迷惑ゲーマーを、ぶっ潰せ!
「おめースゲーな。始めて数時間で、トウカ・サカザキをあそこまで動かせるのか。俺達は、おめーを歓迎するぜ。あ、マスター! フライドチキンとパフェも追加で。あと、今日の飲み食いは、全部オレが払っとくから」
先程まで健人を囲んでいた常連メンバーに、ジンジャーを買ってきた肇も加えて、新人可愛がりパーティーと言う歓迎会が始まったのだ。
「可愛がりって、こう言う意味だったんですね」
「おうよ! ゲーミングカフェグランプリボス名物、新人可愛がりパーティーだ。新しく始める奴は皆で可愛がる、ココの伝統行事さ。
それに、俺も初心者の頃には先輩達に可愛がられて、色々助けてもらったもんだ。だから、何かあったら俺達に相談しろよ」
「最初はどうなるかと思ったけど、メッチャいい人達だ。凄く、暖かい」
ジュースに、チキンでワイワイと盛り上がっていたのだが、3人組の客が入店した途端、空気がピリついた。
「うわ、アイツが来やがった」
軽薄な笑みを浮かべたブレザーの学生が、前を歩き。その後ろには、取り巻きと思わしきガラの悪い少年がツカツカと歩き付いていく。
「あの人、何者なんです?」
「神奈川学生ランク6位の、マナショートの九頭竜。腕は一流、性格は最低の、迷惑ゲーマーさ」
可愛がりパーティーを開いてくれた店の常連から、笑顔が消え険しい表情なっていく。彼と常連の間に、何かがあったのだろう。
「おー、マイハニー肇! 今日もアフロディーテの如き、美しさだね」
このセンスが悪く、時代錯誤なアプローチに、肇ですらドン引きをする。
「九頭竜君かー、プロポーズはお断りしたはずだけど。それでも来るんだねー」
「十回のプロポーズ失敗が何だ! 十回失敗したなら十一回。百回失敗したなら百一回。何事も努力をすれば、いつかは報われる。そう、プロポーズも一緒さ」
九頭竜の駄目な方向なアグレッシブさに、肇は右手で頭を抱え俯く。
「私は何回も、断ってるんだけどなー。警察はストーカーだって言っても、動いてくれないし。どうすれば……ん?」
肇は、健人の顔を見つめるなり、何かを考え始める。そして考えが纏まると、邪悪な笑みを浮かべながら、九頭竜に提案をしたのだ。
「九頭竜君と、付き合っていいよ。あたしが出す、条件をクリア出来たなら」
付き合ってもいいよと言う発言に店内はざわつき、隣にいた健人に至っては、慌てふためく。
「ほ、本当かい!? マイハニー」
「あたしが出す、条件をクリア出来たらね」
「して、その条件は?」
「今日からファンタズムバトルを始めた、格ゲー初心者健ちゃんに、2先で勝ったら付き合ってあげる。その代わり、負けたら私に二度と関わらないで」
この提案に、九頭竜は勿論OK。だが、決闘の代理人にされた健人は、たまったものではない。声にならない悲鳴を上げたのは言うまでも無い。
◇
恋人関係をかけた世紀の一戦を迎えるにあたり、肇は健人にありとあらゆる知識を、30分と言う限られた時間で叩き込んでいく。
トウカ・サカザキを使う上での立回りと注意点。九頭竜の使用キャラと、人対策。普段の陽キャであっけらかんとした表情は消え、メンターとしてのキリッとした表情に切り替わっていた。
「で、九頭竜君はマナショートのデバフ上等な、ゲージ使い切りな攻撃的なスタイルなわけ」
「ふむふむ」
「けど、攻守の切り替えは上手いから、マナショート状態のデバフの時はキッチリ守って、カウンターを食らわしてくる。
相手がデバフ状態だからって、前のめりになり過ぎない様に、注意してね」
「了解です」
そして、一通りの事を伝え終えると、何時もの今時ギャルの明るい表情に戻ったのだ。
「よーし、九頭竜君を叩き潰してこい」
「ところで先輩、付き合うの意味理解していますよね?」
「え? 付き合うって、お買い物に一緒に行ったり。映画館に行くって意味だけど。プロポーズにOK出すわけ無いじゃん」
この人、距離感バグってるんじゃなくて。人付き合いが壊滅的なのでは? と、健人は口に出しそうになるが、グッと堪える。
「あのですね、付き合うと言うのは、世間一般では恋人になる事です」
自分がトンデモナイ提案をしてしまったと、今更ながらに気がついた。
「ちょちょちょちょっとまって! あたし、アイツの恋人なんて、絶対にになりたくない。だから、勝ってきて」
肇の顔はみるみるうちに青ざめ、涙目になる。そして気が動転しているのか、健人の肩を掴みガクンガクンと首を揺さぶる。
「たたた高柳先輩、ストップ落ち着いて。僕が勝って来るから、大丈夫です。それに、あの程度の腕の迷惑ゲーマーには負けません」
「本当?」
「ええ。二度と立ち上がれに位に、叩き潰してきます」
◇
肇の運命をかけた2先が、幕を開けようとしていた。
店の奥の、巨大スクリーンに前に置かれた、フューチャー席に両者は座る。
健人の使用キャラの和風女剣士、トウカサカザキが1P側。
一方九頭竜の使用キャラは、首から下を甲冑で固めた金髪のハイエルフ。槍使いの、ウィリアムス・ハンセンが2P側。
対戦まで残り数十秒と言う所で、ふーっと息を吐き「ゲットレディ」と、つぶやく。
「ゲットレディだって。降参の準備ってか?」
「降参、いい得て妙だ」
「お望みどうり、ソッコーでカタ付けてやんよ!」
ラウンドワンファイト!? と、開始を告げるコールがカフェ内に響き、ゲーム開始。
九頭竜は予告通り、槍使いのウィリアムスが先に仕掛けるかと思われたが、トウカの抜刀の外でピタッと止まる。
止まったかと思ったら、一歩前に進み抜刀射程圏ギリギリで下がる。
前後に移動し、付かず離れずを繰り返し攻撃の空振りを狙う。
それに対し健人は、抜刀準備からキャンセル。準備キャンセルと、一歩も動かないが何時でも行けるぞ、と九頭竜にプレッシャーをかける。
「コイツビビって動かねーのか、ならこっちから仕掛けー」
トウカが鞘から大太刀を抜き、ウィリアムスをバッサリと切りつける。
「あいつ……俺が下がるチョイ前で一歩踏み出して、切りつけやがった」
健人のトウカが、ファーストアタックに成功。静かな睨み合いが終わり、静から動のフェイズに移った。
解説、マナショート。
このゲームはマナゲージのマナ使用し、強力な攻撃やダッシュ。マナブロックを繰り出すことが出来る。
マナの使用は強い行動だが、マナを使い切るとマナショートをおこし、強烈なデバフが付与される。
基本的には、マナショートを起こさないほうが良い。
だが一部のプレイヤーは、マナショート上等の強行動で相手を押し切る、マナショート前提の立ち回りを好む者も居る。