんだし、コレから絡まれなくて済むんだよ。本当に……本当にありがとう、健ちゃん」


 余程嬉しかったのか、ガッシリと健人に抱きつき、離れようとしない。


「せせせ、先輩。離れて離れて。公衆の面前ですよ。あ、でも柔らかい」


 人生初の経験に、思わず理由のわからないことを言い出す。


「いやだって、私は健ちゃんのものなんでしょ? だったら」


「いや、アレは何か。勢いで言っちゃったと言いますか……と言うか、肇先輩は僕のものとまでは言っていないから!?」


 それを見ていたギャラリーは、ヒューヒューおめでとう! 幸せに爆発しろ等、二人を祝福したのであった。

解説 トウカの当て身、見えざる刃。


↓↙←パンチキック同時押しを、2フレーム目押しを要求せれる当て身系の必殺技カウンター。


ちょっとでもズレたら失敗する為、それをうつならガードした方が良い。使いこなしたら強そうと言われている。


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